第105話  オハナはまだ下っ端ですが何か?

カーマインはすぐさま周囲にいた兵士たちによってオハナから引き離され、それ以上の言葉は聞けなかったけれど、オハナを真剣な目で見つめたまま口だけは動いていた。


『頼む』


オハナに読唇術の心得があるわけじゃないけど、そう言ったんだって確信するくらいにハッキリと伝わってきた、彼の気迫がそうさせたのかもしれない。

彼はサーチェの知り合いかお友だちなのかな?

それにしても敵であるはずの魔物、しかも捕縛した張本人のオハナに頼み事する?

本来なら聞いてあげる義理はないんだろうけど、鉄球を壊した後の彼女の様子を思い出したのと今現在兵士たちに取り押さえられながらも決して目線をオハナから外そうとしないカーマインを見てたら、断るなんてできそうになかった。

だから彼に向って了承したと伝えるために微笑んでみせると、彼は今にも泣きそうなくらいに顔を歪ませた後、オハナに向かって頭を下げた。


どうなるかはわからないから感謝するのはまだ早いと思うんだけどね?

サーチェが今どういう状態で、オハナは彼女を何から助ければいいのかまだ知らない、もし魔王さんや勇者から彼女を助けてあげてとかだったら、オハナはこの依頼を悪いけどガン無視させてもらうつもりだもの。

まだまだオハナはあの二人を敵に回したくな……………一人はもう手遅れだったわ。


オハナはどこぞの万能の願望器や玉を集めて呼び出す神なる龍じゃないからね。

『どんな願いでも聞いてあげる』っていうスタンスの駅前とかに居る占い師感覚の只の魔物だもの、『叶えてあげる』だなんて下手な安請け合いはしない。

さてと、そのためにもまずは…………、


「フェンネル、悪いんだけどこちらから面会したいと言ったら会わせてくれる?」


「それはアレイスター様に確認してみない――――」

「構わない」


部屋の中に魔王さんの声が響いてきた。

あら?もしかして盗み聞き?それじゃあさっきのカーマインの頼みも聞こえてたのかしら?


「安心しろ。他言はしない」


………………良い趣味してますね?


心の中だけでそう呟く、声に出すようなマネはしない。

オハナを魔王城で死んだ最初のプレイヤーになんてしたくありませんからね。

それは人間側の命知らずなプレイヤーさんの為に残しておかないと。


「それじゃあお言葉に甘えて、サーチェという子と話してみたいのですが?」


「わかったわ」


フェンネルはすぐに眷属を使ってサーチェを呼びに行かせた後、


「貴方たち三人の面会はこれで終了よ、連れて行きなさい」


兵士たちに指示を出して三人を部屋から退出させると――――。


「……………次の面会者を連れてきなさい」


フェンネルは何故かどっと疲れたような声を出した。

三人の時はそうでもなかったのに…………もしかしなくてもクロードのせいだよね。

彼の最期に見た恍惚とした表情を思い出し、ゲームの中なのに寒気を感じて身震いする。

会いたくないなぁ……………ゲームの中とは言え、男からの熱烈な視線とか迷惑でしかないし、はっきり言って気持ちが悪い。

ストーカーされる側の心理というものはこんな感じなのだろうか?


…………前にも言ったけど最新の技術使って何やってるの?

このゲームってちょくちょく余計な機能出してくるよね?

何なのこの仕様?改善を要求するよ?


プリムさんの世界樹周辺の草抜きクエストだったり。

眷属たちがフリーダム過ぎて子育て問題に発展したり。

世界樹の花粉の副作用だったり。

オハナがちっともRPG出来てないことだったり。


人によってはトラウマものだからね?

え?最後のはそんなのオハナだけだろって?そんなわけ…………ないよね?

きっとオハナ以外のプレイヤーさんもきっと子育て問題に発展しているとオハナは信じています。



会わないっていう選択肢はマオハラによってすり潰されてて跡形もなかったクロードとの面会、仕方がない。カモがネギ背負って猫まんまと来ちゃったオハナはまだ下っ端魔物なんだもの。


………………!!!

だからって〖七牙〗とかいう名前の権力が欲しいって意味じゃないからね!?


誰にともなくそんなことを考えていると、部屋の外が騒がしくなってきた。

元気いっぱいに近付いて来る足音と、それよりまだ遠くから「待てぇ!!」だとかの怒号が聞こえてくる。

元気な足音はもしかしなくてもクロードだろうなぁ。

衛兵さんたちをダッシュで振り切ってこの部屋に来るつもりかな?

そう思ったオハナはいそいそとクロードの歓迎準備を始めて―――――。


「オハナ様!!本日は念願叶って貴女様との御目通りが許されました!!このようなみすぼらしい姿で申し訳ありま―――ブフゥッ!?」


ドアを開け放つなり早口でそんな口上を垂れながら、オハナに駆け寄ろうとしたクロードの顔面に先制の5号パンチが炸裂した。

ゴロゴロと床を転がって壁に激突するや否や瞬時に起き上がり5号を睨みつけるクロード、それに対して5号は「それ以上近付くな」と言わんばかりにオハナの前に仁王立ちして――――。


まるでアイドルに不用意に近付こうとするファンとそれを阻むSPの様…………。


そんなことを思いながらオハナはちゃっかりと7号が入っている籠を大きくしてそこに5号と睨み合っていたクロードを収監する。

今まで好みの武器防具を前にして何もできなかったことでイライラが溜まっていたらしい7号はすぐにクロードに襲い掛かった。


「なんだ!?こいつッ!?ヤメロッ!来るなッ!ぎゃぁぁぁ―――!!!」


………………うん。きちんと話しができるのは7号のイライラが解消されてからになりそうかな?クロード対7号の金網デスマッチみたいになっちゃったけど、まぁ良いやクロードだし。


5号が褒めてって感じに見てくるから蔓で頭を撫でながらそんな事を考えた。

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