第68話 はじめまして、フェンネルさん

アシュワンを強制送還したその翌日――――――。



『煮るなり焼くなり好きにして良い     アレイスター』


そんな文言が書かれた木の看板を首にぶら下げ、両手足を縛られて身動きが出来ない状態のアシュワンと目つきの悪いキツイ印象を受けるお姉さんが、オハナダンジョンの入り口に逆さ吊りされているらしい。


サンガの処に「アレは一体何なのか?」という問い合わせがあって、漸くその存在を認知したばかりなんだけど。


「どうします?」


どうするも何も………………どうしよう?

別に助けてあげる義理もないし、会った事もないのに煮るなり焼くなり好きにして良いっていう魔王様のお許しも出てるみたいだからとりあえず――――――。


「放置で♪」

「承知しました」


………………オハナが言っといてなんだけど承知しちゃうんだ?


ゲームの世界だから頭に血が昇るなんて事もないだろうし、暫くは放置で良いかな。

あ、でも他のプレイヤーさんたちに攻撃されたりしたらマズいのかな?

一人は仮にも一軍与ってるらしい魔族の人だもの、もし此処で命を絶たれるような事になれば今後の〖魔物側〗が不利になったりするかも………………。


そんな不安がよぎっちゃったもんだから、仕方なくオハナは二人の傍に6号と7号を転移で設置しておいた。

これでいつでも二人の様子が解るね。


え?そう思うのなら迎えに行けばいいのに?

オハナから眷属を奪おうとした連中だよ?

待って、もしかしてこう言った方が分かり易いのかな?


眷属たちとオハナを引き離そうとした元凶だよ?


そんなのオハナが仮に許したとしても眷属あの子たちが許すわけないじゃない―――――って言ってる間に!?

入り口付近にテレポートしようとしてる3号と4号のテレポートをダンジョンマスター権限で禁止!!

ついでに1号、2号、5号の入り口付近への接近も同権限で禁止!!


ふーっ………………これで一先ずは安心かな?

まったくあの子たちったら、何処で知ったのやら……………。


「あぁ、それでしたら私の方から先ほどお知らせしておきました」


………………サンガ、アンタ何余計な事してくれちゃってるの!?

あの子たちに教えたりすればこうなる事くらいわかるでしょ!?

それをそのままサンガに伝えると、


「いやぁ、文句は直接本人に言いたいかと思いまして――――――」


「話し合いが出来るのならそれも良いかなとは思うけど、そもそもあの子たち喋れないし、主にあの子たちの敵との会話なんて肉体言語(物理攻撃)で、ずっとあの子たちのターンじゃない!!」


「それはそうかもしれませんが、自分たちの与り知らぬところでそのような話をされていたのだとしたら気分が悪いものです。ましてやオハナ様の眷属の方々はオハナ様に全身全霊を以て仕えています、その怒り、やるせなさ、ぶつける先が必要かと思いましたので……………」


サンガの言いたい事も理解できるけど、オハナの仕事を増やすのだけは許さない!!

どうせ暇してるんだから良いじゃんって?

常にオハナは余裕ぶっこいて居たいのよ。





ダンジョンを一時的に休業にして、眷属含めたオハナダンジョンメンバーが勢揃い。

そんなオハナたちに囲まれているアシュワンともう一人の人は地面に正座した状態でずっとぶるぶる震えている。


あれから二人を今オハナと眷属たちが集まっている場所に連れて来て、皆にも集まってもらった。

その時に事情もオハナから説明したんだよね。

あの子たちもなんだかんだでダンジョンに居る皆とは仲が良いから、引き抜きの打診があったと知った時には皆何故か「当然でしょ?」って反応だったんだけど、きっちりと話を聴いておきたいって言った部分まで同じだった時には笑っちゃった。


そんな訳で、アシュワンともう一人の謎の女の人の囲み取材?が開催されたわけなんだけど…………………。


「まず最初に、そっちの女の人は誰?」


どうしてだかアシュワンと一緒に逆さ吊りにされて、どうしてだか一緒にこの場に正座待機させてるけど、魔王様直筆と思しき看板を首から下げてるって事は関係者なのよね?


オハナの言葉に一斉に視線が彼女に突き刺さる。

魔王様って有能なんでしょ?そんな人が無関係の人を送りつけてくるとも思えないから、絶対関係者だよね。

心なしか彼女の震えがさらに大きくなった気がするんだけど、一向に口を割る様子はない。

もう……………仕方ないなぁ――――――。


「誰か知らないけど、とりあえず有罪ギルティ♪」


「「「「「「異議なし」」」」」」


「そんなっ!!?」


いつから裁判の場になったのかはよくわからないけど、この場に弁護士は居ないけど陪審員は居るよ?ただ皆オハナ寄りだから、満場一致で即決なんだけど………………怖っ!?誰かちょっとは否定しようよ!?

さりげなく、今のサンガまで異議なし言っちゃってたよ!?


驚いたのか、勢いよく顔を上げた彼女の顔面は青を越えて白くなってきていた。

このゲームのこうした無駄な再現度に感心していると、


「…………あ、あの………フェンネル様、弁解した方が良いですよ?この方たちもしかするとアレな人たちかもしれませんので――――――」


誰がアレな人たちか!?――――――って言うかアレな人って何さー!?

アシュワン、キミは死にたがらない時は口悪いね。


それにしても、今彼は彼女の事をフェンネルって呼ばなかった?

それってアシュワンに今回の事を依頼した張本人だよね?


未だに白い顔色の彼女に向かって、オハナは挨拶を済ませておく事にした。


「はじめまして、フェンネルさん――――――」

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