第6話 計画のひずみ

 私の計画が始まって、3ヶ月、半年……もう、それ以上になるか。


 寄附を受け取っているのは、あの老神父であった。それにあの老尼僧が一緒にいることが多い。それでも私のいとしの人を……月に一度だけ眺められればいい、と私はここに通っているのだから我慢しなければ……。しかし、彼女を見かけたとしても声がかけられないでいた。


 ――情けない男だ。


 彼女の前では、声が出ないから仕方がない。

 私の寄附金によって、教会は少しずつ……いや、目に見えて潤ってきているのが判った。

 薄暗かった聖堂は明るく、小綺麗になった。みすぼらしかった木像は元に戻ったのか、金箔張りへと変貌を遂げた。他にも探せば、いろいろと修復され、買い換えられているであろう。


 そして一番、変わったのは神父と尼僧だった。

 痩せこけていた老いたふたりは、栄養のある食事を取っているのか、顔色も体付きもよくなってきていた。金に余裕が出来たのであろう。彼らの服装も変わりはじめていた。


 ただ、変わらなかった。私の愛しい人だけ……。

 初めて会ったときと同じ、みすぼらしい服装のままだ。それに……微笑んでいたエレイナ愛しの人の顔つきが変わってきた。

 気が付けば、彼女は私を避け、顔を見れば怪訝そうな目を向けてくる。眉間にしわを寄せている。


 ――やはり、悟られてしまったようだな。


 そんな……細心に注意を払い、彼女に接してきたつもりだ。神父達を見る限り、生活も豊かになったはずだ。


 それが彼女の意に沿わないというのか? 


 私にはこれ以上どうすべきか判らない、理解できない。

 そして、ますます理解できない出来事が起こる。彼女と初めて会ってから1年が経とうとしていたときだ。

 それは教会の小さなキッチンであった。

 私はなんでそこに入ったか覚えていない。気が付くと後ろでドアが閉じる音が聞こえた。

 振りかえると、エレイナがドアを塞ぐように立っていた。

 私の記憶では、ふたりになれたのは初めてであった。しかし、


「わたくしに情けをかけているのですか!」


 その顔は、微笑みではなく怒りであった。


「――あっ、私は……」


 言い返せない……いや、私が何を言っても彼女には届かなかったのであろう。

 そのまま私の愛しの人は、ドアを勢いよく開けて飛び出していった。

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