02

 子供の頃の記憶は、ほとんど残っていない。というか、存在していない。不思議なほど、空白。


 そして、あるのは、夢の記憶だけ。


 暗闇の草原。空いっぱいの、星空。夢現ゆめうつつの、不思議な出会い。


 いつしか、探すようになっていた。学校の合間。受験の合間。そして、仕事の合間。


 あの頃と同じ身長になった。


 大人に。


 夢の時と同じ姿になった。本当に、高身長になっている。


 子供でも夜に入れる、暗闇の草原。この国に、そんな草原はあまり多くはなかった。


 そしていま、ここが、その条件に合致する最後の草原。数時間かけて、住んでいる都市からここへ来た。


 草の感じ。空の感じ。


「ちがうな」


 ここも、違った。


 これで、すべて。回りきった。


 やっぱり、彼女には。逢えなかった。


 やっぱり。あの草原は夢の中で。彼女はもう、この世にいないのだろうか。


 せめて、星を眺めてから。


 帰ろう。


 流れ星が走っている。


 綺麗だけど、ちがう。


 あの日見た星空ではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る