第67話 御褒美はクーリングオフ出来ますか?
オハナダンジョンの運営も順風満帆。
どれくらい順風満帆かって?本格的にオハナがダンジョンに居なくても良いんじゃね?ってレベル。
未だにオハナの所に辿り着いたプレイヤーさんは居ない。
だけどオハナに入って来る経験値は減るどころか増える一方だから、悠々自適なオハナライフ此処に在り!って余裕ぶっこいていると、
「オハナ様、実は魔王の使者を名乗る者が以前達成した砦攻めの褒美というのを届けにダンジョンに来ていますが如何されますか?」
サンガがフワフワとオハナの所へとやって来るなり開口一番そう告げた。
魔王の使者を名乗る者?
褒美なんて貰えるものなんだ?
だけど砦攻めっていつの話よ?
褒美を贈るにしても期間が空き過ぎてるけど………………。
でもサンガが態々オハナに取り次ぐって事は本物なんだろうし、逢うだけあってみようかな。貰えるものもあるみたいだし?
そう思ってサンガに連れて来てもらう様にお願いする。
ダンジョンサポートAIであるサンガが、来客をオハナの居る最上層にテレポートさせる。
オハナにも同じ権限があるんだけど、範囲設定だとかが複雑でメンドクサイからやらない。
出来ないんじゃないやい、やらないだけなんだからね!!
現れたのは気弱そうな少年だった。
見た目はほぼ人間と変わりない姿形でカナきちよりもまだ若干身体の線が細いけど、額の部分に三つ目の目が在るのとザ・悪魔!!って感じ尻尾がせわしなくシュルシュルと動いている。
突然テレポートさせられたからか、キョドっている姿がより一層気弱に見せていた。
おずおずとオハナの前に歩み出ると、
「オッ、オ…………オハにゃ様に於かれましては本日もお日柄もよく――――――」
最初から盛大に噛んでるし。
しかもそんなおびえた態度で、お日柄――――――とか言われてもねぇ?
けれど彼は今それどころじゃない様子で、長々とした口上を述べている。
きっと必死に暗記して練習したんだろう必死さが涙ぐましいね。
言い直したのに”オハにゃ”と甘噛みしてたことには言及しないでおいてあげよう。
ホタルちゃんと似た空気を感じるなぁ。
ほっこりしながらまだ口上を続けている彼を見守っていると………………。
あれ?何故か口上を終えたらしい少年はいそいそとナイフを取り出したぞう?
ぎゅーっと目を閉じて、震える両手でそれを自分の喉に向けて――――――。
「ストーーーーーーーップ!!!!!!!来て早々何しようとしてるの!?」
すかさず蔓で絡めとってそれを阻止する。
「は、放してください!!魔王様の使者という大役を仰せつかっておきながら、口上の一つも満足に言う事が出来ない僕に生きてる価値なんて――――――!!」
「せめてオハナ様に褒美をきちんと渡してから死んでください」
サンガーーーーーーーー!!!!!!?
もうちょっと他に言い方!!!オハナも思ったけどさ!!
あれでしょ!?この世界に存在してるAIキャラって死んじゃうともう二度と復活できないんでしょ!?もうちょっと命大事にしようよ!?
「………………申し遅れました。僕はアシュワン、魔王アレイスター様の下で一軍を任されております」
その後も自殺未遂を繰り返そうとする彼の武器の悉くをダンジョンマスター権限で呼び出した5号に破壊してもらって、オハナの蔓で捕縛する事によって何とか落ち着きを取り戻した彼は、オハナの前で地面に正座した状態で所在無さげに自己紹介をした。
…………待って?今、彼一軍を任されてるって言った?
驚きを隠せずにサンガを見ると、「私にもそう聞こえました」とばかりに身体全体でオハナの視線だけの問いかけに頷いた。
「ぼ、僕みたいな若輩者が一軍を任されてるなんて意外ですよね…………ハハッ、僕もそう思います。そうだ、今日はもう帰って死のう」
そんな帰って寝ようみたいなノリで死のうとしないでよ。
「それで?御褒美を持って来たって聞いたんだけど?」
無理矢理にでも会話を前に進める、こうでもしないとずっと死ぬ死ぬ言ってそうだし。いい加減止めるのも疲れて来たからね。
「は、はい。こちらが魔王様より預かって参りました〖砦攻め〗への褒美となります」
アシュワンが自身のアイテムボックスから褒美をオハナの前に陳列させた。
えーっと何々…………装備作成に必要となる素材各種。
それに必要なお金。
経験値ポーション。
回復アイテム各種と一回だけ魔法が使える巻物各種詰め合わせセット。
まぁこんなもんかな?
くれるって言うならありがたく貰っておきますよ。
タダだもの。
運営からのお知らせであったような広告の心配はないから安心して見てられるね。
サンガと二人で物品を確認していると、
「そ、それと申し上げにくいのですが、オハナ様に折り入ってお願いがございまして――――――」
「ごめんね?御褒美ありがとね?じゃあね?」
「ま、魔王様の側近であるフェンネル様からの依頼で――――――」
断ってるのに話し続けてるし。
気弱そうに見えて――――――いやまぁ実際気弱なんだと思うけど、心に常にゆとりがないから自分が話したい事を「コレ絶対言わなきゃ」が先に立っちゃって、人の話が耳に入って来ない、話を聞けない子なんだろうね。
オハナとサンガは諦めてアシュワンの言う依頼とやらの内容を聞いてあげた。
どうやら魔王様と〖七牙〗と呼ばれる有力な部下たちとは昔から折り合いが悪く、事ある毎に足を引っ張られ気を緩めることが出来ず、魔王様個人が信頼してる人材は限られているらしい。
このままだと魔王様の気が休まる時と場所が無くなると案じていたフェンネルさん、だけど優秀な人材は〖七牙〗の人たちの耳にも入り、先回りされて奪われてしまう。
そこで、まだ彼らが”植物型魔物=弱い”と見下しているからこそ声をかけないであろうオハナ眷属たちに目を付けたそうだ。
〖世界大戦〗の時にオハナ眷属の実力は見ていたらしく、ここ最近のダンジョンでの活躍も既に把握してるみたい。
〖七牙〗の人たちと接点がないからその分だけ信頼は出来る、その上実力は申し分ない即戦力たち、オハナ眷属たちは知らない間にそんな高評価を得ていたみたい。
”オハナ眷属の全員を望む通りの役職で迎え入れる”なんて破格の待遇で迎えてくれるらしかった。
……………どうしようコレ?
オハナに対する新手の宣戦布告なのかな?
高圧的な態度で来られたわけじゃなく、お願い――――――懇願されてるんだけどイライラするこの感じは何なんだろう?
まぁそうでなくても返事なんて決まってるよね?
「絶・対・イ・ヤ」
丁重にお断りした。
「そ、そんなぁ……………」
あーもう。
そんなこの世の終わりみたいな顔しないでよ。
オハナが虐めてるみたいじゃない。
その魔王の側近のフェンネルさんからのお願いが、あまりにもふざけた内容だからお断りしただけでしょう?
そんなの「断る」一択じゃない?
オハナが手塩にかけ――――――まぁ勝手に育ってた部分も否定しないけど、概ねオハナの下でのびのび育った眷属たちだもの。
そう易々と手放せるわけないじゃない。
「もしそういうつもりだったのであれば褒美も要りません。サンガ、お客様の用事は済んでみたいだから送って差し上げて?」
オハナの言葉にサンガは素直に従って、アシュワンの返事も待たずにダンジョン入り口に強制転移させた……………褒美を残して。
「…………これ、強奪したとか言われないかな?」
「大丈夫じゃないですか?言って来たらその時はお返しして、ついでに塩撒いてやりましょう!」
それもそっか。
正直オハナが使うか使わないか微妙な品々ばかりだし。
返せと言われたら問題無く返せちゃいそうだからね。
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