第56話 巻きで行こうって言ったのに・・・
「いやぁー、このネタは鉄板っすからねー。どーも♪どーも♪」
呆気にとられているオハナたちを尻目に、カナきちは一人満足そうに周囲に愛嬌を振り撒いている。
アイドルのライブじゃないんだから………………。
「…………………不採用で」
「「異議なし」」
「ぬわんとっ!?」
オハナの呟きにサンガとコテツさんが同意してくれた。
カナきちさん?カナきちちゃん?えぇいもう面倒だからカナきちでいいや!
カナきちが意外そうに目を丸く見開いて驚いている。
びっくりしたのはこっちの方――――――いや、この場合がっかりの方が大きいかな?
「オハナ様が一芸入学を認めないだなんて、珍しいこともあるものですね。まぁ止めに入らずに済みましたので構いませんけれど、参考までに何がダメだったか訊いても?」
一芸入学て………オハナはそんなもの今まで許した覚えなんて無いよ?
サンガの中のオハナはどんなキャラしてるの?
「うーん…………………何となくがっかりしたから?」
「線引きが曖昧っす!?そんな理由で不採用って言われても納得出来ないっす!!責任者を出すっす!!」
カナきちはジタバタと両手両足を動かして全身で不満を表現していた。
でもそんな風に言ってるカナきちの顔はヘラヘラと笑っていて、おどけている自分周囲に見せて自分だけの舞台を楽しんでいるかのようだった。
それにしても、責任者ならさっきからアンタの目の前に居るよ?
オハナって
駄々っ子の様に騒ぐカナきちにコテツさんとワヲさんの二人が近付いて行き――――――って言ってもコテツさんの頭の上にワヲさんが乗っかってるから、コテツさんが近付けば自然と二人で近付くようなカッコになってるだけなんだけどね?
カナきちに近付いたコテツさんは徐にカナきちの口を塞ぐようにして両頬を鷲掴みにすると、
「こっちも遊びっちゃあ遊びだから大概の事にゃあ大目に見るつもりだったが、一応は今トライアルっつー真面目な場だ。そこで先ず始めに、そして今も尚ふざけてるのはお前さんの方じゃあねぇのかい?」
「ひっ――――――」
「納得いかねぇってのはまずこっちのセリフだ………………違うか?」
あ、真面目なコテツさんがカナきちにガチめの説教しようとしてる。
正直オハナも似たような気持だったけど雰囲気が悪くなる前に止めに入ろうとした時だった。
「そうね。悪ふざけしちゃったのは良くないわね?でも爺さまの小さい頃もこんな感じだったじゃありませんか、私の気を引きたくていつも――――――」
ワヲさんの一言で一気にコテツさんの勢いが萎んだのが手に取るようにわかった。
コテツさんはすぐにカナきちから手を離すと、ワヲさんの続きの言葉をかき消すように大きな声で、
「………………ま、まぁ、なんだ!…………悪ふざけもほどほどにな!?」
…………………し、締まらないッ。
気勢を削がれたコテツさんはバツが悪そうに元居た場所へと戻ろうとしていた。
え?そのまま戻っちゃうの?この空気感放置して?嘘でしょ?
隣に居るホタルちゃんがすっごく気まずそうなんだけど?
あーダメ、ホタルちゃん、そんな目でこっち見ないで。
オハナにもどうする事も出来ないの、強く生きて?ホタルちゃん。
「ホタルちゃんを助けてあげて」という意思を込めてワヲさんを見ると、コテツさんの頭の上でこっちを向いて大きく頷いてくれていた。
ヤバい、どうしようめっちゃ頼もしい…………うっかり惚れそうだわ。
あっちはもうワヲさんに任せておけば大丈夫!
じゃあこっちはどうしようかと考えていると、カナきちがオハナに深々と頭を下げていた。
どゆこと?
「お願いしまっす!今度はふざけたりしないから、もう一回試験を受けさせて欲しいっす!」
あれ?これってもしかして――――――。
コテツさんの言葉、刺さってるぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!?
ちょっと!それで良いのカナきち!?
あんな尻すぼみになっちゃったお説教だよ!?
チョロくない!?どうしてそんな「生まれ変わった」みたいな顔出来ちゃうの!?
見てるこっちが何か恥ずかしいから、まずはその顔をやめることから始めようか?
「………………他のトライアル参加者の人たちが良いって言ったらね?」
「それじゃあ、カナきちさんにもう一回チャンスを上げても良いって人は拍手~♪」
プリムさんの音頭でトライアル参加者さんたちが一斉に拍手を始めた。
中には渋々手を叩いてる人も居るみたいだけど、それも一つの意思表示だもんね。
「…………冗談の通じない人も時々居るから、今後は気を付けてね?」
「ハイっす!」
元気よく返事をしたカナきちは笑顔を見せ、トライアル参加者の最後尾に並び直したのだった。
そしてトライアル参加者の最後の一人、カナきちの番になった。
2号に向けて歩み出ると、前回と同じように手を翳して魔法を発動した。
「ダークアロー!!」
闇魔法の初級だった。
一本の黒色の矢が2号に真っ直ぐに飛んでいく、2号はそれを避けずに受けてダメージは――――――まあまあだった。
コテツさんがお説教始めた時はどうしようかと思ったけれど、カナきちは前回のおどけていた時よりもずっと良い顔で笑っていた。
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