第132話 巨船の激闘と大爆発

「でやぁぁぁぁ!!」


 圧倒的な数の敵を前に、私が選んだのは正面突破。杖を振りかぶり、真っ正面から突っ込んで吹き飛ばす。


「ほいっ、《三連投げ》!」


 そんな私のフォローをするように、エレインの投げたクナイが飛来する。

 私の横に詰めようとしていた敵が打ち倒され、その間に更に前へと進む。


「ベルちゃんに続けぇぇぇぇ!!」

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」


 そうして切り開いた隙間に雪崩れ込むようにして、一緒に乗り込んだプレイヤー達もまた走り出し、暴れだす。

 剣に槍に刀に槌、無数の武器が曲刀と打ち合い、激しい剣戟の音を響かせていく。


「本当に敵が多いなぁ……! ティア達は大丈夫かな?」


 迫り来る敵の群れを薙ぎ倒しながら、チラリと目を向けるのはクエストの進行状況を示す視界右上のゲージ。

 配信中の動画でも開かない限り、この場所から直接ティアの姿を見ることは叶わないけど、母船であるメガグロちゃん号の状態を見れば大体の状況は分かる。


「んー……ちょっと厳しめか」


 徐々に減っている母船のHPゲージを見ながら、少しだけ顔を顰める。

 まだ、墜とされるまでに時間はかかる。でも、肝心の敵船のHPがちょっとやそっとの砲撃じゃびくともしないらしく、全然減っていく様子がない。


 二十分の制限時間まであるみたいだけど……これを過ぎたら負けなんだろうか? とても削りきれる気がしないし、むしろメガグロちゃん号がそんなにもつのかが怪しい。


「早く砲台を制圧しちゃいたいんだけど、この数相手だとなぁ」


 視界を埋め尽くす敵の群れを見て、私はどうしたものかと顔を顰める。


 制圧と言っても、そういうシステムがあるわけじゃない。戦闘員、砲手、装填手と三種類いる敵兵のうち、砲手を一掃するだけだ。


 どうもこのクエスト、無限に復活するのは戦闘員と装填手だけで、砲手は復活しないっぽいんだよね。代わりにそこそこ固くて倒しにくいんだけど。


「今回は砲手の数も凄いし……うーん」


 甲板上の戦闘員を一時的に一掃するにも苦労してる状態だ。船の中に続く道もあるとはいえ、その先の砲手まで無力化となると、どれだけ時間が取られるか分かったものじゃない。


「何か手は……お?」


 そこでふと目についたのは、敵船の中に入っていくための階段。

 今までは、敵兵の復活が甲板上のランダムな位置か、戦闘員に関しては空から振ってくるかだったけど……今回はちゃんと道があるからか、そこから溢れ出てくる。


 つまり、今回は復活する場所がしっかり決められてるんじゃないかな? たとえばそう……私達の船で言う、弾薬庫とか。


「エレイン、甲板の敵は無視しよう。船の中に突っ込むよ!」


「ん? なんでまた?」


「砲手じゃなくて、装填手を復活後即死リスキルさせて私達への攻撃を阻止するの!」


 戦闘員に比べれば、装填手の供給ペースは早くない。

 仮定に仮定を重ねるような推論だけど、装填手の発生地点が決まっているなら、完封するのもそう難しくないはず。


「なるほど? このままここで足掻いても時間かかり過ぎるし、何よりまだイベント初日だしね。どうせこれだけで終わらないんだから、色々試してみるのは賛成だよ」


「……そういえば、初日だった」


 イベント期間は一ヶ月くらいあるんだし、よく考えたら今回だけで終わるわけないんだよね。クエスト内容にあった"撃退"ってそういうことかな? 完全に沈めるにはまだ条件が足りないみたいな。


「じゃあ、また先陣は任せたよ、ベル」


「うん! 《エアドライブ》、《アイスドライブ》!!」


 エレインとの短い打ち合わせを終えた私は、風と氷の強化を発動しながら、空へ飛び上がる。

 生成される氷を足場に、眼下の敵へ風の砲弾を浴びせながら、仲間のプレイヤー達に呼び掛けた。


「みんな!! まずは船の中に突っ込んで装填手を潰すよ、ついてきて!!」


 目の前に立ち塞がる敵を薙ぎ倒し、氷を足場に先陣を切る。

 そんな私の突撃を見て、他のみんなも我先にと後に続いてきた。

 よしよし、遅れてる人はいないね? さあ、行くよ!!


「うおりゃぁぁぁぁ!!」


 階段の入り口に溜まっていた敵を風の砲弾で吹き飛ばしながら、勢いよく内部へ突入。


 中は、思ったより大分狭かった。

 どこから復活しているのか、溜まりに溜まった敵兵がズラズラと並んでひしめき合い、外に出る順番を待つようにたむろしている。


 うん、予想以上の数だね、これは一発かましておきますか!


「行くよ……《マナブレイカー》!!」


 チャージ一秒、威力補正一%の貧弱スキル。けれど、繰り出される一撃には自身の周囲を丸ごと巻き込む衝撃波が発生する。そこに《エアドライブ》の効果が加われば、即席の広範囲攻撃だ。


 杖で殴り付けた敵とその周囲にいた敵まで纏めて吹き飛んで爆散し、その中に混ざっていた装填手の抱える砲弾が落下と同時に起爆、周囲を巻き込んで炎上する。


 よしよし、予想外だけどいい感じに敵が減ったね。とりあえず、狭すぎてキツいから属性強化は終了しておこう。


「うわーお、これは酷い、鎧袖一触だよ。もうこれベルがいれば私達いらないんじゃ?」


「そういうわけにも行かないって、ほら!」


「ん?」


 私がこじ開けた道を通ってゾロゾロと降りてきた、エレイン以下レイドメンバー達。

 そんな彼女達に道の先を指差せば、そこは道が二つに分かれていた。


 このまま更に下の階へ進む道と、この階の通路……大砲がズラリと並ぶ場所へ続く広めの道。分かりやすいね。


「私はこのまま下に向かうけど、まだこの船の中がどういう構造か分からないし、ここを見て回って見付けたら装填手なり砲手なり潰して欲しいなって」


「よし、それじゃあ後ろ四人、ここお願いね。残りは先へ進もう」


「うん!」


 エレインがパパッと遅れていた人達に残留と探索を指示し、私達は下へ。


 その後も、続く景色は似たようなものだった。

 大砲が並ぶ広い通路と、下へ続く階段の分かれ道。その度に人手を割きながら下へ向かうと、最初に分かれた人達からメッセージが届いた。


「ベル、なんて?」


「大砲の後ろに船室みたいな扉があって、そこから戦闘員が湧き出してるみたい。それから、突き当たりに下へ続く階段があって、そこから装填手が登ってきてるんだって」


「じゃあ、ベルの予想通り一番下に弾薬庫があるのかもね」


「だといいな、そろそろメガグロちゃん号も限界だし」


 ひとまず装填手を潰しながら時間稼ぎます、とのメッセージを読み終えてウィンドウを閉じた私は、階下へ向かう足を速める。


 そうして到達した最下層。階段はそこで終わり、奥へと続く通路だけがある場所にたどり着いた。

 探索に人を割いた結果、後は私とエレインしか残ってないけど、装填手相手なら十分だと思う。


「あ、見付けた!」


 するとそこには、私の予想通り弾薬庫らしき部屋があった。

 えっちらおっちらと砲弾を運び出す敵兵を見るや、私は迷いなくそこへ突撃する。


「うおりゃぁぁ!!」


「ぎゃあ!?」


 私の一撃で吹き飛ばされ、ポリゴン片となって霧散する装填手。

 そんな彼を後目に弾薬庫の中に突入した私は、そこにたむろしていた敵兵を片っ端から殴り倒す。


 思ったより広いし、ここなら装填手が死ぬ時に落とす砲弾にやられる心配もないかな。

 ここに来るまでに相手してきた敵兵に比べれば、反撃もないし数も少ないし、余裕余裕!


「一人で張り切り過ぎないのっと! 私にも戦わせなさい!」


「あはは、ごめんごめん」


 エレインと二人で行われる、圧倒的な蹂躙劇。

 程なくして弾薬庫内の敵が一通りいなくなったのを確認すると、その場で軽く一息吐いた。


「ふう、これで攻撃も止むかな?」


「だといいけど……ん? ベル、その奥にある扉なんだろうね?」


「ん?」


 エレインに促され、視線を向けた先にあったのは、やたらと豪奢な扉だった。


 これみよがしに普通と違う扉が、なんで弾薬庫なんて危ない場所にあるのか謎だけど、開けようとしてもなぜか開かない。


「ボス部屋っぽいけど……船の耐久が減らないと開かないとか、そんな感じかな?」


「海賊船のボスなら船長でしょ? 普通先陣切って戦うもんじゃないの?」


「それじゃあボスっぽくないじゃない?」


 私の疑問に、エレインから返ってきたのは身も蓋もない言葉。

 まあ確かに、それはそうなんだけども。


「……っと、また復活したね」


 そんな雑談を交わしている間に、弾薬庫に装填手が再び出現し始めた。

 それを見ながら、私はふと思い付く。


「ねえエレイン、この船のHPを削れるかもしれない良いアイデアが浮かんだんだけど」


「正直嫌な予感しかしないけど、何?」


「この弾薬庫にある砲弾、誘爆させたりとか出来ないかな?」


「…………」


 私の発言に、エレインは黙り込む。

 一方の私はと言えば、すぐにでも試したいという思いから既に《フレアドライブ》を発動、杖を振りかぶっていた。


「ねえベル、それもし上手く行っても私達死ぬよね?」


「大丈夫大丈夫」


「ああうん、そこは一応何か考えがあったのね、良かっ……」


「死に戻ってもこの戦闘が終われば同じだから」


「ベルのバカぁぁぁぁ!!」


 すぐさま弾薬庫から逃げ出すエレインを見送った私は、ほどほどに時間を置いてから近くの砲弾の山を殴り付ける。


 ただ、その後はちょっと予想外で。


「……あれ?」


 想像以上の大爆発と共に、私や、ついでに船に乗り込んでいたその他大勢のプレイヤーが死に戻ってしまうことと引き換えに、敵船へ大きな損傷を与えることに成功するのだった。



特別クエスト:空挺海賊団襲来 3/3

敵本船、HP一割以上喪失につき一時撤退、クエストクリア。

敵本船残HP、84%。

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