Ⅳ
「誰がモブよ。誰が」
アヤカはソウヤを睨みつける。
「俺からしてみれば、ミキもお前もただのヒロイン。攻略難易度の高いメインヒロインって訳ではないんだよ。だから、気軽に話しかけやすいし、こうして、勉強も教えてもらえる。ようするにそういうわけだ。分かったか?」
そう言って、再び、ペンを走らせる。
たとえ話が偏りすぎて、ミキは少し頭を悩ませ、アヤカは深々と重いため息を漏らす。
教室の窓から流れ込んでくる廊下で冷えきった隙間風が、肌寒く感じる。
「ミキ。あんた、意味、分かった?」
アヤカがミキの耳元でささやいた。
「あ、うん。まぁ・・・・・・要するに・・・・・・そういう事、なんじゃない?」
ミキはうまく言葉にできず、適当に返事を返す。
確かにその例えは分かりやすくすれば、そうなのかもしれないが、結局の所、簡単に述べると、ソウヤにとって、ミキやアヤカも同等の立場であり、ソウヤの恋愛対象、攻略対象ではないということだ。
そして、朝のショートホームルームの予鈴がなる。
クラスメイト達は、次々と自分達の席に戻り、担任と副担任が揃って教室に姿を現すのを待つ。
「あれ? そういえば、今日、まだ、ヤマト君の姿を見ていないけど・・・・・・休み?」
いつもの席に彼の姿を見なかったアヤカが、ミキに尋ねる。
「あ、そういえば、私も今日、会っていないんだよね。一応、朝、家に入ったんだけど・・・・・・」
「おいおい、朝っぱらから会いに行ってんのかい。あんたは・・・・・・」
アヤカは突っ込みを入れる。
「あー、そういや、ヤマトなら朝、学校に行く途中に見かけたぞ」
ソウヤが少し前の事を思い出したかのように言った。
そして、机の上には、もう時間がないと思ったのか、最後の方の長文をほぼ、適当に殴り書きされた英語の長文の翻訳が書き終えて、その上にペンが置かれていた。
「え、いつ?」
ミキがソウヤの方を見る。
「いや、そんなに強く見られてもなぁ。でも、あいつならあの海岸で制服を着たまま、ぼーっと、した様子だったからな。俺はこれを終わらせるために早く学校に来し、話しかける暇なんてなかったぞ」
そうして、右手に出来たペン凧を触る。
固くなった皮膚がその部分だけ、ふっくらと盛り上がり、そこ特有の形が出来上がっている。
「そもそも、あいつが何を考えているのか、分かっているのか? ミキが何者なのかを知っているのは、俺を含めてもほんの一部にすぎない。ヤマトが学校をサボろうが、サボらまいが、俺には関係のない事だ。だから、奴の行き先は、誰も知らないって事だな」
ソウヤに言われると、本当に誰もヤマトの行き先を知らないらしい。行き先さえ分かればいいのだが、制服を着ていた、となると、学校へ行く意志はあったといえるだろう。
だが、なぜ、ヤマトが海岸へ何をしに行っていたのかは謎であるが、彼の行動から察するに、無駄でないことだけははっきりと分かる。
だから、ミキは、それを聞いただけで彼が何を使用としているのか、深く理解できなかっただが、彼は今日、学校には来ない事だけは、はっきりとした。たとえ、制服を着ていたとしても、それは家から出て行くカモフラージュに過ぎない。彼が遅れて着た事なんて滅多にないのだ。だからこそ、心配でもある。
「たぶんだけど・・・・・・大丈夫だよ。ヤマト君は休みだと思うから・・・・・・」
ミキは二人に言った。
「へー、なんで?」
アヤカはミキの言葉に反応する。
「なんとなく・・・・・・だよ。ほら、彼って、遅刻って滅多にしないじゃない。それにぼーっと、していたんじゃなくて、考え事していたんだと思う」
「ふーん。ま、ソウヤの話からして、ミキの考えている事は間違ってはいないわね」
アヤカが頷く。
すると──
「ほらー、お前ら、静かにする。ホームルーム始めるぞー」
と、担任教師の
燐とした茶髪にかかった赤髪が、ふわっと、宙を舞い、透き通る鋭い目が、生徒たちを一瞬にして、黙らせる。
歳は、まだ、二十三でありながら、この学校の担任教師を任されるほどの腕をもっている。担当教科は、数学である。
美人であり、その上、頭がキレる所は、生徒からして、見習わないといけないところではあるだろう。
そして、隣にいる三十代くらいの長身の男こそが、最上ソウイチであり、このクラスの副担任。桐谷ライカをサポートする側である。担当教科は体育。
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