第104話 勇往騎士団の三者との面会
魔王さんとの謁見もそこそこに、オハナたちはフェンネルに件の勇往騎士団と面会するための部屋へと案内された。
何に使う部屋なのかはオハナにはわからないけれど、通されたのは壁に剣が数本飾られていて、床には赤いカーペットが敷いてあるだけの他に家具らしいものは何もない、けれどそこそこの広さがある部屋だった。
『多目的室』ってところかな?
そんな部屋が魔王城に必要なのかどうかはわからないけども。
因みにまだ7号は籠の中、だってすぐに廊下に飾ってある甲冑に片っ端から突撃して行こうとするんだもの。
そして今も部屋の壁に飾られている剣を見て、届くわけがないのに籠の隙間から懸命に手を伸ばしている。
防具だけじゃなかったかぁ…………。
7号のそんな様子を見て、「装備できないのに変な『癖』に目覚めちゃって将来がちょっと心配だわ」とか母親っぽいことを思ってみたりしていると、
「ここで暫しお待ちを、面会を望んでいる者たちを順次連れて―――――」
「クロード以外は一緒で構いませんよ?」
一人一人会うのなんて時間がかかるじゃない、どうせオハナを一目見るっていうのが三人の共通する目的なんでしょう?だったら捲いてこ捲いてこ♪
クロードには正直会いたくないんだけど魔王さんに「絶対会え」ってマオハラされちゃったから仕方ない、ただ何となく碌な事言わなさそうだから他の勇往騎士団の人たちと一緒に会うのは危険だってオハナの第六感が囁いて……………。
『クロードはヤベェって』(※天使と悪魔)
第六感キターーーーーー!!じゃなくて!!
呼んでないから!?あんたたちいつからオハナの第六感になったの!?
厚かましいにも程があるよ!?
『アレはガチだって』(※天使と悪魔)
聞いて!?無視しないで!?相変わらず自己主張が激しいなぁもう!!
しかも態々そんな事言われなくたって悲しいほどに解ってるよ!?
だけど魔王さんに言われちゃしょうがないじゃない。
『NOと言えないこんな世の中なんて――――』(※天使と悪魔)
はいはい。世の中往々にしてそんなもんだよ。
それでも世界は回ってんだよ、此処はゲームの世界だけど。
早々に妄想を切り上げてフェンネルの返答を待つ。
悩んでるみたいだけど、あれかな?逃げられるかもとか思ってるのかな?
幾ら魔王城全体が戦闘禁止エリアじゃないからって、彼らからすれば大人しくしていれば捕虜交換で
もし仮に騎士の名誉を守るために虜囚なんて―――――とか企てていたとしても、
「私が脱獄を許すとでも?」
そう思われてるなら激しく心外だ、勇者さんには敵わなかったけどそれなりに強いつもりだよ?
渾身のオハナスマイルを見せると、フェンネルはぶるっと短く身震いした。
5号と7号も一緒にぷるぷる震えているのはどうしてかしら?と思ったらいつの間にか無意識で〖威圧〗を放ってたわ。
「……………それもそうですね。ではすぐに三人を此処に連れて来させましょう」
フェンネルが何処からか取り出したハンドベルを鳴らすと、彼女の影から真っ黒な人の形をしたものが現れる。
「行きなさい」
フェンネルがそれだけを告げると、真っ黒なものは床を滑るように移動して部屋を出て行った。
「眷属に呼びに行かせましたので、すぐに部下たちと共に此処へ来るでしょう」
眷属ッ!?あの黒いのが!?
オハナ以外の眷属を初めて見たんだけどあの子たちとは随分と違うなぁ…………。
なんて言うか、粛々と従ってる感じ?がした。
「…………もしかして眷属って勝手に動き回るものじゃないの?」
「そんな眷属が居るわけな―――――」
オハナは無言で籠の中の7号を指差す。
(※どれだけ手を伸ばしても届くわけがなかったので、再び籠の中でジタバタ中)
5号も心なしか呆れてるように見えるわ。
「居るわけない」って続けたかったであろうフェンネルも、籠の中でジタバタしている7号を見て言葉を失くしちゃったみたい。
「………………これは何か病に侵されてしまい、もがき苦しんでいるという訳ではないのですか?」
「そんな子をわざわざ魔王城まで連れてきたりしないよ!?」
オハナはそこまで鬼畜だと思われてるの?
誰か意図的にオハナのこと悪く言ってない?
最も疑わしいのは今捕虜になってるバルシュッツだけど、帰ってきたら魔王さんに余罪の追及でもしてみようかしら?
叩けば叩いただけ埃が出てきそうだから叩き甲斐はありそうだよね?あの人。
まぁでも7号は『武器防具収集癖』っていうのかな?そんなのは間違いなく発症してるから
そんな事を思ったタイミングで部屋のドアがノックされる音が聞こえた。
「入れ」
まず最初に入ってきたのは手に槍を持って武装したフェンネルの部下らしき魔物がぞろぞろと十人ほど、その魔物たちの後に引かれるようにしてオハナと面会したいっていう三人が姿を現した。
一人は淡い緑色の髪をして、背には光の加減で色を変える羽の生えた目つきの悪い妖精族の少女。
二人目は暗いオレンジ色の髪、顔半分は髭に覆われて老けてるように見える、そして見えている地肌には無数の傷跡が残るドワーフ族の男。
三人目は暗い赤色の髪、『騎士』というには線の細いまだあどけなさの残る少年だった。
「…………アンタがオハナ?」
目つきの悪い少女が不機嫌なのを隠そうともしない声色で問いかけてきた。
妖精族って聞いてイメージするのは肩に乗りそうな手のひらサイズで羽の生えた人間、だけどこのゲームでの妖精族っていうのは人間の子どもくらいのサイズはある。
だけど目つきが悪いにもほどがあると思う、めっちゃ睨まれてるんだけど?
「すまんのぅ。キミーはお前さんの攻撃で眼鏡が割れて直っておらんのじゃよ」
ドワーフの男がフォローを入れる。
視力が低いなら仕方がないか、壊しちゃったのがオハナならば猶更。
それにしてもドワーフの人、背は二人とそう変わらないのに体格はがっしりしている。戦闘経験も豊富そうだし、歴戦の勇士ってやつなのかも。
「儂の名はダイダロ。そう警戒せんでも逃げたりはせんよ、もう暫く辛抱すれば国に帰してもらえるんじゃからのぅ。折角じゃからその前に儂たちを捕縛したオハナを一目見ようと願い出ただけじゃ」
なるほど立ち振る舞いは好々爺っぽく見える―――だけど目の奥が笑ってないのが隠しきれてないんだもの、あと挑発的な殺気が駄々漏れてますよお爺さん?
本当は悔しくて仕方がないのを堪えて『敵』の観察に来たのがバレバレですよ?
「気は済みましたか?」
態々オハナの力を見せてあげる必要もないので、オハナスマイル(営業)で終始応対する。
「おぉ!年寄りの願いに応じてくれてすまんかったな!」
ダイダロは豪快に笑うと殺気を引っ込めた。
オハナに応じる気がないという事を理解してくれたみたい、平和を愛するオハナの勝利だね。
そんな余計なことを考えていたせいで、その隙を突いたカーマインが突如オハナに向けて駆け出してきた事への反応が遅れてしまった。
「貴様ッ!!」
フェンネルの部下たちが一斉に槍を構えるのに見向きもせず、カーマインはオハナに頭突きでもしそうなほど接近すると、
「サーチェを助けてくれ―――」
フェンネルの部下たちの怒号に搔き消されることなく、そんな言葉がオハナの耳に届いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます