妖猫
神名 信
妖猫
東京の北区にある巨大な団地。
その一室に
それは、小学校3年生の頃、翔太が学校から帰ると一匹の子猫が段ボールに入れられて、捨てられていた。
「翔太、汚いから持ってくるなよ」兄は冷たい言葉を放つ。
12月の東京は子猫にはとても寒かっただろう。
翔太は子猫を抱きかかえると、服の中に入れて温めてあげる。
子猫は、か細い声でニャアニャアと鳴き声をあげる。
兄はそれを見て、猫をつまみ出そうと翔太に掴みかかるが、翔太は猫をかばい続ける。
兄は根負けして、何も言わなくなった。
家に帰ってきた翔太に対し、仕事から帰ってきた母親もまた冷たかった。
「捨ててきなさい」
そう、言われて、翔太は泣きながら家を出た。
土手に座って、猫を温め続けること3時間。
父親が探しに来てくれて、子猫を家で飼うことを許してくれた。
翔太は、懸命にミルクを与えた。
子猫用のキャットフードも自分のお小遣いから買ってきた。
それでも、子猫は寒い風に当たりすぎていた。
最後に、ニャアと泣いて、翔太の方を見るとそのまま息を引き取った。
それから15年、翔太も24歳になった。
大学を卒業した後、新卒で入った会社になじめずに辞めてしまい、今は派遣会社で事務の仕事をしている。
朝9時から夜は6時まで、ほとんど残業もなく翔太には丁度いい仕事だった。
「藤堂君、正社員になったらどう?」上司にもそう言われるが、もう少し気楽に派遣を楽しみたかった。
会社は新宿三丁目にある、翔太が借りているアパートは地下鉄の要町駅から近い。
通勤も楽で、毎日それなりに楽しく過ごしていた。
そんな、ある日、アパートに来客が訪れた。
ピンポーン
日曜日の昼間、ベルを鳴らすのはセールスか宗教の勧誘か、無視するしかないな。そう翔太は思った。
ピンポーン
ピンポーン
だめだ、しつこい、怒鳴り飛ばしてやろうと、ドアをガチャっと開ける。
「翔太」
「え?あ、ん?っと???」
翔太の目の前にはまだ高校生になったばかりくらいの女の子が立っていた。
「翔太」そう言って抱き着いてくる。
「え?だれ?」
「私のこと忘れちゃったの?」
とりあえず、玄関先で高校生と抱き着いているわけにはいかないと、家の中にあげた。
汚くちらかった部屋の中を見てもその女の子は動じなかった、むしろ、翔太のことしか見ていないようだった。
「とりあえず、お茶でも飲んでください」そう言って冷蔵庫からお茶を取り出してテーブルの上に乗せる。
「お茶なんてどうでもいいでしょ」そう言って女の子は翔太の胸に体を預ける。
「え、いや、それより、君、誰?忘れていたりしたら本当に申し訳ないんだけど」
「覚えてないの?私、翔太に救われたの」
「え?本当に?全然覚えてないよ」
「翔太、小学生の時に拾った猫のことなんてもう覚えてないのかな?」
「猫、ああ、覚えている、可哀そうなことをしちゃった」
「可哀そうなことなんてしてないでしょ!猫ってさ、寂しさの中で死ぬと悪霊になるの、でも、幸せの中で死ぬと神様になれるんだよ」
「え?そんなことってあるの?」
「そう、私があの時の猫だから」
「え?本当に?どっきりとかじゃなくって?」
「どっきりじゃありません、翔太、でもね、神様って言っても何でもできるわけじゃないの、時間を操ったりは、少なくとも私にはできなくて、転生して女の子に生まれてから、翔太の所にたどり着くまでに15年かかりました」
「そ、そうなのか・・・」まだ女の子の言うことが理解できていない。
「私が普通の人と違うところを何か見せてあげようか」
「え・・ああ、うん」
少女が翔太のおでこに優しく触れると翔太の脳裏に子猫が死んでから、目の前の少女として生まれ変わるまでの死後の世界が映し出される。
「
「はい、莉桜です、あなたにまた巡り合うためにこの世に生まれ変わりました」
「ごめん、俺、君を助けられなくて、どう償えばいいか分からないよ」
「翔太、なんで謝るの?一生懸命だったでしょ?私ちゃんと分かったよ、翔太の愛があったから私ここにいるんだよ」
「ああ・・・でも、」
「翔太に恩返しがしたくってここに来たの、翔太に彼女がいないことも分かっているんだからね」
「はは、神様にかかったら隠し事はできないね」
「それに、多分、こんな風に髪の毛が長くて身長が155センチで翔太のことだけ考えてくれる女の子がいいんでしょ?」
「ん・・・それはそうだけど、莉桜はまだ15歳なんでしょ?」
「すぐに変なことをしようとするから年齢とか気になるんじゃないの?私は翔太のために生まれてきたんだからどこにも逃げません、だから大切にしてください」
「あ、うん」
莉桜は翔太に抱き着いて、そう、あの時みたく、幸せな顔をしていた。
妖猫 神名 信 @Sinkamina
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