2.怪奇!ニトログリセリン人間世に放たる!4
その日、飛雄はあるコンビニエンスストアの前にいた。時刻はもう深夜の一時である。赤い看板の光が目に突き刺さった。飛雄は細く短い息を吐き、自動ドアをくぐった。彼はそのまま右に曲がって雑誌のコーナーでぺらぺらと雑誌をめくった。二三頁ほど、中身のない雑誌に目をとおしたが、くすりとも笑えなかった。彼は目をあげて外の風景をぼんやりと見つめていた。
白いハイエースがゆっくりと道路を横切っていった。LED の街灯が不自然なほど強く道路を照らしていた。そとを歩く人は誰もいない。先ほどのハイエース以降、車が通る気配はない。
飛雄は手ぶらのまま、ゆっくりとレジに歩みを進めた。が、急に踵を返し、入り口近くの栄養ドリンクのところで立ち止まった。なにをするともない。飲み物を一つ取り上げて、成分表示をまじまじと見つめていた。
「…… アルギニン」
彼は一言呟いた。そして納得したかのように飲み物を棚に戻した。それからじっと棚に並ぶ飲み物の群れを見詰めていた。
「…… タウリン1000 ミリグラム配合」
飛雄が呟く。それに応える人間は誰もいない。彼はレジの方に振り返った。
「すみません」
飛雄が店の奥に向かって叫んだ。奥の扉を開けて白髪交じりの少し姿勢の悪い男が姿を現した。
「はい。」
男性がぶっきらぼうに答える。
「あの、お金を出してください。今店にあるお金を全部。」
「どうしてですか?警察を呼びますよ。」
「いいから全部だしてください。早く。」
「馬鹿なこと言うんじゃないよ。」
男性がぐっと飛雄の腕をつかんだ。飛雄は落ち着き払ってその手を払いのけた。子供のように手は払われた。と、今度は飛雄が男性の腕をつかんだ。男性は振り払おうとするが彼がもがけばもがくほど、飛雄は握る力を強めていく。
「警察を呼びますよ。」
男性は悲鳴のような声で叫ぶ。飛雄は店員を御握りコーナーへ投げ飛ばした。悲鳴もあえぐ声も聞こえてこない。どうやら店員は気を失っているらしい。飛雄は店員を蹴り起こした。
「お金を出してください。早く。」
男性が虚ろな目でレジの裏に回った。
「俺の身体はニトログリセリンで出来ています。本当です。警察を呼んでも、彼らは私に撃つことも強く殴ることもできません。もしそんなことしたらこの店どころか、ここらあたりが瓦礫の山になりますよ。」
飛雄は自分の髪の毛を一本抜きとると、レジ横のライターを掴んで慎重に髪に火をつけた。
髪の毛が導火線のように一気に燃え上がった。店員は息も吸えず青白い顔をしている。
「ぼうっとしないで早くお金をだしてください」
飛雄はそう叫びながらレジ台を叩き壊した。
男性は黙って店中の金をかき集めるよりなかった。
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