2.怪奇!ニトログリセリン人間世に放たる!2
ある日の朝である。飛雄はどんよりと重たくなった瞼を開けた。じんわりと頭の奥で鈍痛が響いている。ズーンズーンと頭の奥で鈍い音が止まないだ。
彼のまわりには誰もいなかった。無機質な白い空間が広がっていた。
飛雄はあの日を思い出した。あの日、彼は重くてたまらない瞼をなんとかして上げた。母親と父親がそこにいた。母親が強く自分の手を握っている。
元をただせば全ては止まらない下痢から始まった。一年中止まらない下痢である。あるとき赤い便が出た。飛雄はそれを母親に報告すると、彼は直ちに病院に担ぎ込まれた。いくらかの検査を受け、彼には薬と断食が与えられた。それが二日ほど続き、あるとき急に瞼が重くてたまらなくなって、その衝動に体を任せた。そのまま意識を眠りの世界に委ねていたが、急に目が覚めた。
父親と母親が自分を囲んでいる姿を見ていた。そのときの母親の声や目線が今でも忘れられない。
母親は一定のリズムで彼の手を摩る。その感触が実に心地よかった。彼の頭は再びびんやりと、絵の具を混ぜているパレットのように、ゆっくりと消えて行くのがわかった。
「もう良いんだ。眠ろう。」
彼はそのままゆっくりと目を閉じた。もう目覚めることはないと思っていた。ところが、彼は再び目を覚ましたのだ。しかも身に覚えのない白い無機質な部屋である。
飛雄はゆっくりと身体を起こして、おおきく背筋を伸ばした。そうしてあたりをゆっくりと見回して、黒光りのする冷蔵庫を見つけた。飛雄はゆっくりとベットから足を下ろした。足の裏に冷たいひんやりとした感覚が足の裏に伝わる。
「うっ」
飛雄がつぶやいた。そのまま冷蔵庫までぺたりぺたりと歩を進めて、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
なにか移し替えるコップはないのかとあたりを見渡したが、どうにもそういうものはなかったので、パックの口から直接飲んだ。口から少しばかりこぼれたのを、服の袖で拭った。
と、白い金属製のドアがゆっくりと開いた。見慣れた中年のやせ細った男がいた。
「おはよう。飛雄。」
男は飛雄に微笑みかけた。この男が父親だったことを飛雄は理解した。
「おはよう」
飛雄もまたにこやかに微笑みかけた。
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