八月三十一日、日曜日

 今日はなにもしない日と決めていた。

 昼ごろに起きて、ホテル前のカフェ「フェスタ」でターリーを食べる。ターリーとは、大きめのプレートに、主食の米とチャパティが乗り、その他に、豆カレー、野菜カレー、チキンカレー、様々なカレーやヨーグルトなどのメニューが添えられた、お腹いっぱいになれるメニュー。基本おかわり自由だ。

 食べた後は、何気なくぶらぶらしてた。すると、出てすぐの所に映画館がある。シネコンではなく、日本でいう名画座のような、地元の映画館だ。インペリアル・シネマというらしい。ちょっと興味がある。特にすることもないし、僕は映画でも観てみようかという気になった。入り口にいた男に上映スケジュールを聞くと、三時五十分から次の上映があるという。

「ラブストリーだぞ」

「歌って踊るやつ?」 

「もちろん」

 ということで、何もしない日というのを改めて、念願の歌って踊るインド映画を観ることにした。

 時間にインペリアル・シネマに戻ると、もう上映が始まっているようだった。もしかして、とは思っていたのだが、上映は三時十五分からだった。フィフティーンとフィフティを聞き違えていたのだ。

 入場料は三〇ルピー。日本円で約五〇円。日本の映画の入場料が高いとはいえ、この安さは凄い。さすが、映画製作本数世界一の国だ。この国の人の映画愛は素晴らしい。

 シアターに入るとかなり古びた印象で、椅子もまともに座れない。空調はなく、扇風機が回っている。席は八割方うまっていた。

 途中から観たところによると、娘を悪の組織にさらわれた男がそこ殴り込みにゆく話らしい。どこがラブストーリーなのかと思っていたが、ちゃんと(?)その過程である女に出会い、ロマンスめいた場面はあった。なかなかB級であった。

 待っていたダンスシーンになると、観客の歓声、手拍子、口笛がすごい。ワーワー、パチパチ、ピーピー、ドウドウ、ブーブー、ギャーギャー……。会場一体になって狂乱の渦、というのはいい過ぎだが、観客の映画に対する愛を感じた。停電で上映が中断したときのブーイングも凄まじかった。あまりに騒ぎ過ぎてスタッフに怒られている人もいた。それも一度や二度でない。ダンスシーンの度に注意されてた懲りないやつだ。

 最後は、満身創痍の主人公が死ぬ間際、娘との思い出がよみがえり、突如力がみなぎり、敵をやっつけるというものだった。ドラゴンボールのような展開だと思った。

 ホテルに帰ると、腹がきりきりと痛む。インドでは必ず腹を壊すというが、僕の場合下痢ではなく、むしろ便秘気味だった。そのせいか、腹の底に重たいものがあり、身動きが鈍い。ガンガーの水がよくなかったのだろうか。なんとなく効く気がして、ラッシーを飲んで寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る