第119話 想いよ届け!!(笑)
〖第二回世界大戦〗後の公式イベントだから、あまり介入するのも良くないと思って流れに任せてたけど、ここまでギスギスするとはね。
不安そうに袖をつかむプリムさんの手を取り笑って頷いて見せると、プリムさんも同じように笑顔を返してくれた。
…………………せめてこの信頼には応えなきゃね。
決意を新たにしたものの、どうしたものかなぁ?と困っているオハナの視線の先に勇者さんに意見したエルフの男の人が目に入った。
さっきから見てたけどこの人、表情は穏やかながらも目が戦場にでも居るかのような緊張感を放ってる。
それにさっきからチラチラこっちを見てくるんだよね……………警戒されてる?
勇者さんを宥め賺すだけならばそちらだけに意識を割いてれば良い筈、それなのにこっちを気にする素振りを見せてるって事は――――――。
「………オハナさん?何か悪い顔になってますよ?」
「プリムさん、一緒に悪役になってみませんか?」
「はい。喜んで――――――ってどうかしましたか?」
「いえ。気持ち良いくらいの即答だったのでびっくりしただけです」
「だってオハナさんと一緒にっていうだけでもう楽しそうじゃないですか、私だけじゃなくて皆もそう思っていると思いますよ?」
「面白そうな話してるじゃあねぇか勿論ワシらも参加するぞ、なあ婆さま?」
「えぇ。わくわくしますね」
「自分も!!自分もやるっス!!」
「わ、私も頑張りましゅ!うぅっ、嚙んじゃったぁ………」
オハナダンジョンの皆も乗り気で一緒に悪巧みしてくれる。
オハナダンジョンの皆はあったかいね!
勇者さんを宥めようとして最初のエルフの男の人以外にも他種族の男の人たちが勇者さんを取り囲んでいた。
調停役だと思っていた石像は沈黙を貫いている。
話し合ってる限りは口出ししないつもりなのかな?
まぁオハナたちもその間に色々相談できたから全然構わないんだけど、魔王さんたちがニヤニヤしながらオハナたちを見てくるのがちょっと不快。
「其方の手腕見せてもらう」
………見てくるだけじゃなくて、魔王さんから直々にそんなありがたい御言葉を賜ってしまった以上、無様は晒せないね。
「―――――そういえば勇者さんは知ってるんスか?」
気さくな態度と大きな声でカナきちが勇者さんに話しかける。
まず始めは警戒されてるオハナよりも当たり障りのないところから攻める。
「…………急に何だ?」
周囲の人たちからの説得にうんざりしてたのか、勇者さんは警戒しながらもカナきちの言葉を拾い上げる。
「よしなよカナきちちゃん、勇者さんだって知ってるに決まってるよ」
興味を引いたところで、すかさずホタルちゃんがその先を言わせないようにする。
「もしそうだとしたら随分とえげつねぇマネするもんなんだなぁ」
「なりふり構わないにしても勇者さんは無関係であって欲しかったわぁ」
悲哀に暮れるコテツさんとワヲさん、多少芝居掛かってるけど勇者さんの興味をグッと引き寄せられたっぽいので問題なし。
勇者さんを取り巻いている人たちも、オハナたちが何を言うのか気になったみたいで説得を一時中断してくれたのは好都合だった。
「サーチェとカーマイン、あの二人って実は…………ああっ!!私の口から言うのも憚られます。何と悍ましい!」
プリムさんも大袈裟に話す、けれど肝心な事は言わない。
だけど伝えたい人たちにはちゃんと伝わったみたい、勇者さんの取り巻きたちの顔から一斉に血の気が引いて行って真っ青になったんだもの。
その人たちが同じようにゆっくりとオハナに視線を向けてくる。
「………………」
オハナは何も言わない。
何も言わないけど、悪役にありがちな口の端を吊り上げた笑顔だけを見せて応えてあげると今度は顔色が青を通り越して面白いくらいに真っ白になっていた。
さぁどうするのかな?
勇者さんにバレたくないんだよね?
自分たちが直接か間接かは知らないけど関わっている非道な実験の事。
今此処で正直に話して勇者さんの怒りと不興を買う?
そんなことするわけないよね?
此処まで欺き騙し続けてきたんだもの、嘘で塗り固めた誤魔化しでその場を取り繕うに決まってるよね。
じゃあ勇者さんを今以上に必死で説得しないと、ね?
そうでなければオハナたちがバラしちゃうかもしれないよ?
――――――とか、まぁそんな諸々の…………。
想いよ!届けっ!!(※オハナ暗黒スマイル中)
「何なんだ!?さっきから気色の悪い笑顔を浮かべて、一体何を――――――!!」
「勇者様!!!二人の事は本当に残念で、誠に遺憾ではありますが、此処は我ら全体の利益を考慮して頂きたい!!」
「そうです!!二人が魔王の下に行く結果となるのは
「次こそ我々は勝利せねばならないのです!!」
さっきまでとは熱量が段違いの説得に、勇者さん含め側近の人たちも口を挟めずにいる。
取り巻きの人たちの必死のフォーメーションで、勇者さんがさっきまでのオハナたちの話の内容を尋ねるスキを与えないようにしてるのも見てて面白い。
「……………解った。お前たちも辛いのを堪えていたんだな、そうだというのに僕は…………軽挙妄動だった。次だ、この悔しさを糧にして次こそは我々が勝利する、そして勝利した暁には二人を必ず助けるんだ!!」
うんうん。
やればできるじゃないのキミたち。
最初からそれくらいの必死さを見せてもらいたいものだね。
まぁまだこの人たちはオハナが緊急クエストを受けたことなんて当然知らないだろうから、この場を上手くやり過ごしたとしても遅かれ早かれ破滅するのには変わりないのよね。
だってサーチェやカーマインのお仲間さんたちはオハナがどんな手を使っても助け出すつもりだもの。
「魔王、今回はその提案を受け入れよう。だが二人への狼藉は許さない」
「問題ない。二人にはそれなりの待遇を用意しよう」
オハナたちの茶番を見過ごしてくれた魔王さんは結果に満足してくれたのか、立ち上がり勇者さんへ握手を求める。
それを勇者さんは突っ撥ねる事も出来ず、苦い顔をして応じた。
「無事合意できたようで何より。これにて〖捕虜交換〗を終了とする」
そして今までオハナ以上に空気だった進行役の石像が〖捕虜交換〗の終了を宣言したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます