第137話 カラクリ巨人と最後の激突
動きを止めた私を狙い、ドラゴニアスが再び砲身及び銃身を向ける。
それを見て、私はボコミの傍へ駆け寄った。
「ボコミ、あの銃と大砲受け止めてくれない? 代わりに私、あのレイピアとフック受け止めるから」
「私は構いませんが、受けられますの? 先ほど吹き飛ばされておりましたが」
「大丈夫、多分」
さっきの攻撃でも、ギリギリ防げてはいたんだ。
向こうもATKは上がってるだろうけど、こっちも全力を出せば対抗出来るはず!
「なら、私はお姉様を信じて肉壁になるだけですわぁ!!」
私に向けて降り注ぐ砲弾と銃弾を、ボコミが真っ向から受け止めてくれる。よし、耐えられてるね。
私が砲弾よりも近接攻撃を選んだのは、単純にそっちの方がタイミングを図りやすいから。
ただでさえギリギリだし、完璧なタイミングと体勢でやらないとまた吹っ飛ばされる。
そしてもう一つ……実際に手に持っている武器に対してパリィした方が、相手の体勢を崩してみんなが攻撃する隙を作れるはずだからだ。
「サーニャちゃん、バフお願い! 《魔法撃》!」
「はい! 《オフェンシブオーラ》!」
サーニャちゃんの支援を受け、《魔法撃》と合わせてATKが引き上げられる。それに加えて、《鬼人の丸薬》を飲み込んで更にブースト。
でも、多分まだ足りない。だから、
「ウオォォォ!」
「《フレアドライブ》!! てやぁぁぁぁ!!」
炎の強化を重ね掛けして、ボスと同じように全身を焼き焦がしながらレイピアに杖を合わせる。
両手の杖を同時に叩き付けると同時に返ってくる、重々しい衝撃。
一瞬体が浮きそうになるけれど、思い切り地面を踏みつけ、歯を食いしばって無理矢理振り抜く。
「あぁぁぁぁ!!」
時間にすればほんの一瞬の鬩ぎ合いは、ひとまず私に軍配が上がった。
勢い良く弾き返されるレイピアと、それに伴ってぐらりと揺れるドラゴニアスの体。
そこへ、すかさずティア達の魔法が突き刺さった。
「《エクスプロージョン》!!」
剥き出しのコアに叩き付けられる、炎の華。
その後も氷、風、光と色とりどりの魔法が炸裂し、かなりの勢いでボスのHPを削り取っていく。
あ、もちろん弓矢とかクナイみたいな投擲武器も飛んでるよ。まあちょっと、エフェクトとかなくて地味だから目立たないけど。
「はあぁぁぁぁ!!」
そんな余計なことを考えている間も、私は襲い来る攻撃を捌き続ける。
真上から振り下ろされるレイピアを弾き、横から薙ぎ払われるフックをかち上げ、正面から刺し込まれる突きをギリギリでいなす。
パリィで防ぐ度に腕にかかる重さが疲労を生み、僅かなミスさえ即死に繋がる状況が消耗を加速させていく。
そんな状況だろうとお構い無しに、ドラゴニアスはHPが一割削れるごとに追加の配下を呼び寄せていた。
しかも、さっきまでと違って地面に降りてる私を狙って、敵兵の一部が迫って来る。
「この状況でそっちの対処に意識割くのはキツいなぁ……!」
いくら弱くても、モンスターからの攻撃なんて私にとってはどれも致命傷だ。無視なんて出来ない。
とはいえ、このギリギリの状況でそっちに手を割く余裕なんて……!
「うおぉぉぉ!! ベルちゃんを守れぇぇぇ!!」
「「「うおぉぉぉ!!」」」
「クッコロさん!? 他のみんなも!?」
すると、遊撃に回っていた近接職の人達が、私のフォローに駆け付けてくれた。
それは嬉しいけど……!
「ここにいると、ボスの近接攻撃に巻き込まれるよ!?」
そう、砲弾や銃弾と違って、斬撃は攻撃範囲が広い。
ボコミ一人ならまだしも、こんなにたくさんいたらフォローしきれるかどうか……!!
「ティアちゃんから言われたんだ!! 『お前らは死んでもいいからお姉ちゃんを守れ』」
「ティアーーー!! 何言ってんのーーー!?」
「『というのは半分冗談で、お姉ちゃんなら守りながら立ち回れるでしょ、信じてるよ』だそうだ!!」
「半分っていうところがなんか不穏だね!?」
でも、
チラリと魔術師やタンカーを率いて攻撃を主導するティアの方を向くと、向こうも私に気付いたようで、一瞬だけ目が合った。
――お姉ちゃん、任せたよ。
――うん、任された。
声を出さずとも通じ合い、それぞれの場所でボスを睨む。
ティア達が放つ魔法でHPを削られながら、それでも構わずにレイピアが真っ直ぐに振り抜かれる。
「どりゃああああ!!」
跳び上がり、空中で迎撃。
どうにか防げたけど、踏ん張りが利かなかったせいで吹っ飛ばされた。
「よっとぉ! 大丈夫?」
「うん、平気。ありがとエレイン」
またまたエレインに助けられ、無事地面に降りる。
でも、これじゃダメだ。私一人反応出来ても、完全に防ぐには足りない。
いや、そうか。何も吹っ飛ばされちゃダメってわけじゃないよね、次の攻撃に間に合えばいいんだから。
「エレイン、それとクッコロさんも、手伝って!」
「ん? また何か思い付き?」
「えっ、俺も?」
慣れた様子のエレインと、戸惑いを隠せないクッコロさんに手短に作戦を説明。すぐに準備を整えた。
「これでよし、いつでも来い!!」
「いやこれ、本当にいいのか!? 俺後で殺されないよな!?」
「そんなことしないから大丈夫」
「ベルちゃんじゃなくて他のプレイヤーにな!? ああ、なんか今もすげえ睨まれてるような……!」
「ほら来た!! さあ、ぶん投げて!!」
「ああもう、どうにでもなれぇぇぇぇ!!」
クッコロさんに抱えられた私の体が、砲丸投げよろしくぶん投げられる。
向かう先は、ドラゴニアスが今まさに振り抜こうとしてるフック、その先端だ。
「うりゃああああ!!」
気合一閃、飛ばされた勢いのまま杖でフックをぶん殴り、技の初動段階で動きを止める。
力の差がほとんどないからか、向こうの体勢を崩すのと引き換えに私の体も弾かれるけど、問題ない。
「よいしょぉ!!」
エレインの鉤縄で縛られた私の体が、モーニングスターよろしく引き戻され、クッコロさんの腕にすっぽりと収まる。
そう、私の作戦とは、私自身をモーニングスターに見立てて高いATKを誇るクッコロさんにぶん回して貰うことで、ドラゴニアスの近接攻撃を早い段階で止めてしまおうというものだ。
これなら他のプレイヤーに被害が出ることもないし、私の迎撃難易度が爆上がりする以外は何も問題ない!!
「ああ俺、明日の朝日拝めるのかな……」
「わけわかんないこと言ってないで、次来るよ!!」
「分かってるよぉ!!」
なぜか涙目なクッコロさんに投げられながら、どうにかドラゴニアスの攻撃を凌いでいく。
私がまた空を飛び始めたことで、飛んでくる砲撃や銃撃の一部が関係ないところへ無駄撃ちされるようになり、余裕の生まれたボコミの《リベンジャーズブラスター》も炸裂。益々ボスを追い詰める。
ただ、これにしてもそう長くもつものじゃない。一つは、《フレアドライブ》のデメリットで私のHPが残り僅かということ。
そしてもう一つは、私が防ぐことに手一杯になっている以上、いずれは私に向いたヘイトが他人に移るということだ。
「……!! こっちに向いたぞ!!」
そしてついに、両肩の大砲と二丁の銃が、ティア達の方へ同時に向いた。
下手しなくてもこの巨大飛行船より強力な攻撃を一気に浴びたら、タンカーの中にも耐えられない人が出てくるかもしれない。
だからこそ、これが最後のチャンスだ。
「今だ!! 突撃ーーーー!!」
「「「うおぉぉぉ!!」」」
こちらへ向いていた攻撃が減り、ボコミ一人で耐えられる状態になったのを見るや、近接職の人達全員で突撃を敢行、ボスの足元へと群がった。
剣が、槍が、ハンマーが次々と足へ叩き込まれ、ドラゴニアスの巨体が再び大きく揺れる。
『グオォォォ!?』
ズズンッ!! と、大きく音を立てて倒れる巨体。
残りHPは二割弱、ここで決めようと弱点部位に群がるプレイヤー達。
立て続けに攻撃を受け、みるみるそのHPを減らしていくも……。
「小賢シイワァ!」
「うおぉ!?」
「くそっ、もう起き上がるのか!?」
「あと一歩なのに!!」
残り一割を切った辺りで、ドラゴニアスは上に乗っていたプレイヤーを押し退けながら体を起こす。
振り落とされ、落ちていくプレイヤー達の悔しげな声。
それを切り裂くように、ティアの鋭い叫び声が響いた。
「《エクスプロージョン》!!」
「グオォ!?」
ティアの必殺の魔法がぶち当たり、起こしかけた体の体勢がまた崩れる。
それでも、まだ足りない。
「お姉ちゃん、決めて!!」
「うん、任せて!!」
だからこそ、最後のひと押しのために私は再び宙を舞っていた。
目指す先はドラゴニアスの直上。上半身を起こしたところで追撃され、少しだけ後ろに仰け反ったドラゴニアスの顔面を眼下に収め、私は残り僅かなHPごと燃やし尽くす勢いで叫んだ。
「《ガイアドライブ》!!」
「ガアァァァ!?」
移動不可の制約により、超重量の力がかかった私の体が、圧倒的巨体を誇るドラゴニアスを踏みつけて再び地面へと縫い止める。
「これで……終わりだぁぁぁぁ!!」
もはや風前の灯火となったその命を惜しむかのように暴れるカラクリ巨人に向け、私は杖を振り下ろす。
何度も、何度も、そのHPゲージが消し飛ぶまで。
「オノレ……!! 我ガ覇道ハココマデダト言ウノカ……!? グワァァァァ!!」
やがて、断末魔の叫びと共に、その体をポリゴン片に変えて消えていくドラゴニアス。
クエスト達成のファンファーレと共に、プレイヤー達の歓声が沸き起こった。
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