第88話 逃・が・さ・な・い・ぞっ♪
隠れてる彼らへの牽制を重点的にして、片手間に狂気っ娘の相手をしていたせいでオハナも3号も結構なダメージを負っちゃったけど、焦れた相手を一人減らせたからまあ結果オーライ。
それに言っちゃ悪いけど、もう負ける要素が殆ど無いんだもの。
だってこの狂気っ娘、3号眷属たちが復活するとそっちを優先して叩くんだもの。
だから3号眷属が復活出来るようになったタイミングでバラ撒いて、倒されて、バラ撒いて――――――の繰り返しでじわじわ削らせてもらったからね。
残ってるのは狂気っ娘と黒髪眼鏡とヒーラーのお姉さん。
「ハァ、ハァ………アハハッ」
そして現在その狂気っ娘はスタミナ切れ寸前なのよ。
片手間だったとはいえオハナと3号with3号眷属ズを相手に頑張った方じゃない?っていうのと、まだ笑ってる事に関しては素直に称賛しちゃおう。
だけど、どれだけ傷ついても戦意を失わない態度だけは素直に褒めたくない。
だからオハナは、その戦意を挫かせてもらうね?
狂気っ娘が渾身の力を振り絞って投擲して来た鉄球を、『殺劇抱擁』を発動して蔓で受け止めてそのまま齧りついた。
さすがにこれはダメージ負うかもと心配だったけど、一切のダメージ無く、巨大な金平糖を植物が齧ってるだけの絵面が完成した。
音は一貫してガラスが割れたような音なんだけど、いつもに比べて音が激しい気がするのはきっと気のせいじゃない。
狂気っ娘が慌てて武器を引き戻そうとするけれど――――――。
鎖の部分だけが千切れて彼女の処に戻っていった。
ふぃ~…………ごちそうさまでしたっと。
「あ、あぁ――――――」
瞬間、狂気っ娘の目から大粒の涙がこぼれて来ていた。
そ、そんなに大事なものだったの………………?
一族に伝わる――――だとか、両親の形見的なものだったりとか……………?
一族に伝わるトゲ付き鉄球……………それはそれで何か嫌!!
仮にご両親の形見だったとしても、何も娘にトゲ付き鉄球を渡さなくてももっと別な何かがあったはずでしょう。
「あり、が………とう」
何故に感謝するし?
………やっぱりトゲ付き鉄球が嫌だったの……………?
壊してくれてありがとう――――的な?嫌なら嫌って言えばいいと思うの。
言いにくいんだったら今からオハナが上司の人に言いに行ってあげようか?
多少(?)強引になっちゃうかもだけどこちらの要求を押し通す自信はあるよ!!
そのまま狂気っ娘は安らかな顔をして、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
その寝顔にさっきまでのあのイっちゃってる雰囲気は微塵も感じない、
「3号、ちょっとこの子見張っておいて?」
気を失う直前は穏やかな雰囲気だったけど、目を覚ました時にどうなるかわかんないもんね。
オハナの言葉にビシッと敬礼で応える3号。
あら?今日はやけに素直ね?ってもしかして………………。
「………………私が帰ってくるまで絶対殺しちゃダメだからね?」
オハナの忠告に全身でギクッとなった3号。
やっぱりか、そりゃさっきまで命のやり取りしてた相手だものね、3号の気持ちもわからなくもないんだけど、意識を失う前の穏やかな雰囲気が何となく気になっていた。
「絶対、絶っっつ対にダメだからね?フリとかじゃないからね?もし殺ったら今度から3号はお外に連れてってあげないからね?――――――貴方たちも3号が勝手なことしないように見張っててね?」
何度も花の部分を振って激しく頷く3号。
一応ダメ押しの意味で3号眷属ズにも注意しておくと、揃った敬礼を返してくれた。
オハナは一応3号よりも上位の存在として認識されてるみたいだから命令違反みたいなことはしないと思うけど、なにせ3号の眷属だしなぁ………………。
まぁ悩んでても仕方ない、ここは信じましょう。
3号はいつだってオハナに全力だけど、基本悪い子じゃないもんね。
蔓を伸ばして立体機動に入るオハナを、3号たちが蔓を振って見送ってくれた。
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戦闘音が………………止んだ……………?
僕とネーブルの二人はオハナとサーチェの居る戦場から離脱を開始していました。
それにしても身体が重い…………全身に鉛を括り付けているかのように、時間が経つほどその重みは増している気がする。
背後から響いてきていた戦闘音がピタリと聞こえなくなったのに気付いたのは離脱を開始してからすぐの事だった。
決着がついたのでしょうね。そしてしばらく立ち止まってみても一向にサーチェが捕縛されたという旨の天の声が聞こえてこない。
おかしい…………サーチェが勝ったということだろうか?
状況を確認したくて足が引き返しそうになる。
けれどそんな希望を打ち砕くように頭上を覆い隠す木々――――――それが激しく音を立てて揺れたかと思えば、突然背後から肩に手を置かれて背筋が凍り付いた。
「逃・が・さ・な・い・ぞっ♪」
耳元で甘く囁かれて急ぎ振り返って弓を構えるも、そこには誰も居ない。
そう、先ほどまで僕の隣にいたはずのネーブルの姿も忽然と消えていた。
そして――――――、
〖オハナ〗さんが、〖勇往騎士団〗のネーブルを捕縛しました。
天の声が響いてきて、ネーブルがどうなったのかを悟った。
「勇者側の情報が欲しいのであれば提供します!!だからどうか見逃してもらえませんか!!?」
今は生き延びることを第一に考えなければ、僕が勇往騎士団で居られなくなってしまう、それだけは何としてでも避けなければいけない。
「今後、魔王側のスパイとして行動しても良い!!僕を見逃してくれるのであればどんな取引にも応じましょう!!」
姿の見えないオハナに向けて声を張り上げる。
魔物との約束なんて守る必要はない。
今この場だけを逃れることができればそれでいい。
次は〖勇往騎士団〗全員と〖勇者〗を連れて来さえすれば例えオハナといえどひとたまりもないはず、その場で僕が裏切っていたとバラされたとしてもどうせ魔物の言葉なんて誰も信じない。
そうすれば僕は勇往騎士団のままで居られる――――――おっと、今だけは真剣に、真摯に訴えて見せなければ…………。
自然と緩みそうになる頬を慌てて引き締める。
弓を地面に落とし、やや芝居がかってるかもしれませんが、両腕を広げてその場でじっと静寂に耐えてみせる。
これでこちらに戦意がないことは理解できたはず――――――。
瞬間、両腕両足に激痛が走る。
「――――――!!!!!」
声にならない、言葉にもならない叫びが口からあふれ出す。
地面にのたうち回りながら恐る恐る腕を確認すると、そこには綺麗に刳り貫かれたような穴が空いていた。
きっと足も同じような穴が空いているのだろう、まるで力が入らない。
僕たち勇者勢力は装備が強力な分、魔物たちとは違いHPさえあれば何度でも四肢の欠損さえも回復するというわけではない、傷口に治癒を施してそこでようやく欠損や傷が治る。
ネーブルはもう居ない、反撃も、逃げることさえも、一瞬のうちに全ての選択肢を奪われた。
そしてゆっくりとこちらに近づいてくる彼女、その堂々とした雰囲気に手足の痛みも命乞いさえも忘れて圧倒されてしまう。
僕をこれから捕食しようと開かれた視界を遮るほど大きくて悍ましい口、その時の僕は恐怖からではない――――――雷に打たれたかのような激しい衝撃に感極まって涙した。
〖オハナ〗さんが、〖勇往騎士団〗クロードを捕縛しました。
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