第60話 ワヲさん奮闘、オハナは無農薬!?

コテツさんの頭から降りたワヲさんがゆっくりと前に出る。

向こうもワヲさんに狙いを定めたらしく、先ほどの様に突進してくる。

そして――――――。


サイに潰された。


ダメじゃん!!!!!?


何やってんの!?ねぇ!?ワヲさん!?


困惑して周囲を見ると、ダンジョンメンバー全員が驚いた表情もせずにじっと見守っていた。

ここで一人取り乱すのも何か恥ずかしい、だからコテツさんと同じようにでーんと構えて「わかってるフリ」をしておこう……………ホントに大丈夫だよね?


潰されちゃったワヲさん、見た目のインパクトとは裏腹に大したダメージを受けていなかった。

元々物理攻撃に耐性があるからこそだろうけど………………。


その後もワヲさんは迫り来るサイに対して、ただ潰されるだけを繰り返していた。


………………ホントに大丈夫なの?


ワヲさんにああ言った手前、手出しし難い。

やきもきしながらグッと我慢してその状況を見守る。

ワヲさんを信じていない訳じゃないけど、もどかしい!!


だけど、オハナがそう思ってる以上にコテツさんの方が我慢をしているはず。

だって今にも飛び出して行きそうな気配なんだもの、そのおかげもあってオハナはちょっと冷静になれたんだけどね。


そして、サイに異変が起き始めた。


ワヲさんにだけ狙いを定めて突撃していくのは変わらないんだけど、こちらにターンする時に足を取られる様な――――――躓くような仕草をするようになってきた。


もしかして、ワヲさんの〖粘液〗?

でも今まではそんなの関係無しに突撃して来ていたのに、どうして効くようになったんだろう?


「あれが婆さまの新スキル〖リベンジガード〗、婆さまが防御して軽減した分のダメージをそのまま相手に返し、極低確率で相手のバッドステータス耐性を下げる効果があるというスキルじゃ。丁度オハナちゃんが砦攻めで不在の時に3号が寂しくて暴れた時があったじゃろう?それを止めようとした時に生えたスキルらしい」


その節は御迷惑をおかけしました、本当にごめんなさい。


けどワヲさんにも新スキル生えてたんだ?

〖リベンジガード〗かぁ……………。

ワヲさんの盾性能もどんどん上がって行ってるね?


ばっちり潰されてたけど、あれで防御してたんだ?とは言えない雰囲気。

言いませんとも!オハナは(時々)空気の読める子だもの。


つまり、あのサイは序盤はワヲさんを勢いよく蹂躙できていたけど、〖リベンジガード〗の効果で〖粘液〗の全行動を総じて遅くする〖鈍重〗の効果が表れ始めたって事ね。

おまけにワヲさんに与えるダメージの幾らかはそのまま跳ね返って来てる。

ワヲさんのHPはオハナとプリムさんが居るから尽きることはない、これはもう勝ちが見えたね?


そんな時だった。


「見ろよ。懸賞金第一位さまがこんなところでのんびりしてるぜ?」

「俺たちとは違って余裕なんだろ?なんたって第一位なんだから」

「そうよねぇ。〖砦〗を一人で潰せるくらいなんだもの」

「羨ましーよなぁ?俺たちみたいにコツコツ努力しなくても強くなれんだから」

「こちとら無課金だっつーのw」


こっちを見てわざと大きな声で聴かせてくる人間プレイヤーたちが居た。

そいつらは言いたい放題言った後、「ギャハハ………」と馬鹿笑いをしながら去って行った。


強い人=課金者っていう考えの人は、もう何なんだろうね?

裏を返せば、無課金者=弱くても仕方がないみたいな諦めにも思えてしまう。

オハナの努力や苦労なんて言ってないんだから、知らないに決まってる。

だけどさ?オハナの努力も苦労も最初から何も無かったかのように言うのは違うと思うんだ。

苦労しても課金して解決したんでしょ?と言わんばかりの態度はもう見ていて悲しくなってくる。


言っとくけど、オハナは純粋培養の無課金無農薬栽培!!

ぴゅあっぴゅあですから!!


言い返す相手ももう居ないし、それに今はダンジョンメンバーの皆と楽しくイベントをするんだからどうでも良いけどね?


だけど、オハナは良くてもオハナと一緒に居るダンジョンメンバーの皆はそうじゃなかったみたい。



「オハナちゃん、ワシらを気にしてくれるのはありがたいんだが、ワシらはワシらのペースでやるから気にせんでえぇ。此処はワシと婆さまとプリムちゃんが見てるから存分に暴れちまいなよ、此処で黙ってるなんてオハナちゃんらしくねぇぜ?」


「そうです、オハナさん。ダンジョンの中で暇だ~って言ってたじゃないですか!私たちに遠慮なんてせずにああいう人達をいつものように経験値に変えて来て下さい」


「そうっす!頑張ってるオハナさんがあんな風に言われるのは悔しいっす!!自分たちのダンマスが全魔物プレイヤーの中で一番凄いんだって事を見せつけてやって欲しいっす!」


「その通りです!!オハナさんが頑張って強くなったのは聖域に居た頃からの付き合いの私が一番よく知っています!!」


「皆さん……………」


と言うか、ホタルちゃん!?

いつものように経験値に変えてくるって、オハナがしょっちゅうそんなこと―――――うん、してるね。しかも徹底してるね。

それについてはもう何も言えないけど、もっと大事ことがあるじゃない。



まだサイと戦闘中のワヲさんほったらかしですけど!?



「オハナちゃん、爺さまも言ったけれど人それぞれペースというものがあるのよ。オハナちゃんが私たちを待つ必要は無いわ、私たちの方からきっと追いついてみせるから。だから、ね?」


もう身動きする事さえも難しくなってきている状態のサイを前に、ワヲさんにまでそんな事言われちゃったらさ――――――。


「それじゃあちょっと、お散歩に行ってくるね」


皆にそんな風に言ってもらえた嬉しさでだらしなく緩んでしまう顔を見られないよう背を向けて、オハナはイベント戦場を駆けだした。

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