第118話 不要なものは押し付けろ!!
「…………それについてなのだが――――――」
淡々と言葉を続ける進行役さんを遮って、魔王さんが口を開く。
「――――こちらが提示する条件を呑めば勇者勢力に不利な〖攻撃力・防御力微増〗の効果を消し、場合によっては他の加護についてもその効果を引き下げても構わないと思っている」
魔王さんが提示したのは譲歩案だった。
勇者さんたちからすれば加護を消してくれるなら願ったり叶ったりな状況なんだろうけど、提案してきているのが他ならぬ魔王さんだから警戒して誰も何も言えなくなってる。
「…………………」
あの勇者さんでさえ警戒を強くして訝しむ様に見ているんだもの。
向かい合っているオハナからは勇者側の人たちの顔が良く見える。
皆その譲歩案に飛びつきたい、でも何を言われるかわからないから怖くて何も言えないって感じかな?各々複雑そうな顔をしている。
「そう警戒するな…………と言っても今のお前たちには無駄だろうが、まずは話くらいは聞いてみても良いのではないか?それがどうしてもお前たちの呑めない要求なのであればその時には断れば良い」
「………………………分かった。聞くだけ聞こう」
魔王さんの言葉に、勇者さんが苦悶の表情を浮かべながら応じる。
返事するまで時間がかかってたから、色々と葛藤したんだろうね。
勇者さんが渋々話を聞く対応をとったことで勇者勢力の皆さんの空気も若干弛緩したように感じるけど、安心していいのかな?寧ろこれからが気を引き締めなきゃいけない事案だと思うんだけど。
魔王さんは勇者勢力の人たちの雰囲気が落ち着くのを待ってから、何てことないように話し始めた。
「お前たちが捕虜にしている三人だが、そちらで引き取ってもらいたい」
捕虜にしてる三人って…………バルシュッツたちだよね?
何言っちゃってるの魔王さん!?
魔王さんの言葉に驚いたのはオハナだけじゃなかった。
勇者さんを含め、勇者勢力に属する人たちも声には出さないが驚きに目を見開いていた。
「あれらはこちらに
あの~魔王さん?「戦力的にも足りている」の部分でオハナを見ながら言うのは止めてほしいんですけど?しかもはっきり「必要がない」って言っちゃったよ。
確かにオハナは魔物だから魔王勢力の一員だけど、そうやって大っぴらに戦力扱いされちゃうとなんだかなぁって感じ。
勿論そんな事を相手に悟らせないように顔には出しませんけれども。
「…………わからないな。捕虜三人をこちらが引き取るだけで加護を減らす?あの三人はそれほどまでに弱くは無かったはずだ」
良かったねバルシュッツたち、弱くは無かったんだってさ?
〖第二回世界大戦〗中はかなり圧倒していたように見えたけど、勇者さんもそれなりに実力を認めてはいたって事かな?
「其方も理解しているだろう?あれらより、此処に居るオハナの方が何倍も厄介であると」
ちょっと魔王さん?強いじゃなくて厄介ってどういう事!?
その言い方だとオハナが何かすごいめんどくさい子みたいじゃない!?
「…………………」
そして勇者さんが否定さえしない!!?
何その「確かに」みたいな表情!!せめてオハナの前では隠してよ!!
「心中お察しするっス」
「勇者さん、オハナさんとこれからも戦わないといけないんですもんね」
「考えただけで胃が痛くなる話だなぁ」
「本当に、大変ねぇ」
カナきち、ホタルちゃん、コテツさんにワヲさん、後でちょっとお話しようか?
何故に勇者さんに同情的だし。
「………だがその三人を受け入れればこちらの戦力は増えることになる。加護まで減らして一方的にこちらが利する事になるのは――――――」
「そこで、だ」
勇者さんの言葉を魔王さんが途中で遮る。
「サーチェと、それにカーマインだったか?その二人を此方で貰い受けよう」
ここであの二人を要求するんだ?
でもこっちは三人押し付け………じゃない、戦力を差し出して加護まで減らしてる。
それに対する要求としては少ないくらいなんじゃ――――――。
「ふざけるなッ!!!!!」
その声はテーブルを叩いて勢いよく立ち上がった勇者さんのものだった。
表情は怒りに満ちていて、視線は只管に魔王さんだけを睨み続けていた。
「サーチェは、彼女は目の前で両親を魔物に殺されているんだぞッ!!」
あぁそういえばそういう設定(嘘)だったね。
カーマインの方もきっと似たような嘘設定をでっちあげて勇者さんに吹き込んでるんだろうなぁ。
そう考えると、勇者さんがとっても可哀そうに見えてくる。
「そんな彼女をお前たちに渡せるわけが――――――!!」
激昂する勇者さんを止めたのは後ろに控えていたエルフの男だった。
勇者さんの手を引いて止めた男は穏やかな笑みを浮かべて、
「お待ちください勇者様。たった二人の人間を差し出すだけでこちらは戦力が増え、彼方の加護をも減らすことが出来るのです。何を迷う事がありますか」
うん。まぁ合理的に考えればそうなんだろうけど、そんな素晴らしい提案だみたいに言わなくても良いと思うの。
勇者さんの纏う空気がガラッと変わったのが判る。
「ローウィン様、落ち着いてください」
それは向こうも同じようで、まず同席していた騎士風の男が席を立って勇者さんを抑えにかかる。
此処が戦闘禁止じゃなければ、今にもエルフの男を斬り殺しそうな雰囲気だ。
魔王さんたちはそんな勇者さんたちの諍いを楽しそうに見てるだけだし。
「オハナさん…………」
プリムさんも雰囲気が悪くて居心地が悪いらしく、オハナの袖を不安そうに摘まんできた。
ホタルちゃんとカナきちも不安そうにしていた。
…………やっぱり一緒に遊ぶお友だち兼雇用主としてはさ、ダンジョンメンバーの皆の不安を見過ごしちゃいけないと思うの。
ここまで空気に徹してたけど、介入させてもらっちゃおうかな?
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