第87話 そんなの絶対に許さないからね?
懸賞金額第一位の討伐対象である魔物『オハナ』。
この広い戦場で会うことが出来るなんて運が良い。
あの魔物の高額の賞金は魅力………引き連れている眷属の数も少ない今、是非ともここで仕留めておきたい相手ですね。
そのためにもまずは一時離脱しないと――――――。
オハナによって行動不能に陥ったレオに縋ろうとするネーブルの腕を掴んでその場を離脱する。
ヒーラー兼任の彼女までやられてしまえば僕たちの全滅は必至ですからね。
魔物を目の前に悠長に会話をしていた僕たちに油断があったのは確かだけど、まさかレオが最初に戦線離脱するとは思いませんでしたよ。
僕たちの戦術は一撃の威力が高いサーチェを前面に押し出し、僕が弓で援護、レオが盾でサーチェへのダメージの分散、ネーブルとビーン師範が魔法で能力の底上げを行うものだった。
大抵の場合、ヒーラーの役割も持っているネーブルが真っ先に狙われる。
けれど僕たちの戦術の要はレオだったのですが……………。
彼が反撃を受けやすいサーチェのカバーに入ってくれる事で、攻め一辺倒で暴走しやすいサーチェの行動の抑止にも繋がっていたのだ。
言ってみればレオはサーチェにとっての停止線であり、サーチェにもレオより前には出ないよう徹底させていました。
もしやオハナは僕たちの戦術の要がレオであると見抜いていた……………?
いえ、そんな筈はありませんよね。
この編成で狙われるとすればネーブルかビーン師範のどちらかの筈ですし、只の偶然、その筈、そうに違いないというのに漠然とした不安が拭えない。
サーチェの面倒も見なければならないのですが、この状況では最悪彼女を置き去りにすることも考えておかなければいけませんね。
僕たちが隠れている樹に向けて容赦なく弾丸を飛ばしてくるオハナ、此方の全員の居場所が完全に把握されている事にも驚きですが、頭を抑えられて出るに出られない。
そんな状況をオハナはサーチェと戦いながら形成している。
くっ!
サーチェの攻撃で此方への牽制の手が緩むかと思っていたのに、全く緩む気配がない。サーチェは何をやっているんですか!?
……………所詮は失敗作ということでしょうか、期待しすぎるのもよくありませんね。
彼女の代わりはいくらでも居ますし、置き去りにして撤退――――――そんな考えが強くなった。
サーチェの強化の付与に成功はしましたけれど、その効果もいつまで続くかわかりませんからあくまでも僕たちが無事に逃げられるまでの時間稼ぎ程度になってくれればそれで構わない。
勿論此方が消耗する前に決着がつくならばそれに越したことはないのですが。
そんな事を考えながら視線を彷徨わせていると、不意にビーン師範と目が合う、相変わらず血色の悪い御人だがこれでも僕たちの中では歴戦の勇士だ、どんな状況かだろうと落ち着いていて非常に頼りになる。
此方を見てますけど何か仕掛けるつもりなのでしょうか?
良いでしょう!僕もこの状況を打破するのは賛成です。
僕が頷くとビーン師範が一呼吸おいて魔法を発動する。
「アイスウォール!!」
氷の壁が幾重にも生成された。
それはオハナとサーチェが戦う場所を中心として、ドーム状に造られていた。
流石は師範だ、これだけのものをこんな短い時間で――――――。
でも、これでサーチェの援護が出来る。
ビーン師範、ネーブル、僕もそのつもりで同時に飛び出した。
だけど――――――。
「がっ!!」
氷の壁に守られているはずのビーン師範が突如血を吐いた。
抑えたわき腹から、じわじわと血が滲んでいるのが見えた。
撃たれた!?
氷の壁に守られているはずなのに何故!?
その答えはすぐに解った。
オハナの放つ弾丸が氷の壁を貫通して僕にも襲い掛かってきたからだ。
無理矢理身を捩って回避したつもりだったけど、腕が撃ち抜かれていた。
それでも痛みに耐え、這う様にして先ほどまで居た樹に引き返すことが出来た。
ネーブルの回復魔法で治療をしてもらったが、出来ればもう二度と味わいたくない。
「おのれぇ……………オハナぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
大声など出したところを見た事が無かったビーン師範の叫びが聞こえた直後、
〖オハナ〗さんが、〖勇往騎士団〗のビーンを捕縛しました。
天の声が響き、ビーン師範が敗れたのだと理解した。
噂には聞いて居たのですが、オハナが此処まで最悪のバケモノだとは思いませんでした。
「ど、どうするの……………?あんなの相手じゃサーチェがやられるのも――――」
僕の腕を弱弱しく引いたネーブルが目に涙を溜め、震える声で問いかけて来た。
捕縛されてしまうと、もう二度と〖勇往騎士団〗を名乗る事は許されない。
今の僕たちだけでこれ以上戦ってあのバケモノに勝てるとも思えませんし、〖勇往騎士団〗という立場はとても有用ですから失うには惜しい、損害をこれ以上出さない為にも取るべき道は一つでしょう?
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ふぅ~。
あいつらの隠れてた樹が偶然〖破壊不能オブジェクト〗なんだもんなぁ。
とりあえず横槍入れられても邪魔だから3号と躍起になって頭を抑えてたけど、魔法で氷の壁を造って突撃してきてくれたのはラッキーだった。
だってその氷の壁は〖破壊不能〗じゃないんだもの。
何枚重ねようが〖貫通〗弾で一撃だった。
そして運悪くその〖貫通〗弾が直撃したらしい不健康そうなおじさん(名前知らぬ)に集中砲火を浴びせて黙らせた後、こそこそ何か企んでそうな連中が大人しくなったのを感じた。
まさか………………逃げるつもりかしら?
この狂気っ娘たった一人を残して?
オハナには戦略だとかそんな小難しい事はわかんないけどさ。
――――――そんなの絶対に許さないからね?
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