第135話 カラクリ巨人と超パワー

「全員散開!! 避けろ!!」


 ティアの叫びを聞いて、みんな慌てて動き出す。

 けれど、予想外の敵に一瞬反応が遅れたことで、一部の人が取り残されていた。


「こんの、《魔法撃》ぃ!!」


 迫り来るレイピア。その正面に躍り出た私は、両手の杖でそれを殴り付け、パリィを試みる。けど、


「おもっ……!?」


 全力で殴ったのに、むしろ私の方が押し負けた。

 どうにかレイピアの軌道を逸らし、他のみんなを守ることは出来たんだけど、私自身も大きく吹き飛ばされてしまう。


「ベル、大丈夫!?」


「エレイン! なんとか平気だよ、ありがと」


 私の体をエレインが受け止めてくれたようで、ほっと息を吐く。

 レイピアの攻撃そのものは、一応パリィが成功した扱いなのかダメージが入らなかったけど、あんな勢いで壁に叩き付けられたらそのダメージだけで死に戻るところだったからね。危なかった。


「ほっ……お前たち、ちんたら動いてお姉ちゃんに迷惑かけない!! 守って貰った分は反撃で返せ!!」


「「「了解です!!」」」


 再度かけられたティアの号令に、みんなキビキビと動き出す。

 なんか軍隊みたい、と思ったら、外から見てる視聴者の人達も同じようなことを考えたようで、『なんか統率されてるな』『軍隊というか宗教みたい』『ティアちゃんを崇める教』『入信したい』などといったコメントが並ぶ。


 ……これ、叔父さんも見てるんだよね? みんな本当にいつも通りのノリを発揮してるけど、大丈夫かなこれ? あんまり飛ばすと叔父さんの理解を超越しそうなんだけど。


「ベル、どうしたの?」


「な、なんでもない」


 エレインからの問いに、私は笑って誤魔化す。

 うん、まあ叔父さんのことはうちの事情だし、ここで取り繕ったって仕方ない。いつも通り、みんなで楽しもう。


「魔術師、弓使い、前衛剣士はまず隙を見てぶち込め! 弱点部位は見付け次第ちゃんと報告しろよ!! タンカー連中は前に出て他のプレイヤーを守れ!!」


「ベルちゃんでも防ぎ切れなかった攻撃か……」

「俺らで止められるのか?」

「即死しそうで怖ぇ……!」


「情けないですわねあなた達!! ギルドは解散しても、私達の理念は今も生きているんですのよ!? そう……お姉様方に嫐られる悦びに比べたら、こんなデカイだけの木偶の攻撃など物の数ではありませんわぁぁぁぁ!!」


「「「り、リーダー!! 分かりました!!」」」


 雄叫びを上げ、ドラゴニアスの正面で盾を構える変態共。

 ヘイトスキルで気を引くボコミを中心とした集団へと、サーニャちゃん達僧侶の支援魔法が飛び、振り下ろされるレイピアの攻撃をボコミ達は全身で受け止める。


「んっはぁぁぁぁ!! やはり全然足りないですわぁぁぁぁ!! さあティアお姉様、是非とも私達ごとぶっ飛ばしてくださいまし!!」


「ああうん、わかった。総員、あいつらはほっといて攻撃開始」


「「「ありがとうございますぅぅぅ!!」」」


 後方から降り注ぐ、魔法やら弓やらの濃密な弾幕がドラゴニアスを襲う。

 わざわざ味方を攻撃するメリットなんてほとんどないから、一応は巻き込まないように上半身を中心に攻撃しているみたい。


 こら、巻き込まれなかったことを残念がるんじゃない。ボコミは自分からティアの魔法に飛び込もうとしないの。


「ベル、私達も!」


「うん、分かってる!」


 まあ変態達は放っておいて、私達近接攻撃職も遊んでばかりはいられない。

 後衛の人達が上半身を攻撃してくれてるんだから、私達が狙うは下半身、その無駄に大きな足だ。


 足に弱点部位があることなんてほとんどないんだけど、こういう大型のボスは大抵、足にダメージが溜まると転倒状態になる。

 そうなれば殴りたい放題になるわけだし、当然それを狙って……。


「って、私が攻撃出来る隙間がないんだけど!?」


 攻撃しようとしたタイミングで、割とどうしようもない問題が発覚した。

 そう、遠距離攻撃なら上の方を狙えば、何人いようが味方を巻き込まずに攻撃出来るんだけど、近接攻撃となるとどうしてもスペースが限られてしまって全員で攻撃出来ないのだ。

 うむむ、困った。


「仕方ない、今は《マナブレイカー》をチャージするか」


 現状、私達はまだ弱点部位を見付けられていない。

 なら、それを探すのはみんなに任せて、見付けた瞬間に最大火力をぶちこんでやろう。


 決して、私を放って好き放題暴れるみんなが羨ましいから美味しいところをかっさらって仕返ししようなんて考えてない。


「グオォォォォ!!」


 私が若干拗ね気味にチャージに励んでいると、HPを一割ほど失ったドラゴニアスが突然咆哮を上げた。


 それまではレイピアと義手のフックを使った、強力ながらも単調な攻撃しかしてこなかったボスの唐突な変化に、みんなの警戒が一気に高まる。


「我ノ邪魔ヲスルナァ!!」


 叫び、天井に向かって掲げられるレイピア。

 すると、突然天井がパカリと開き、そこから続々と敵の戦闘員が降ってきた。


「ちょっ、このタイミングで!?」


 数十ほど投下されたところで天井は閉じ、一旦打ち止めになったみたいだけど、急に敵が増えた私達としてはたまったもんじゃない。


 しかも厄介なことに、降ってきた敵はティア達後衛を標的と見定めたようで、陣形が一気に打ち崩されてしまった。


「やべっ、お前ら戻れ!」

「魔術師をカバーしろ!」


 それまでドラゴニアスの足元で戦っていた近接職の人達が、慌てて後方へ戻っていく。

 でも、懐深くまで潜り込んだ状態から不用意に離れるプレイヤーを、ドラゴニアスは見過ごさなかった。


「ぐわっ!?」

「こら、下がる時はちゃんとボスの動きを注視しろ!」

「そうは言っても、急がねえと……」

「ああ! こっちにも雑魚が寄ってきた! 鬱陶しい!」


 混乱が広がり、慌ただしくなるプレイヤー達。

 私は私で、マナブレイカーのチャージなんてしてるからどっちにも援護しづらいし、どうすればいいか……。


「落ち着けお前ら!! 後衛はまず自衛に専念、前衛は一度戻れ、タンカーはその援護!!」


 混乱が広がる中で、ティアの声が響き渡る。

 どう動けばいいか分からない中でハッキリと方向性を示されたことで、ようやくみんな冷静に動き始めたのだ。


 うんうん、流石はティア、こういう時も頼りになるね!


「お姉ちゃんは、弱点とか気にせず一度ぶちかまして! 足に当てればお姉ちゃんの火力ならまず転倒する!」


「分かった!!」


 私自身もまたティアの指示を受け、迷うのをやめてドラゴニアスへ吶喊する。

 真上から振り下ろされるレイピアを躱し、横から迫るフックを潜り抜けて、無傷のまま足元へ。


「いっくよぉー! 《マナブレイカー》!!」


 限界まで溜め込んだMPを威力に変換し、ドラゴニアスの足を殴りつける。

 展開される魔法陣、幾度となく発生する光の柱がボスのHPをゴリゴリと削り、トドメの一撃が魔法陣諸共大爆発を起こす。


 私の最大最強の攻撃、威力十倍の十連撃。

 それを受けて更に二割ほどHPを吹き飛ばしたドラゴニアスが、そのまま勢いよく転倒した。


「よしっ、今のうちだ、周りの雑魚を片付けて体勢を立て直せ!!」


 本来ならそのまま追撃したいところだけど、まずは周りの雑魚処理から。ということで、ボスが動けない間に、降って来た敵兵達を一掃し、それぞれHPとMPを回復させていく。


「オノレ……ヨクモヤッテクレタナ……」


 そうして体勢を整えきるのと時を合わせて、ドラゴニアスが起き上がる。

 弱点部位じゃなかったとはいえ、相当な火力を叩き込んでHPがそこそこ削れたからか、再び掲げられたレイピアに合わせて天井が開き、更に追加の敵兵が送り込まれて来た。


 そして、更に。


「我ガ真ノ力ヲ前ニ、ヒレ伏スガイイ!!」


 ドラゴニアスのコートが弾けとび、その下に隠されていた体が露わになる。

 露出部分から機械の体だっていうのは分かっていたけど、その時とはまた違った驚愕が私達を襲う。


「うおぉ、なんだあれ……!」

「かっけぇ……でもやべえ!!」


 男のプレイヤー達がその脅威を認識すると同時に、テンションを上げて興奮した声を上げる。

 コートの中に隠されていたのは、もう二本の機械の腕と、両肩にそれぞれ乗った大きな大砲。

 腕にはそれぞれフリントロック銃が握られているけど、サイズ感のせいでもはやレールガンとかそういう表現をした方がいい代物になっていた。


「タンカー前へ。ここからは本気の削り合いだ……奴をぶっ倒すまで死に戻るんじゃないぞ!!」


 ティアの掛け声を切っ掛けに、プレイヤー達の雄叫びが響き渡り。

 激突の引き金を引くかのように、ドラゴニアスの持つ銃が咆哮を上げた。

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