2.怪奇!ニトログリセリン人間世に放たる!3

 父親は近くにあった椅子を引き寄せ腰かけた。飛雄もベットの縁に腰かけた。

「気分はどうだ?」

 父親がゆっくりとした口調で訊ねた。飛雄はただ一言

「頭が重い」

 とだけ答えた。

「鎮痛剤を出しておこう。」

「お母さんは?今出かけているの?」

 父親が目をしばたかせた。

「それを聞くと思っていた。お前はお母さん子だもんな。…… お母さんはもういない。本当だ。

お前があんなことになってすぐに。絶対に言わないといけないと思っていたことだけれど。これを伝えるのは辛いことなんだ。わかってほしい。」

 飛雄は虚ろな目をしてじっと父親を見つめていた。父親は飛雄の手をとって機械的にさすりだ

した。

「本当は飛雄もいなくなったはずだったんだ。覚えているか?あの日だ。赤い便の出た。お前は腸の病気だったんだ。入院してからすぐだった。お医者様にだって手の施しようがなかった。施そうにも、その前にお前があんなことになってしまったかだ。」

 飛雄は俯いてじっと床を見ていた。少しずつ自分の息が乱れているのがわかった。

「でももう安心だ。俺がお前を起こしたんだ。飛雄のもともとの身体は駄目になってしまったけれど、俺が新しい体を用意した。だからこれからは思い切り生きていける。悔しかったあの日の分まで。」

 飛雄はベットの縁を掴んでいた。話を聞けば聞くほど、理解すればするほど、体が強張っていく。彼の身体はわなわなと震えていた。ベットの縁を掴む手は自然と力を増していく。強く掴まないと体が倒れてしまいそうだった。低いびりびりという音がベットをから聞こえてくる。

「飛雄、いくつか気を付けて欲しいことがある。絶対に火の回りには近づかないこと。詳しくは後で説明する。自分のことは爆発物だと思った方が良い。それと」

「誰が起こしてくれと頼んだ?」

 蘇った青年は低い声で訊ねた。彼はそのままベットの縁を握りつぶした。

「二つ目の注意事項はそれだ。お前の力は前よりずっと強くなっている。だから日常の力加減は気を付けなくてはいけない。」

「誰が起こしてくれと頼んだ?」

 彼は震える声でもう一度訪ねた。

「お前の母さんだ。お前の母さんはお前がどんなことになろうとも、生き返ることを望んでいた。」

 父親は飛雄の肩にゆっくりと手を置いた。飛雄は泣き崩れるよりなかった。悔し気に床を叩くとコンクリートの床がへこんでいくのが見えた。

「いいか、一番大事な話だ。よく聞いてほしい。お前の身体は」

 飛雄がぎっと父親の睨んだ。

「いいか、お前の身体は」

 飛雄の視線がさらに強くなる。父親は言葉が詰まっているようだった。

「お前の身体はニトログリセリンで出来ている。」

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