第76話 闇の聖女、爆誕?
開戦の合図と同時にマップから出撃する場所を選択――――――。
私が選んだのはきっと一番大きな被害が出るであろう中央の平原でした。
本当はオハナさんと一緒が良かったのですが、オハナさんのとある目的の為にも私が少しでも役に立てるのは此処しかないと思ったからです。
それに私がオハナさんからのお願いを無視できるわけありませんから。
「ヒーラーか?助かる!!」
名も知らぬプレイヤーさんから笑顔で歓迎されたのですが、私にはオハナさんの目的の方が最優先ですから、折角の歓迎ですが無視させてもらって一目散に拠点から出た私は前線へと進んで行きます。
「おい!何処行くんだよ!?ヒーラーは大人しく――――――」
私を新人プレイヤーだと思ったのか、親切心からなのか声をかけて来てくださるプレイヤーさんが結構いましたが、ごめんなさい、今は本当に余計な御世話なんです。
ヒーラーは拠点の中でずっと大人しくして、HPが少なくなって戻って来た人たちの回復をしているのが普通なのだそうです。
でもそんなの面白くありませんよね?討伐数も稼げませんし。
それに何より、動き回れるようになったオハナさんと一緒に進むためにも、私が今最も必要としているのは戦場の真っ只中でも戦えて、生き残れる力でした。
最前線に到着すると、もう既に負傷している方が多く居ました。
「エリアヒール」
勢力変更をした今の職業はダークプリースト、そんな名称でも治癒魔法は問題無く高位のものまで覚えられちゃうんですよね。
ただ勇者側だと回復量が多く、魔物側だと消費MPが少なく済むという違いはあるそうです。
私を中心とした広範囲のプレイヤーさんたちのHPが一気に回復します。
それを見て、
「ヒーラーが居るぞ!!潰せ!!」
敵の誰かが指示を出せば、私に向かって飛んでくる矢が見えました。
ですが――――――。
3号ちゃんと4号ちゃんの弾丸(種)に比べればそんなもの――――――!!
後衛職と呼ばれる人たちの天敵である遠距離攻撃、前線に出るにしてもまずはそれを克服しなければ障子紙のような防御力しかない私はすぐにHPが尽きてしまいます。
そこで、3号ちゃんと4号ちゃんに特訓に付き合ってもらった結果得たのが〖遠距離攻撃回避の加護〗というスキルでした。
名前の通りですが、遠距離攻撃全般の回避率が上昇するという優れものです。
そのスキルのおかげで飛んでくる矢がまるでスローモーションで見え、難なく回避することが出来ました。
「何だ!?どうなってんだ!?」
困惑している様子の敵さんたち、ですがそんな余裕はあるのでしょうか?
何故なら今私が使った〖エリアヒール〗、それは前線の味方プレイヤーさんたちを治癒する目的もありますが、もう一つの目的は…………そろそろでしょうか?
私が考えを終えるタイミングで、私の前に轟音と共に土煙が上がり、それが晴れるとオハナさんの眷属――――――3号ちゃん、4号ちゃん、5号ちゃんが姿を現しました。
流石オハナさん、タイミングバッチリです♪
私が使ったエリアヒール、治癒の光は遠目にも良く見えるんですよ。
だからオハナさんはそれを目印にして、眷属の皆さんを私の居る場所まで直送出来たわけです。
3号ちゃんはすぐに自分の眷属たちを展開し、5号ちゃんは私の護衛として傍に寄り添ってくれます。
4号ちゃんは移動できる事が嬉しいのか、そのまま前線を押し退けて拠点へと突っ込んで行ってしまいましたが特に問題無いでしょう。
「矢がダメなら魔法だ!!あの突然現れた魔物ごと焼き払うぞ!!」
やはりそう来ますよね?
ですが!私が居る限り、オハナさんの眷属を容易に墜とせると思わない事です。
「マジックシールド」
私の周囲に光の盾が現れ、それらは3号ちゃんと5号ちゃんを守るように前方を固めました。
さあこれで容易には攻略させません、此処から先へは相応の覚悟を以て挑んできてもらいましょう。
3号ちゃんの眷属による陣の構築も終わりましたし、いざとなれば範囲魔法も防いでみせます。
どうやらオハナさんが眷属の方たちにHP・MP回復フィールドを付与して送り出してくれたらしく、長期戦で貴重なMPも徐々に回復していきます。
「なんだこれ…………すげえ……………」
その効果はただその場に居ただけの魔物プレイヤーさんたちにも効果があって、多少無茶の利く状況に困惑しながらも歓喜の声を上げていました。
そうです!オハナさんは凄いんです!
もっと皆さんオハナさんを称えるべきです!!
「うおぉぉぉぉ!!!!!あのダークプリースト凄ぇぞ!!!こんなに手厚い援護を貰ったのは初めてだ!!」
えっ――――――?
「ここまで効果のある強化を重ね掛けするなんて!!」
「MPまで回復していくぞ!?」
「うおぉ!?マジだ!?」
「「「「こんなにも頼もしいダークプリーストが居るなんて!!」」」」
周囲が歓喜に沸き立ち、戦闘中だというのに称賛する声が絶えず私に降り注ぎます。
どうやら皆さん私がこの強化を付与したと思っている様です。
「違います!!これは私じゃなくて――――――」
私はすぐに否定しようとしましたが、
「安心しろ。こんな手厚い援護を貰ったんだ、何が何でもこの戦線は崩れさせたりしねぇからよ!!」
「いえ。そんなの別にどうでも良――――――」
これも否定しようとしましたが、皆さんもう私の声なんて聞こえてないようで、雄叫びを挙げながら突撃して行かれました。
何故でしょう?強化はしても狂化はしてないはずなのに……………。
「俺たちの聖女様には指一本触れさせねぇ!!」
「バカ!!かすり傷一つ負わせちゃならねぇぞ!!」
「心臓を捧げよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
…………最後のは全力で拒否させてもらいますね?
守ろうとして下さるのはとてもありがたいのですが、私だって戦えるんですよ?
私は勢力変更前から愛用している杖を握り締め、敵に向かって突撃しました。
3号ちゃんが私に殺到する敵の数を減らして一対一の状況にしてくれて、5号ちゃんが不意の攻撃を防いでくれるので最前線だというのに安心して戦えます。
目の前のプレイヤーさんを杖で殴り飛ばし、返り血を拭うと、
「すげぇ……………」
「美しい………………」
「聖女――――――否、
周囲からそんな風に言われてしまいますが、今はオハナさんの目的の達成が第一、後できっちりとオハナさんの偉大さを彼らに教えてあげなければならないようです。
けれど士気が高まるならば、今だけは聖女でもなんでもしてあげます。
オハナさんの目的の為にも、存分に利用もさせてもらいます!
私が聖女然と杖を掲げると、周囲から歓声が大きくなった。
そして敵に向け駆け出した私の後押しをするかのように、咆哮が上がった。
「闇の聖女様に続けぇぇぇぇ――――――!!!!!!!!」
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第二回世界大戦に於いて、最も激しい武力衝突が予想され、拮抗するかに思われた初日の中央平原地帯での戦い。
神々(運営)の予想を裏切り、終始魔族側に優位な状況が維持されることになる。
その場で戦っていた者たちは皆口々に言う。
「闇の聖女様が居たからこそ勝てた」と――――――。
その発言に神々が「魔族側なのに何故聖女?しかも闇?魔女じゃなく?」と首を傾げるのだった。
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