1.頭の皿 -4

 ぎぎっとまた重い戸が開いた。先程までの男と、もう一人別の男がいた。

「旭くん、それは駄目だよ。また俺に無茶しろというのか?」

 先程までの男とは別の男が言った。濃いグレーの背広を着た、先程までの男と同じ年代ぐらいの、こちらは酷く肥えた男である。

「まあ待ってくれよ後藤くん。俺だって仕事なんだから仕方あるまい。それに俺がこういった無茶をすることは織り込み済みだろう。ここは堪えてもらわんと。また珈琲でも奢るから。」

 明を連れてきた背の高い、ひょろひょろした鷲鼻の男が言った。先度までと違い、悪戯げな屈託のない笑顔を覗かせていた。

 そして彼らは明の方を見て一瞬間沈黙した。

「こんにちは。SMDS 日本支部の事務室長の後藤(ゴトウ)です。よくおいでくださいました。歓迎します。ほら、君も愛想良く名前の一つでも言ってみたらどうなんだ? 失礼だろう?」

 濃いグレーの背広を着た後藤という男が言った。

「人材育成担当の旭栄三郎(アサヒエイザブロウ)です。」

 濃紺の背広を着た旭という男が続いた。それを聞いた途端に後藤が堪えきれない様子で笑い出した。

「旭くん人材育成担当だなんてな。あいつらの認識を疑ったよ。なんにせよ、君が無茶をするせいで来年度の予算はゼロだな。」

 二人は大笑いしていた。明は眉一つ動かさず黙礼した。

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