第4話 彼らの趣味とは?
「何か上から音がしない?」
確かに先ほどから、音がする。テレビに集中してたため、そこまで気になっていなかったが言われてみると、ごとごとと箱を動かしているような音がする。
一軒家で築15年ほど、昔ながらの田舎の家といえばいいだろうか、土地の広さから家まで大きく2人暮らしとしては大きすぎた。そのため空き室などがあるが引っ越してきたばかりで、適当に荷物を使わない2階に置き、1回を生活空間としていた。使わないものも捨てればいいものも多いが、置いておきたいものも多い。わかるだろう。今後何かに使うかもしれないものは置いておきたい。彼女も僕と同じ趣味をしているからそれをよく理解してくれていた。
妙な間隔をあけ、先ほどの音がまた聞こえた。
夕方のニュース番組では様々な報道がされていた。今日1日に起きた事柄をよくまとめているものだと思うし、その日のトピックなどは考えられていて面白い。
彼女はちょうど晩御飯の用意をしていて、テレビに背中を向けるような形だった。僕はというもの、仕事終わりということもあってくつろいでいた。「疲れたでしょ。さぁ、休んでいて。あとは私に任せて」とよく彼女は僕に言ってくれる。料理は僕より彼女の方ができた。ただ空腹を満たすためだけの消費的な行為だった食事が彼女と出会ってから、楽しみの一つとなった。そのために僕は仕事を頑張る。仕事と言っているものの、趣味でもあるんだがね。彼女にとっても料理は仕事の一部であり、趣味の一部でもあった。僕らの趣味は少し違っていて、ただそれらの円がかぶる部分があったからこそ出会えたのであろう。神様に僕は感謝する。
「聞こえるね。」
「ちょっと気になるけれど、僕はそこまで気にならないね。」
「確かにそれもそうかも。」
そういって彼女はまた台所に戻っていった。音は消えない。先ほどよりどんどん大きくなっていった。確認したいと思ってはいるが、それよりも疲れたという感想が大きい。確認するならば彼女の料理を食べた後にしたい。それくらい空腹だった。
帰ってきた時より日が暮れ、庭に面したガラス戸から見える近くの雑木林がうっそうとしだした。近くが山であり、自然も多い。ご近所さんというものもほとんどいなかったこともここを引っ越し先に選んだ理由の一つでもあった。
いろいろ含めて僕らにとって良い土地だった。
「ご飯できたよ。」
「ありがとう。」
そういってゆっくりと起き上がり、彼女の後ろに立った。後ろから彼女の首元へ手をまわし、ぎゅっと抱き寄せた。
「いつもありがとう。君に出会えたことが多分僕の人生の中での唯一の幸運だよ。」
「私もそう。あなたはいつもこうして仕事をしっかりやってきてくれるし、私をこうやって愛してくれた。」
彼女は僕に腕に軽くキスをした。
「お皿取ってくれる?」
「もちろんだよ。」
お皿を人数分取り出し、スープやごはん、メインディッシュと主菜などが盛り付けられていく。盛り付けもきれいで見ただけでよだれが出てきた。パブロフの犬と同じ反応だ。生体として学習過程として身につけられた必要か不必要かとは判別付かない、この反応さえ最近愛おしく感じ始めた。今日は僕に仕事は手伝ってはくれなかったけれど、以前手伝ってくれた時、彼女も同じように瞳孔が開き、僕と同じように興奮を覚えていた。
まだごとごとと音は聞こえる。僕らは気にせずご飯を食べ、そのまま寝てしまった。
次の日は仕事を休みとした。特に急ぎで行う必要もないし、蓄えは必要以上にあった。
誰かに邪魔されず、短い命でもその日、その日を確かに暮らしていきたいというのが僕らの願いだった。昨日出た生ごみは雑木林の方へ捨てに行く。生ごみのため、庭の肥料などにしてもいいのだが、今日は少し面倒に感じ雑木林の少し奥にある川に捨てに行った。町内のごみ捨ての日程などは認識してなかったし、町内といえる区画自体この地域にあるんだろうかもわからない。案内の方はいい物件があるんだと教えてくれ、近隣についても教えてくれたが特に人がいるなどは話していなかった。
仕事がしやすいともいえるし、しにくいともいえる。
ごみ捨てを終え、僕は家に戻った。昨日聞こえていた音のことを思い出した。そういえば今日は朝からまだ聞いていない。生ごみをすててきた袋を片手に玄関に入る。
そうすると玄関に彼女が倒れていた。後頭部から血が流れていた。しかし血の量はそこまで多くなく、外部から見る限りは軽傷のようだ。軽い脳震盪を起こしているのかもしれない。いったん僕は、彼女をそのままにし母屋から離れた小屋に退散した。
ある程度準備を終えて母屋へ出向く。元凶はもしかしたら2階にいるかもしれないし、逃げ出したかもしれない。最悪、彼女を八つ裂きにしているかもしれない。一番最後のものは考えたくもなかった。
自分の失態が彼女を気づつける結果になってしまった。いつもなら確認しに行くものの、昨日だけは確認を怠ってしまった。反省点はそこだけだ。気絶しているから彼女へあれ以上手出しはしないだろう。
庭に通ずるガラス戸から土足で僕は家を歩き、2階まで探してみたが何もなかった。あるはずのものも。黒のエプロンを外し、彼女を何とかして起こして外の車に運び込む。そうして再度家に戻り、今度こそ大切なものだけを取りに行く。
「昨日お昼頃、23歳女性のイロマさんとその交際相手である25歳男性のカグロさんが行方不明となりました。」
つけっぱなしのテレビからはニュースが流れていた。僕は冷蔵後から昨日の残りものと残った食材だけを取り出し、車に戻ってその場を後にした。
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