03

 生きる気力を、失ってしまったかもしれない。


 最後の草原からの、帰りの電車。行くのに数時間もかけて、そして何も得られず、数時間かけて帰る。


 外の景色。


 家の近く。そこそこの都市だから、街の灯りがある。星は見えない。


 いつもの街の景色。自分の部屋があるタワーマンション。街のネオンの光で、空は星ひとつ見えない。


 明るい車内。


「はあ」


 これから、自分は。


 何を生きがいにして。


 生きていけばいいのだろうか。


 上を向く。電車の天井と吊り革。明るい、ライト。


「すいません。となり、失礼します」


「あ、ああ。どうぞ」


 綺麗な女性。長い髪。異性なら誰でも振り返りそうな雰囲気をしている。


 どうでもいい。


 あの夢がなくなってしまった。


 現実から、消えてしまった。


 それだけが、心に、重く、のしかかって。消えなかった。


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