八月三十日、土曜日、午前十一時
今日の午後二時四十五分の飛行機でニューデリーに帰ることになっている。前日、世話焼きのラジュに「おれがバイクで送るから待っていろ」と言われていたので、ホテルに頼んでいたタクシーをキャンセルし(ラージ氏は怪訝な顔をしていた)、ラジュを待っていた。
彼は律儀に時間は守る。日本人を尊敬するだけある。約束の時間にホテルにやって来て、二人乗りで空港に向かった。ずいぶん飛ばしてかなり怖い思いをしたが、約四十五分ほどで空港近くのモーテルのような所に着き、そこで昼食をとることに。そこでいろいろ話しはしたのだが、気になっていたことを聞いてみた。
「ラジュに両親はいるの?」
「実は父とは仲が悪いんだ。おれ、KDとクドゥと日本人以外信じてない。父もね」
やはりその言葉に感じられた翳りのようなものは家族関係の不和だった。彼の刹那主義的な生き方はそことは無関係ではないと感じた。
「だからおれ、両親に頼らず日本に行って働いてる。自分の力で生きるんだ。人間明日死ぬかもわからない。明後日死ぬかもわからない。誰もわからない。神様に呼ばれた時、行くね。それだけ」
それ以上聞いていいのか。聞くべきだったのだろうけど、聞かないことにした。
「デリーに着いたらメールしてね」
「オーケー」
とだけ最後に交わし、空港へ。そういえば食事時にラジュはビールを飲んでいた。この国は飲酒運転にも寛容なのだろうか。
ニューデリーへは予定通り、午後四時二十分に着いた。
バラナシよりは暑さは弱いものの、ニューデリーにはニューデリーの独特の暑さがある。少し、懐かしさを感じた。
特に何をするわけでもなく、以前と同じホテルに戻った。
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