Ⅱ
天海市の南にある高校であり、天海市で最も全校生徒が多い高校で有名である。
近くには夏になると、人で賑わう有名な海岸がある。
それぞれの学年には二百人程度いて、南高校は普通の偏差値であり、この高校は受験生にとっては人気のある高校である。
そして、四月。
在校生にとっては一学年上がった時期であり、新入生が高校に上がって少し初々しく高校生活に慣れ始めたころである。
ミキ達は校門をくぐり、小さな桜並木の道を歩く。
桜の花びらが舞い、その中を歩く生徒達は、春風にあてられて、寒そうにしていた。
さすがの天海市であっても、この春の朝は、少し寒いのである。
「おー寒っ‼」
アヤカは腕を組みながら、体をブルッと、震えさせる。
「アヤカ、桜、待ってるよ」
ミキは満開で散ってゆく桜を指さす。
「おー、知ってる。知ってる」
アヤカは適当に返事を返す。
「ねぇ、アヤカ。もしかして、寒いの?」
「はぁ? ちょっと寒いに決まっているじゃん。あんた、よくもまぁ、この寒さに耐えきれるわね」
「うーんそうかな?」
ミキは、自分だけおかしいのかと少し考える。
「流石、朝の鍛錬だけ忘れないはずだわ」
アヤカは、この寒さを平気そうにしているミキを見て、羨ましそうに言う。
「それにしても春だって言うのに、もうすぐ五月だよ。どうにかならないの?」
「さぁ、今の時期、地球温暖化も進んでいるからしょうがないんじゃないかな?」
「それだったら、普通、暑くなるんじゃない?」
アヤカは、『はぁー』と、息を吐く。
「あ、そうそう。そう言えば、物凄い特ダネがありましてねぇ」
アヤカは急に話を変える。
「特ダネ? 何かあったの?」
ミキはアヤカの話に耳を貸す。
「今週、転校生が来るの、知ってた?」
「転校生? こんな時期に? なんで?」
「それもその転校生は男でしょうか。女でしょうか」
アヤカはミキに問いかける。
「うーん・・・・・・。男の子・・・・・・かな?」
ミキは、答える。
「なるほど・・・・・・。なるほどねぇ・・・。正解! なんと、転校生は男の子なのよ! それも余所から来た謎多き少年。──って所までが私が先生から知り得た情報。それから先は、本当に謎なのよね」
アヤカは、首を軽く横に振った。
「アヤカ、なんであんたがそこまでの情報を知ってるの・・・・・・。それにその話、どの先生から聞いた話? 殆ど、初耳なんですけど?」
ミキは、アヤカの話を聞いて、呆れ果てていた。
(先生もまぁ、アヤカにぺらぺらと話すもんですなぁ。この子の情報網って意外と変なところから仕入れて来たりするんだよね)
ミキは、アヤカを見て、そう思った。
二人は、桜並木を抜け、三つの校舎に分かれている内の中央校舎一階の玄関にたどり着いた。
ミキ達意外にも生徒たちがぞろぞろと集まって来て、靴からスリッパに履き替える。
南高校の校舎は、職員室や図書室、売店がある南校舎。全校生徒がそれぞれの教室で勉学に励む中央校舎。理科室、物理室など特別教室がある北校舎の三つに分かれている。
二年生に上がったミキとアヤカは、二年二組の下駄箱からスリッパを取り出し、靴と履き替える。昨日の雨のせいなのか、床には小さな砂が泥になっていた。
一階のフロアにある階段から二年の教室がある三階を目指し、階段を上る。
「それで、その謎多き転校生はいつから転向してくるんですか? アヤカさん?」
ミキは階段を上りながら訊く。
「えーとねぇ・・・・・・、確か、明日だったような気がするんだよね」
「明日? 明日ねぇ・・・・・・。と、言ってもその次の日はすぐ週末になるんだけど・・・・・・」
ミキは、明日ではなく、明後日のことを考えていた。
今日は木曜日、学生にとっては週五日の中で勉学の疲れが最も出やすい日であり、金曜日になると、そんな疲れも忘れて、土日、週末のことを考えてしまうのだ。
そして、その転校生は金曜日に転向してくるのである。
クラスにとっては、ラッキーなのだろうが、教師にとっては少し困惑するのであろう。
週末課題を出さなければ、授業すら、先々と進めるわけにはいかなくなり、そして、転校生の学力すら把握もしていないのだ。
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