第10話 細やかな冒険心

あれから、復活したオハナのところにプリムさんはログインすると必ず顔を出しに来てくれた。

フレンドスキルの毒攻撃が案外重宝するらしく、ポコポコレベルが上がるのが楽しいと弾ける笑顔で言っていた。


それに比べて…………………………。

うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!


オハナのレベルが上がらないぃぃぃぃぃ………!!

プリムさんのレベルアップに貢献してる場合じゃないだろう!?


光合成をして、景色を眺めて、偶にプリムさんの話を聞いて、ログアウト。

そんな規則正しいとさえ言える代わり映えのしない毎日、イベントだとかも毎月開催されてはいるけれど、移動も会話も出来ないオハナには関係のないものばかり。


自分自身に問うてやるわ!何が楽しいの!?

モチベが上がらないという、倦怠期が来ていた。


掲示板なんかを見て、イベント楽しかったとか悔しかったとか参加者たちの書き込みを眺めて羨ましくなったり、発狂したり、炎上するような事を書き込んでみたり。


もう進化しちゃおうかなぁ………………。

ふと何度も魔が差して〖進化する〗のボタンを押しそうになった事かわからない。




会う度に装備が充実していくプリムさん、この間は初めて他の人間プレイヤーさんからパーティメンバーに誘われたのだそうだ。

プリムさんの笑顔が眩し過ぎて、嫉妬してしまう自分が嫌になる。


いずれはプリムさんも、オハナのような弱小プレイヤーを見限って、別のプレイヤーさんたちとガチ勢になってしまうのだろうか?


そんな寂しさが込み上げて来て――――――。





「えいっ♪」


へ?――――――。


「!”#$&’{‘*}?――――――!!!!!」


オハナの断末魔の後、オハナとプリムさんはあの空間へと待機させられた。


「プリムさん、何してるんですか!?」

「ごめんなさい、どうしてもオハナさんとお話したいことがあって……………」


だからってオハナを雑草抜くみたいに気軽に抜かないでくれる?

プリムさんも死ぬんだからね?


「オハナさん!私はオハナさんと一緒にこの世界を冒険したいです!ですから私にオハナさんの成長の御手伝いをさせて下さい!」


「プリムさん?お気持ちは嬉しいのですが御手伝いって――――――?」


一瞬、オハナの毒蜜をプリムさんが舐めて自爆―――――なんていう光景が頭を過ぎった。幾ら何でもそんなことはさせられない、それにプリムさんは人間プレイヤーさんだからオハナと一緒に冒険だなんて出来っこない。


「私、考えたんです。オハナさんが抜かれると即死攻撃を放って死んでしまうのであれば、そもそも抜かなければ良いんです!」


はい?言ってる意味が理解できない。

抜かれなければ良い?今さっき気軽に抜いた人が何言ってるの?


「つまりですね?オハナさんの周囲の土ごと何処か日当たりの良い場所に移してしまえば良いんです、そうすればオハナさんは抜かれてませんし、日照不足も解決出来て経験値も増えます」


…………そう上手くいくかなぁ。




というわけで、実際にやってみ――――――。




「!”#$&’{‘*}?――――――!!!!!」


ほらー!!やっぱりね!?こうなると思ってましたよ。

シャベルでオハナの周囲の土を掘って行くプリムさん、全周にシャベルを入れてさぁこれからって時に発動してしまった。


「うーん、もう少し距離をとって掘らないとダメみたいですね」


頑張るぞ!って感じに可愛らしく気合を入れるプリムさん、何かのやる気スイッチが入ってしまったらしい。

そしてそこから検証を重ねる事56回目――――――、


「やりました!オハナさんを土から取り出す事に成功しましたよ♪」


不思議な感覚だった。

普段見ているもう見慣れて…………見飽きてしまっていたはずの景色、それがぐんぐん視点が高くなり別の場所のような気になってくる。

これがきっと冒険心、日の当たる場所へと出て行くだけの本当に細やかなものだったけれど、これまでに荒んで枯れ果てていた心が視点を変えただけで仄かに潤う。


「それじゃあこのまま日当たりの良い場所まで持って行きますね?」


そろりそろりとプリムさんが歩き始める。

そしてとうとう、世界樹の影から出た事の無いオハナが直射日光の下に出ることが出来たのだった。


本当にありがとう、プリムさん…………。

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