第136話 カラクリ巨人と銃砲連撃

「うおぉぉぉぉ!?」


 ドラゴニアスから放たれた弾丸が、ティアを守るように構えていたタンカーの一人を打ち据える。

 運悪く盾から逸れて肩口に当たったとはいえ、素のステータスを防御メインに上げた上で防御バフまで乗っているはずのプレイヤーがHPのほとんどを刈り取られている光景を見て、誰もがぞっと背筋を凍らせた。


「お前ら無理はするなよ!! まともに喰らったら即死だ、回避と防御に専念して挙動を掴め!!」


 ティアの指示を受けて、みんなそれぞれ固まった状態でじっと敵の挙動を観察する。

 でも、あれだけの手数が相手だし、下手に攻撃が集中するとタンカーの人達だってすぐに溶かされちゃう。


 さてどうするかと考えた時、ふとドラゴニアスが肩に担いでいる大砲の側面に、時代錯誤なスコープみたいなものがくっ付いているのが見えた。

 いや、あれスコープじゃなくて目玉? それが、私を向いているような……。


「ティア、ごめん、私別行動するね!! 《エアドライブ》、《マナブラスト》!!」


「えっ、お姉ちゃん!?」


 説明する暇も惜しんで、私は風の強化で体を軽くし、魔法による自爆で体を吹っ飛ばす。

 すると、ドラゴニアス自身は正面を向いたまま、私を見ていると感じた右肩の大砲、ついでに右腕の銃だけが私を追って動き出した。


 ズドンッ!! と重々しい音を轟かせ、私に向かって飛んで来る砲弾に銃弾。

 急加速した私を捉えきれず、奥の壁に突き刺さったその攻撃を見て、私は一つ確信を抱いた。


「こいつ、私にヘイトが向いてる!! 全部じゃなくて、多分その大砲と銃だけ!! ヘイト上位三人をそれぞれ二つの攻撃部位が狙って来る感じだと思う!!」


「ってことは、さっきの一撃でお姉ちゃんがヘイト上位に食い込んだのは当然として、後二人は……」


「ティアとボコミだと思う!!」


 私は《マナブレイカー》で一気にHPを吹っ飛ばしたわけだから当然として、ティアもずっと高火力の魔法を叩き付けてたから、ヘイトはかなり溜まってるはず。

 そして、そんなティアにヘイトが向かないよう、やたらとヘイト蓄積スキルを連発してたボコミもまず間違いない。タンカーの中でもぶっちぎりのペースで使ってたし。


「全員纏まってたら攻撃が重なり過ぎてタンカーが持たない、三手に分かれてそれぞれ叩こう!!」


「分かった、お姉ちゃんの案で行く。ボコミは正面で耐えてくれ、僧侶は……サーニャ、援護を!」


「分かりましたわ!!」


「任せといて!」


「他のタンカー連中はオレを守れ!! ヘイトスキルはボコミ以外使わなくていい!! 近接職はボスの攻撃に巻き込まれないように雑魚の処理、魔術師はオレの火力を超えない程度にボスへ魔法を飛ばして削ってくれ!!」


「了解しました!!」

「心配しなくてもティア様より火力出せる魔術師なんてこのゲームにいません!!」

『お前ら、ティア様を守る名誉ある仕事だ、やり遂げろぉぉぉ!!』

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」


 プレイヤー達の雄叫びに、コメントからも必死の声援が飛ぶ。ティアは本当に大人気だね。

 さて、私も頑張らないと!!


「小賢シイ!!」


 右の大砲と銃が空を飛び回る私を狙い、左の大砲と銃がタンカー達に守られたティアを狙う。そして、最初から使っていたレイピアとフックがボコミを狙って激しく攻撃し始めた。

 ボコミは元から頑丈だし、サーニャちゃんの回復支援だけでしっかりと耐えられてるね。ティアも、ひとまずは大丈夫そう。


 問題は私かな。二人と違って回避主体、しかも掠っただけで即死確定。パリィ出来なくもないけど、ノックバックで隙が出来たらそこを畳みかけられて終わりだ。


「その上、反撃もしっかりしなきゃだもんなぁ……!! 《アイスドライブ》!!」


 氷の強化を重ね掛けし、空中に生成した氷の足場を滑走しながら飛んで来る攻撃を回避する。

 でも、回避するだけじゃダメだ。ちゃんと反撃しないとどんどんヘイトが下がって、他の誰かに標的を変えるかもしれない。


 そうなれば、せっかくいい感じで保ってる均衡が一気に崩れる。即死級の攻撃手段を持っている敵を相手に、それはまずい。


「となれば、リスクを織り込んでも攻撃出来る間合いに飛び込まなきゃね! 《マナブラスト》!!」


 砲弾を躱した直後に再び魔法による自爆で加速し、ドラゴニアスに向けて突っ込んでいく。

 大砲のCTは五秒くらいあるし、銃も必ず一秒以上間が空いてる。つまり、次の銃弾を正面から躱せば、確実に一撃入る!!


「《空歩》!!」


 ズガンッ!! と銃弾が放たれるタイミングに合わせ、斜め前方に方向転換。ギリギリのところで回避する。

 そのまま、すぐに氷の足場を滑らせて進行方向を微調整しつつ、《空歩》の再使用条件をクリアして……。


「でりゃああああ!!」


 ドラゴニアスの腕の間を抜けながら、その脇に向けて杖を一閃。風と氷の属性が籠った一撃を叩き付ける。


 攻撃の反動でまた変な方向に弾かれたけど、この調子でいけば……。


「あっ、危ない!!」


「っ!?」


 と、そこで運悪く、私は他のプレイヤーの魔法攻撃の射線上に飛び出してしまっていた。

 《エアドライブ》と《アイスドライブ》による飛行はあくまでボールみたいに跳ね回ってるだけだから、人が多い中じゃこういう貰い事故も想定しておくべきだったか、ぐぬぬ。


「《空歩》!!」


 仕方なしに、再使用可能になった空歩スキルで強引に方向を変えてフレンドリーファイアを回避する。

 けれど、そこへ再装填が終わった銃口が突きつけられた。やばっ!


「《バインドアンカー》!!」


 そんな私の体を、突如伸びて来た鉤縄が絡め取った。

 その状態のまま思い切り引っ張られ、私は射線上からギリギリで脱出する。


「わひゃあ!?」


「よっと、大丈夫? ベル」


「エレイン! ありがとう、助かったよ」


 私を助けてくれたのは、思った通りエレインだった。引っ張られた先で抱き留められ、私は喜色満面の笑みを浮かべる。

 本当に、いつもここぞって時にフォローしてくれて、頼れる親友だよ。


「ベルは戦ってる時に全然周り見えてないから、自由にさせてると危ないったらないね」


「うぐぐ、ごめん」


「私が足になってあげるから、思いっきりやっちゃいなよ」


「エレイン……うん、分かった!!」


 エレインに後ろから抱かれるいつもの体勢で、私は再びドラゴニアスと対峙する。

 氷の足場をエレインが使えば、トップスピードは落ちるけど回避の柔軟性は確実に上がるし、落ち着いて反撃出来そうだ。


「とりゃああああ!!」


 空中を跳ね回りながら、風の砲弾でダメージを蓄積させる。

 ティア達魔術師の魔法が幾度となくドラゴニアスの体表で炸裂し、未だかつてないほど膨大なそのHPも徐々に減っていく。


 そうして何度目かの打撃を加えている時、私はふと気が付いた。

 ……このボス、胸の辺りから赤い光が漏れてる?


「エレイン、このボス、もしかしたら胸に弱点部位があるのかも」


「ん? でも、さっきから何度か攻撃当たってるけど、ダメージは全然増えてないよ? むしろ他より少ないような」


「だからだよ。他のダメージはほぼ均一なのに、普通なら弱点になりそうな胸だけダメージが少ないのは、何かギミックがあるからじゃないかなって」


「なるほど? つまり、それを試すために私には正面で回避しまくって欲しいわけね」


「ふふふ、そういうこと。出来る?」


「任せときなさいって」


 ドラゴニアスの正面は、私達を今まさに狙ってる砲撃と銃撃の他に、ボコミを狙う物理攻撃に巻き込まれる恐れがあるっていうのに、エレインは軽く請け負ってくれる。

 その頼もしい笑顔に背中を押され、私は杖を握り締めた。


「行くよ!!」


「うん!!」


 エレインと頷き合い、ドラゴニアスの正面へ躍り出る。

 ボコミの驚いた声や、コメントの盛り上がりすら意識の奥に追いやって、ただひたすらに狙うべき胸部を凝視する。


「てやぁぁぁぁ!!」


 エレインの動きに合わせて、杖を振るって風の砲弾を放つ。放つ。放つ。

 空歩スキルで体が引っ張られた後、迫る攻撃に合わせてエレインが体勢を変えるのに合わせて空中に杖を滑らせて氷の足場を生成、それをエレインが蹴り飛ばし、最初に戻る。

 目まぐるしく回転する視界の中、ただ攻撃と背中に感じるエレインの呼吸にだけ意識を向けて暴れ続ける。

 そして、


 ビキリッ、と。

 ドラゴニアスの胸部に、罅が入った。


「やった……!?」


「グオォォォ!?」


 罅は瞬く間に広がり、胸部パーツが弾け飛ぶ。そうして中から現れたのは、赤く明滅する心臓のようなコアパーツ。

 明らかに、あれが弱点部位だろう。ここに至るまでに削ったHPは残り四割を切ってるし、もうひと踏ん張りと言ったところかな?


 ただ、ドラゴニアスは全身が赤熱したように赤くなって明らかに攻撃力が増してるし、こっちはこっちで《エアドライブ》と《アイスドライブ》の効果時間が終了、空中散歩はここで終わりだ。

 ここまで来たら、後は純粋な殴り合いかな。


「さあ、ラストステージ、行ってみようか」


 怒りに燃える海賊王に、私は杖を突き付けた。

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