第75話 平原地帯 解き放たれた4号
俺の名はディーゼル。
行く行くはこの世界のトッププレイヤーに君臨する(※予定の)男だ。
遂にこの日がやって来た。
〖世界大戦〗イベント――――――。
人と魔族とが覇を競い、全プレイヤーたちが己の力を示さんとする大舞台。
勿論俺も、その開始の合図を今か今かと待ち続けていた。
この日の為に課金した装備に身を包めば、自然と血が滾るようだ。
オハナを相手に敗北を喫し続けている俺だが、人間プレイヤーの中ではそれなりに名を知られてきている。
いつの日にかトッププレイヤーと呼ばれるようになる(※予定の)俺が、騒ぎ立ててイキりプレイヤーとしてイタい過去を残すわけにはいかない。
努めて冷静である自分を装い、戦場となる場所のマップを眺めて気分をフラットにする。
そのまま凪いだ気持ちで居ようとマップを眺める。
戦場は中央に大軍同士が衝突しそうな平原、北に岩山、南に森林、平原を挟んで睨み合う形で東に勇者軍、西に魔族軍の陣が敷かれている。
…………………オハナは何処から来るだろうか?
動けるようになった今ならば、平原をそのまま突っ込んで来そうな気もする。
いやいや岩山に登り高低差のある状況から狙撃してくるつもりか?
はたまた森林の中に身を隠し、攻め込んで来た者たちをじわじわと殺して行くつもりだろうか?
どれもありそうなのが恐ろしい――――――!!
他のプレイヤーたちは魔王軍の幹部等に気を付けようなどと話しているが、真に気を付けなければならないのはオハナ唯一人だろう!?
どんな場所であろうと、高笑いと共に次々とプレイヤーを屠っていくオハナが易々と想像できてしまう!!(※オハナは高笑いした事ありません)
そう叫び出したい気持ちを抑え込み、大きく息を吐く。
嘗ての俺がそうであったように、オハナと対峙し、ヤツの恐怖を身を以て知ってこそ気付くこともあるだろう。
ヤツがまだ聖域に居た頃、俺も先輩方からそうやって諭されたからな――――――。
今の俺がオハナに挑むことはまだ無謀でしかない、だからこそ今回はある目標を立てた。
〖砦〗攻めの折、俺を倒したオハナの眷属――――――まずはヤツを倒す!!
そのためにもまずはヤツとオハナを引き離さなければならないが…………近付けば間違いなく容赦ない即死攻撃が襲ってくる。
〖即死攻撃無効〗が付与された装備は購入した。
オハナというバッドステータスの見本市のような存在が居るせいで、状態異常耐性及び無効化の付与された装備品の価格が高騰している。
オハナをまだ知らない
挫折するがいい、苦労するがいい、そして這い上がって来い!!
その時にはオハナを討伐する同志として迎えようじゃないか――――――。
開戦の合図と共に、結局俺は平原にある最前線の拠点から始めた。
オハナと遭遇するリスクはこのフィールドに居る限り少なからず存在するのだから
、考えても仕方がないという結論に達したからだ。
血気盛んに突撃していく新人プレイヤーを見送った俺は、まず初めに戦況の確認をしようとミニマップを開いた。
オハナが居るとすればこちらのプレイヤーの数が激減しているはずだから、それである程度の居場所は掴めると思ったからだ。
マップ上、前回同様自軍は青、敵軍は赤の丸で表示されてプレイヤーの数が多く密集している場所は大きな丸で表示される様になっていた。
見やすくて有難いが、具体的な数は解らない。
それでも自軍と敵軍との戦線が徐々に押し込まれて行っている地域があった。
それが今俺が居る平原だった。
自軍の戦線がどんどん後ろに下がっていく、大きな丸も徐々にその大きさを小さくしていっている。
開始早々でこれとは……………居ると思っていた方が良いのか……………?
しかし注視していると北の山岳地帯も押されている気がする。
唯一森林地帯に関しては拮抗…………僅かに味方が優勢なように見えた。
今居る平原が一番可能性としては高そうだったが、山岳地帯の方も無視は出来ない、『オハナが此処に居る』と決めてかからない方がよさそうだ。
適度な緊張感を保てるように短く深呼吸すると……………。
「て、敵だ――――――!!!」
拠点の警護をしていたプレイヤーが張り上げた声に思考を遮られる。
気持ちを切り替え、敵の襲来を告げる声に一気に緊張感が高まっていく。
警戒する俺の視界に一輪の花が見えた。
その瞬間の寒気、鳥肌の立ち具合を俺は一生忘れないだろう。
間違いない、ヤツの眷属だ。
そう理解すると同時に、俺は拠点から一目散に逃げだした。
情けない――――――とは言ってくれるな。
拠点という仕切られた空間でヤツと対峙するのはマズい、遮蔽物がある分狙撃は防げるかもしれないが、こちらもヤツの範囲攻撃からは容易に逃げられなくなる。
拠点から逃げ出そうとした俺の前にハエトリソウのような魔物が姿を現す、不気味な牙の生えた葉が俺を嘲笑うかのように揺れ――――――。
咄嗟に俺は地面を転がる様に横へと自ら飛んだ。
その直後、俺の居た場所が狙撃される。
無様だろうが今は気にしていられない!
次が来る前に態勢を整えて逃げなければ!!
だが俺の幸運もその最初の一回だけだったらしい、起き上がった俺に突き付けられる複数の花――――――。
遊んでいるのかトドメを差さない相手にじりじりと精神が摩耗していく、視線を逸らせない状況で周囲から聞こえてくるのは悲鳴と怒号だった。
コイツがオハナの眷属の一人である事はまず間違いないだろう。
だが他の眷属の姿が見えない、ダンジョンでの目撃情報によればオハナの眷属も進化して様変わりしている事が報告されている。
その情報にあったような眷属の姿が見えない………………まさか、今拠点を攻略しているのは今俺の目の前に居る眷属とそいつが使役する眷属だけなのか………?
もしそうならば、一体オハナは何処に潜んでいるというんだ……………?
そんな俺の予想を肯定する様に、そこから俺の視界は暗転し、いつもの神殿へと送られていたのだった。
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