1.頭の皿 -7
朝6 時50 分、寮の前に一台の車が停まった。それから6 時59 分に分厚いドアを開けて旭が現れた。ちょうど明もその時間に玄関を開けて表に出た。玄関の鍵を閉めてそっと外を見ると、旭と目があった。彼らは黙礼した。
旭はなにも言わずに明を助手席に案内した。二人は重いドアを閉めてシートベルトを締めた。
「おはようございます。」
旭が呟くように言った。明もそれに続いた。
「昨日はよく眠れましたか?」
明は同意した。
「今から長い旅になります。今日の任務について説明いたしますね。」
旭はゆっくりと車を出した。まず20 分ほど走ってハンバーガー屋で珈琲を買った。旭は大切なことを話すときのようにゆっくりとした口調で、トイレに行かなくても良いか尋ねた。明が念のため行っておきたいと言った。旭が、では私も、と言ったため二人してハンバーガー屋のトイレを借りることになった。
それから程なくして高速道路に乗ったため景色も代わり映えしないものになった。明は無機質なコンクリートの壁の先の、遠巻きに見える大きなパチンコ屋の看板をじっと見つめていた。視界の端では縦に丸めた新聞紙ほどの大きさの葉巻きを咥える旭が見える。
「そろそろ退屈ですよ。景色が変わらなくなってきますから。」
明は珈琲を口に運んだ。旭が任務の説明を始めた。
その内容とは以下の通りである。
今回の収容任務、収容対象は河童である。無論、河童の収容は初めてではない。これまで何体もの河童を収容している。だが、今回は任務云々よりも、人類と河童の歩みと外交上の事情を語る必要がある。
まず河童という民族の大半は極めて友好的な民族である。SMDS の尽力もあり、河童族とは極めて良好な外交上のパートナーとなっている。ところが河童族にも穏やかでない連中がいる。彼等は斑紋派と言われている。斑紋派の連中は自らの頭の皿に斑紋型の刺青を入れる。それも焼きごてで焼き入れていく。命の象徴である頭の皿に焼きごてを当てることは、人間にとって想像を絶する苦痛がある。それこそ脳に直接焼きごてを当てるようなものだ。そういった過程を経て彼等の意思は強固なものへとなっていく。
斑紋派は人間たちとの外交、貿易に全面的に反対している。端的にいうと孤立主義である。こ
のような思想は河童至上主義と言われている。基本的に斑紋派の連中は積極的に人間に被害を及ぼすため、未確認生物として収容を許可されている。
今回の件に関していうと、貿易目的の輸送車が20名の斑紋派に襲撃され、人口尻子玉30000個と、運転手と警備の二人が姿を消した。同じタイミングで河童国からの連絡も、救助要請を最後に途絶えた。これは斑紋派による河童国の占領を意味する。
そのため、今回は斑紋派の河童たち20 名の確保収容を行う。ということであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます