夢現、流れ星、午前四時の風
春嵐
01 夢現
夢の中。
そう。
ここは夢の中。
明らかに自分の背が違うし、見える景色も違う。なんというか、かなり高身長に設定されている。
いつか、これぐらいの大きさになりたいな。
ここは。
宇宙のど真ん中。
下にも上にも。
夜の闇。
「違うな」
違う。暗くて見えないだけ。草を踏む感触がある。地上がある夢。となると、ここは明かりのない、夜の草原かな。
風は吹いていない。
夜空。
曇っていないようで、空には星の明かりが見える。
ゆっくりと目が慣れていく。
「夢なのに目が慣れるってのも」
変な話かもしれない。目はつぶっているだろうに。
風。
「うわあ。すごいすごいすごいっ」
「えっ」
誰か。走ってこちらに向かってくる。ようやく星の明かりに慣れはじめた目の端に。走る姿。
「うわっ」
「おっと」
ぶつかって、抱き留める。
ずいぶんと小さい。
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
急に縮こまった。
「ごめんなさい。その。人がいるって、わからなくて」
「私もです」
小さな子供、だろうか。
目が慣れた。姿。やはり子供。
座り込んで、星を眺めている。
「きれい」
「綺麗ですね」
私も、隣に座って星を眺めた。
都市に住んでいるから、こういう、空一面にいっぱいの星空は、見たことがない。
流れ星。流れる。
「えいっ」
隣の子供。
体重をこちらに預けてくる。
「大きくて安心しますね」
「そうですか。まあ、夢の中ですから。何でもありなのかも」
「夢?」
「いえ。こちらの話です」
「そっか。これ。夢か」
子供。急に、トーンダウンする。
「夢でも、まあ、いいか」
「何か、あったんですか?」
星を眺める小さな目。暗がりのなかで、ほんのすこしだけ、輝いている。
「いや、ええと。わたし、しぬかもしれないので」
「しぬ?」
「たぶんいま、手術中なんです。わたし」
「手術中」
「なんか、わたしもよく分かんないんですけど、気付いたらここにいて。すごく楽しくて。まるでこどもみたい」
「子供じゃないですか」
「こどもじゃないですう」
この反応のしかた。たぶん、本当にこどもなのだろう。
「まあ、いいか。私も背が高くなってるし、そういうことにしておきます」
「あなたは、大人じゃないんですか?」
「現役ばりばりの子供ですよ、私」
「うそつけえ」
彼女の身体。さらにくっついてくる。すこし、震えている。
「起きたくないなあ」
「なぜ?」
「しんどいから」
「起きたら手術が終わってますよ。きっと、目が覚めたら病気は治ってますって」
「病気じゃないもの」
「病気じゃないのに、なぜ手術を?」
「いや、ええと、そこはまあ、いいんですよ」
「そうですか」
「起きたくない。このまま、しんでしまいたい。この夜空と、草原のなかで」
「え、いやです」
「なんでよ」
「私を道連れにするつもりでしょ」
「あ、あははは。ばかみたい。なんで相討ちにする意味があるんですか」
私の胸のなかで。めちゃくちゃにわらっている。
「あはは。たのしい」
ひとしきり笑って。
「ありがとうございます。一緒にいてくれて。そろそろ、あなたは起きて」
彼女。さびしそうな顔。
こちらの胸から飛び出して。
「逢えてよかった。ありがとう。さよならっ」
走り去る。風だけを残して。
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