第126話 まだ知らないオハナ

俺とサーチェは魔王様の居城でお世話になっている間に、オハナの事を色々と訊いて回る事にした。

仲間たちを助ける為に主に動くのはオハナみたいだし、「まずはオハナの事を少しでも知りたい」とサーチェが願ったからだ。

自発的に他者を信じようとしている事が俺は嬉しかった。

だからオハナをすぐ近くで見られるようにダンジョンに行きたいと魔王様に頼んでみたらあっさりOKが出た。

その日に向けてオハナについての情報が欲しかった。



「オハナ………だと?悪いが妹の前でその名を出さないでくれないか」

「(ブルブルブルブルブル――――――)」


七牙のラグゥ、リグゥ兄妹からの回答はこれだけだった。

妹のリグゥは涙目で蹲って可哀そうなくらい震えていた。


何をされたらここまで怯えられるんだ?



「オハナか、そうだな………戦闘では頼りになる。彼女の悪辣さは私も見習いたいものだよ」


クククッと悪い顔で笑うテーリカ、背筋にうすら寒いものを感じた。

それに対して――――――。


「オハナ?そんな事よりどうだッ!!?いつにも………増してッ!!俺の………筋肉がッ!!輝いてるとはッ!!!思わない………かッ!!?」


サーチェに向けて色々とポージングを変えながら近付いて来る変態――――――じゃなかった、ファガン。

いや、でもまぁこの際だから変態で良い気がする、うん。

俺はサーチェの盾になる様に前に出て、ゆっくりとポージング変態と距離を取る。


「サーチェ、見るなよ。目と脳が穢れる」


その後も何かにつけてポージングする変態から逃げる事でサーチェを守りきった。

もう二度とアイツには近付かない。

目を閉じれば大胸筋がピクピク動くのを思い出して気分が悪くなる。



「オハナさんですか?」


魔王様の側近であるアシュワン、側近なのに影の薄い彼にも話を聞いてみる事にした。


「そうですねぇ………彼女は強くて、頼もしくて………死にたくなります」

「何でだ!?」


即座にツッコんでしまった。


「アレイスター様の側近である僕よりも遥かに強いんですよ?僕要らないじゃないですか、僕の存在意義とか全否定じゃないですか………ハハハ」


目が虚ろなのが怖いんだが?誰かコイツを休ませてやれよ。

サーチェが俺の後ろに隠れて服の裾をキュッと握ったのが判る。

俺はまだ虚ろな目で笑うアシュワンを放置して、サーチェを連れてその場から立ち去った。


側近のフェンネルにも話を聞こうとしたんだが――――――。


「もう少し………あともう少しで報告書が書き終わる………そうすればアレイスター様に逢えるぅ…………」


バッキバキにキマった目をして執務机に向かうフェンネルを見て、俺とサーチェはそっと彼女の執務室のドアを閉めた。


魔王軍は何かしら何処かにブッ飛んで帰って来られなかった連中しかいない、想像以上にヤバい所みたいだ。






そんな日々を終え、碌に参考になりそうな意見も得られないままオハナのダンジョンへとやって来ていた。


「行くぞ」

「うん」


俺とサーチェは絶対に離れない様に手を繋ぎ、ダンジョンの入り口に入って行く。


「お待ちしておりました。サーチェ様とカーマイン様ですね、私このダンジョンの主であるオハナ様のダンジョン運営を補佐しておりますサンガと申します。お二人のダンジョンでの生活のサポートも務めておりますので気兼ねなく何なりとお申し付けください」


ふよふよと俺たちの前に飛んできたサンガと名乗った球体は、そのまま背を向けて俺たちを案内してくれようとして…………。


「な、何をなさるのですっ!?」


………オハナの眷属らしき魔物たちに絡まれていた。


「何度も説明したではありませんか!!お二人がダンジョン内で生活する事への不安を少しでも軽減するためにオハナ様が私を遣わしたのだと!!それは決して眷属の皆さまが頼りにならないというわけではなく――――――」


あれよあれよという間に、俺たちのサポートを名乗り出てくれた奴が攫われて行ったんだが!?


その場に取り残される俺たち、


「これからどうするの………?」

「いや、俺に聞かれても………」


二人して途方に暮れていると、


「どもーッス。連れ去られたサンガの代わりに派遣されたカナきちッス、よろしくッス」


俺たちの前に魔法陣が出現して、そこから妙にハイテンションなバンパイアが現れた。


「あの………さっきの………助けなくて良いんですか?」


サーチェがおずおずと尋ねると、カナきちは笑い始めた。


「良いんスよ。寧ろサンガが尊い犠牲になってくれてる間に移動しないと、自分も何気に危ういんスから」


………オハナは何故眷属の犠牲になりそうな者を派遣したんだろう?――――――と言うより、眷属に好き放題させ過ぎだろ!!?笑いながら言う事か!?

まさか最初からサンガを犠牲にするつもりだったのか!?


「いやー。オハナさんの眷属はオハナさんの事が好き過ぎッスからねー。本当はお迎えも自分たちが行くって断固主張してたんスけど、オハナさんに素気無く却下されて今絶賛八つ当たり出来る相手募集中なんスよ」


「いつもならダンジョンに挑んでくる人たち解消してくれてるんスけどねー」何て気楽に言いながら俺たちの案内を務めてくれるカナきち。


「オハナは眷属を抑えたりしないのか?」


俺の問いかけにカナきちは妙に遠い目をして、


「………3号と7号ツートップを一番最初に抑え込んでるだけ、まだオハナさんは頑張った方ッスよ。あの二人を本気で止められるのはオハナさんしか居ないッスからね」


最初のハイテンションが嘘のように一気に萎んでいた。

何か俺の知らないところで壮絶な戦いがあったみたいだ。


「カーくん………」


サーチェの声が今にも泣きそうになっている。

けど今更怖気づいてもいられない、魔王様の側近や七牙以上にヤバい気配を感じながら俺はサーチェを安心させるために強く握るのだった。

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