九月十日、水曜日、午後一時
羽田空港国内線第二旅客ターミナル。早めにチェックインを済ませてください、とのことだったので二時間前に到着した。事情を話し、レーでの欠航証明書を提示すると、大変でしね、いつ帰られるかわからないと書いてあります、と労ってくれた。この手のベタな優しい言葉にも涙腺が堪える。
早めに着いたところで、特にすべきこともなく、いつもどおりに搭乗手続きをし、保安検査を終え、待合室へと向かった。能登空港行きはバスで搭乗するらしく、階段を降りて、一階のバス待合室に入った。
僕と同じ便を待つ乗客はほとんどいなかった。地方空港としてそれなりの成功を収めているという能登空港にしては、大丈夫だろうかというくらいのまばらさだった。
東京の繊細な空気に浸って、楽しかったことや辛かったことを思い出し、また感慨にふけっていた。やはり、空港の風情はクセになる。空港での空気感も旅の重要な要素なのだ。自然と涙がこぼれそうになる。
「ANA、能登行き、749便をご利用のお客様にお知らせします」
おきまりのアナウンスが流れる。席を立ったのは僕の他に五、六人だった。皆無言で改札を通過し、バスに乗り込む。なんて静かなんだろう、と心が震える思いがした。
午後三時五十五分。無事、僕の足は能登の足を踏んだ。
ふるさとタクシーには、能登に旅に来た若者が同乗していた。運転手は「今日は祭りで云々」と会話している。方言が懐かしい。
予定どおり、自宅まで届けてもらう。目の前の神社から太鼓の音が聞こえてくる。大きな赤い幟旗も見える。祭りとは僕の地域のことだったのか。
薄暮れの鄙に、ボン、ボン、という、心地よい、どこか愁いのある太鼓の音が響いていた。
終わり
〈旅行記〉ナニサガシテルノ? −インド滞在記− こえ @nouvellemer
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