第79話 解せぬ!媚びぬ!顧みぬ!

ず~っと七牙の二人を観察して思ったんだけど………強さ自体はあまり大したこと無さそう?もしかして本調子じゃないのかな?


私が見てるのは多分クマ型の獣人男女二人、とても仲がよさそうに見える。

茶色と黒の入り混じった毛が全身を覆ってるんだけど人型で二足歩行、身体は男の方はがっしりしていて、女の方は小柄に見える。

クマ型だから二人ともパワーファイターなのかと思いきや、軽装の防具を身に着けて、兄の方は大剣、妹は弓で戦うみたい。

素早い動きで兄の方が剣で攻撃すれば、妹もそれに負けない速さで弓を引き、矢を放って援護に回る。

連携は凄く執れてるから二人揃って相手にした時の実力は倍以上に補正される感じなのかな?それでもコテツさんとワヲさんの連携をいつも見てるオハナからすれば身内の贔屓目を抜いてもコテツさんとワヲさんの方が連携は執れてる。

それに時々意識を削がれてるみたいで、集中しきれていないみたいなんだよね…………危ないよー?集中しないと殺られちゃうよー?


何かちらちらこっち見てる気がするけど、バレるわけないよね。

だって周りにこれだけ樹々が生い茂ってるんだもの。

植物型魔物のオハナが此処に溶け込むなんて造作もない事ですもの。


そんな状態だったから、敵さんの数がだんだん増えて来たところで、二人に付き従っていた部下らしき魔物さんたちも徐々に圧され始めちゃってる。

ふうん…………個々の戦闘を見てる感じだと、七牙の部下よりも人間プレイヤーさんの方が実力としては上になるのかぁ。

そして気になってた七牙の実力だけど、もしかしてこの戦場では人間プレイヤーさんたちが力を合わせれば好い勝負が出来るくらいに調整されてるのかな?


何故かよくわからないけどそれくらい二人ともピンチに陥ってるっぽいし、助けてあげよっかな?〖捕虜〗になられても迷惑だし。



圧され始めている魔王軍に加勢する為、オハナは蔓を伸ばし樹の上に――――――。

そこから蔓の伸縮を繰り返して別の樹から樹へと飛び移っていく、僅かな力加減で身体全体が引っ張られて素早く移動出来てる。

立〇機動装置にも負けないくらいの高速移動、結構楽しくて暫くこれで遊んでいられそうではあったんだけど、真面目に移動のついでに敵の数を減らすことも忘れない。

照準は自動だから、この高速移動の中でもオハナはただ撃てば良いだけの簡単作業。


相変わらず安定のオハナゲーですが何か?


そしてまずは〖七牙〗の妹の方に斬りかかろうとしていたプレイヤーさんをロックオン!!

勢いそのままに横から突っ込んで行き――――――。


「殺劇抱擁ーーーーー!!!」


ばくん!!


このスキルの最初の犠牲(未遂)だった2号の様に身体が大きくなかったから、開いた口にそのままプレイヤーさんは呑み込まれた。

辛うじて両足は出てるけどプレイヤーさんは悲鳴も上げられずに死亡が確定、オハナの腰から下にある鋭い棘(牙)のあるメガマウスのような花(口)がモグモグと動き、オハナのHPとMPを回復させる。

噛む度に装備がパリンパリン割れてるけど、オハナはノーダメージなのね?

そして空中ブランコの様に蔓を放して一回転してからその場に着地した。


突然現れたオハナに、両方の勢力の人たちが呆然としちゃっているけど、オハナは魔物だもの。

ホントはどっちの味方でも無いんだけど、どっち側かなんて言わなくてもわかるよね?


「大丈夫ですか?」


「ひいっ!」


………………あれ?助けに来て声をかけただけなのに、〖七牙〗の妹の方に怯えられたんだけど?なんでだろう?地味にショック……………。

いやいや!きっと殺されそうになってたから、気が動転してるだけだよね!?


「あの…………」

「嫌ぁっ!!」


「大丈………」

「近寄らないで!!」


果敢に話しかけようと試みたけど、


「妹に近寄るな!!」


最終的に兄の方からも警戒されてしまっていた。

えぇー……………全然心当たりなんて無いんだけど?

どうしてだろうね?変に罪悪感は感じてしまう不思議。

でも、解せぬ。媚びぬ。顧みぬ。(訳:何か悪い事しちゃった気分だけど、何に謝れば良いのかわからないから、知らない事で謝る気なんて毛頭無いのでもう気にしない事にしたという意味)


うん!この二人の強さも大体わかったし、後は恩を無理矢理押し付けちゃおうかな?


――――――有り余るほどに、ね?







---------------------







それまで……………植物型の魔物を下に観ていた。

侮っていたし、侮って居ても良い相手だとさえ思っていた。


それが――――――この光景は、何だ……………?


彼女が周囲の樹々に蔓を絡め、縦横無尽に飛び回る度に敵の命が刈り取られていく。

一つ、また一つと命が弾け飛んでいく。

嬉々として此方を攻め立てていた者たちが、今では血相を変え、我先にと逃げ出し始めている。

まだ果敢に挑む者が居ても、その攻撃は彼女を掠めることさえ出来ていない。


「オイ!?アレってまさか――――――!!!?」

「オハナだ!!オハナが居る――――――」


注意を促そうとした者は最後まで言葉を紡ぐことさえ許されなかった。


――――――オハナ?

まさかアレが……………オハナなのか?


そして俺はバルシュッツの計画を知りながらも、魔王に何も言わず放置して――――――彼女へ褒美として送られる筈だった品々を強奪した件を傍観していた事を思い出す。

魔王アレイスター――――――生まれた時から〖上位〗の存在として振舞っているのが何となく気に喰わなかった。

そんな理由からの地味な嫌がらせだった。

黙って居た見返りとしてバルシュッツの奴は強奪したものの一部を渡してきたが、俺や妹には必要の無いものだった。

バルシュッツの事だ、元々俺たちに有用なものを渡すつもりなど最初から無かったのだろう。


贈るはずだった相手は所詮植物型の魔物、バレて何か言って来たとしても問題無く返り討ちに出来る――――――そう思っていた…………。



逃げ出そうとした者は最優先に殺されていた。

ある者は蔓によって吊るし締め上げられ、またある者は狙撃され息絶えた。

恐怖がじわじわと彼らを蝕んでいくのが俺にも解った。


先ほどまであれだけ周囲に溶け込めていなかった彼女が、今ではその姿を捉えることさえ難しい。

それほどの速さで移動していた。


『お前たちなんていつでも殺すことが出来る――――――』


俺が侮り、下に観ていた植物型の魔物が今………この場を支配していた。



妹に斬りかかった敵が彼女の下半身にある巨大な花に喰われて消える。

呑まれたと言っても良い。

サーカスの空中ブランコの様に滑空しながら、勢いを全く殺すことなく一瞬だった。

俺も、おそらく妹も、彼女に抱いた恐怖は殺された彼らと同等だった。


それでもッ!!


その支配者が妹に近付いて行くのだけは黙って見ているわけにはいかなかった。

同じ魔物だから、勢力としては味方であるとわかっていても、彼女から放たれている威圧感は尋常じゃない。

もしや、俺たちが褒美を奪ったのがバレているのではないだろうか……………?

瞬間、遠くから此方を見つめていた彼女の胡乱な――――――どころではない、何かを確信しているかのような眼を思い出す。


間違いなくバレているッ――――――!!


彼女の放つ圧倒的な威圧に、いつ妹が狂気に呑まれて彼女を攻撃するかわかったものじゃなかった。

きっと彼女は容赦なく攻撃して来た妹を屠るだろう。

そうなるとわかっていて、怖じ気付いてる暇なんて無かった。



俺は妹を背に、この場の支配者の下へと駆けだした。


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