第138話 勝利の歓声とプロポーズ

「うおっしゃぁぁぁぁ!! 勝ったぞぉぉぉぉ!!」

「俺達の勝ちだぁぁぁぁ!!」

「これ俺達が最初じゃね? うおぉー!やったぜぇ!!」

『やりやがったなお前ら!!』

『ちくしょう俺も混ざりたかった!!』

『俺らもすぐ追い付くからなぁ!!』

『最速攻略おめでとぉーー!!』


 プレイヤー達の声に紛れて、配信を見ていた人達からも悔しさと称賛の声がどんどん届く。いやぁ、盛り上がってるねー。

 なんて呑気にしてたら、サーニャちゃんが大急ぎで駆け寄ってくるのが見えた。およ?


「お姉さん! 《キュア》、《ヒール》!」


「あ、そういえば私死にかけてたね。忘れてたよ」


「もう、忘れてたよ、じゃないですよ。ここでお姉さんが死に戻りじゃ笑い話にもならないんですからね?」


 やれやれと肩を竦めるサーニャちゃんに、私はとりあえず笑って誤魔化す。

 いやうん、確かにここまで来て、私一人だけ死に戻りなんてカッコ悪すぎる。もう少し気を付けないとなぁ。


「全く、ベルはいつも変なところで抜けてるんだから。でも、やったね」


 すると、今度はエレインが私の傍にやって来た。

 しょうがない子供を見るような、それでいて嬉しそうな親友の姿に、私は手を挙げて応える。


「あはは、エレインのお陰だよ、ありがとう」


「どういたしまして。ベルもナイスファイト」


 私の手に合わせるように持ち上げられたエレインの手とハイタッチを交わし、健闘を称え合う。

 すると、今度はいつもの変態が飛びかかってくるのが見えた。


「ベルお姉様、お疲れ様ですわぁぁぁぁ!!」


「ふんっ!」


「のほげぇ!? ああ、やはり私はこれが一番ですわ……!!」


「本当にブレないねボコミは……でも、お疲れ様」


「ああ、お姉様直々に労いの言葉が……! もう私死んでもいいですわ」


「誰よりも長生きしそうな根性してて何言ってるの」


 いつものようにボコミを叩き伏せ、踏みつけながらも労いの言葉をかける。

 それだけで歓喜して私の足の下でクネクネしてる光景は、控えめに言って気持ち悪かった。

 うん、本当に、この子の性格ほど矯正の利かない強敵っているのかな?


「お姉ちゃん、おつかれ」


「ティア! ティアこそお疲れ様。やっぱりティアの指示はいつも的確だね、お陰で初見クリアだよ」


 やり取りが一通り終わるのを待っていたのか、ちょうど会話が途切れたタイミングで現れたティアへ賛辞を送る。

 実際、今回ばかりは私個人の力じゃどうしようもないシチュエーションが結構あったし、みんなを取り纏めて指示を出してくれるティアの存在は凄く大きかった。


 でも、そんな私の言葉にティアは苦笑を浮かべながら首を横に振る。


「大体のボスを初見クリアしてるお姉ちゃんに言われてもなぁ。やっぱり、お姉ちゃんのめちゃくちゃな戦いぶりには敵わないよ。銃弾やら砲弾やら当たり前みたいに弾き返すお姉ちゃんのリアルチートがなかったら、普通に何度も挑戦し直さなきゃダメだった」


「いやいやティアこそ」


「いやいや」


 そんな風に、お互いに功績を譲り合うコントみたいなやり取りを姉妹でやってたら、いつの間にか他のプレイヤー達から生暖かい視線が送られていることに気付き、気恥ずかしくなった私達はどちらからともなく目を逸らした。


「……みんな、今回はありがとう。お陰で、こうしてイベントを完走出来た。本当に感謝してる」


 でも、ティアは案外すぐに立ち直ると、みんなに向かって語りかけ始めた。

 その堂々とした態度は、少し前の引きこもりだった頃からはとても想像出来ない。

 本当に成長したなぁと、感慨深い思いを抱きながら隣でその声に耳を傾ける。


「これまでずっと、私は一人なんだと思ってた。ゲームくらいしか取り柄のない私は誰の目にも留まらないちっぽけな存在で、いつかお姉ちゃんもどこかへ行っちゃうんじゃないかって、そんな風に思ってた」


 "ティア"としての口調を捨てて、素のままの"雫"として言葉を紡いでるのは、もしかして配信を見ているであろう叔父さんに向けた言葉でもあるからだろうか?


 いつにも増して神妙な面持ちで、ティアは私の手を掴む。


「でも、気付けば私の力になってくれる人がこんなにいた。困った時、助けになってくれる人達がたくさんいた。みんなのお陰で……みんながいるこの世界のお陰で、私は自分の気持ちに素直になれた。誰よりも、お姉ちゃんのことが大好きだ、って」


 だから、と、ティアの手が私の手と指を絡め合わせ、ぎゅっと握り締める。

 いわゆる恋人繋ぎになったその手を引き寄せ、ティアは可愛らしい笑顔と共に言った。


「だから私、お姉ちゃんと結婚します」


「……へ?」


 みんなの前で。そして、何より配信カメラの前で、ティアは私と口付けを交わし。


 ドラゴニアス討伐時よりも遥かに大きな歓声が、私達を包み込むのだった。

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