第131話 嫐られ隊と巨船突撃
「また来るぞ! 特大ブレスだ!」
誰かの叫びと共に、敵船の艦首ドラゴンの口に光が収束していく。
狙いは、もう一つの敵船。ティア達が制圧に向かった船だった。
「ティア!!」
「総員退艦!!」
ティアの指示が飛び、全員が大急ぎでメガグロちゃん号に戻ってくる。
一度、私達があのブレスで酷い目に遭ってるのを見たからだろう。今度は比較的スムーズに退避が完了し、無人の敵船をブレスが襲う。
「ゴアァァァ!!」
極太の光線が船を飲み込み、炎上しながら墜ちていく。
ハラハラと見守っていた私は、無事に戻ってきたティアを見付けるやすぐに駆け寄っていった。
「ティア! 何ともない? 大丈夫?」
「何もないよ。それにしても、あれはどうするか」
再会の喜びもそこそこに、ティアは敵本船、ドラゴニアス号へ目を向ける。
あの極悪ブレス、船を一撃で沈める威力があるし、メガグロちゃん号が食らえばただじゃ済まない。
真後ろにつけられてると攻撃出来ないし、どうするか……。
「と、わわっ」
そんな風に思ってたら、メガグロちゃん号が急に加速を始め、くるりと反転。ドラゴニアス号へ向かって突っ込んでいく。
取り巻きの護衛を倒した(倒された?)から、今度はこっちが攻める番ってことかな?
いいね、やってやろうじゃない。
「全員、今のうちに砲弾を装填しとけ! タンカーは固まって敵の砲撃を受け止める準備、僧侶は防御バフ頼む」
「「「イエスユアマジェスティ!!」」」
ピタリと揃った返事と共に、全員が慌ただしく走り出す。当然私も、接近するまでは砲弾担いで装填のお手伝いだ。わっせ、わっせ。
「取り敢えず、艦首ブレスが来なければ即死はしない、と思いたいけど……」
そうして作業している間に、瞬く間に近付く敵船の威容。
軽くこっちの数倍はある船体に、ずらりと並ぶ砲門が何列も連なって側面を埋め尽くしている。
ねえ、こっちは一列しかないんだよ? 火力何倍差があるの?
「まともに受けたら一瞬で蒸発するぞ……」
「た、耐えられるのか俺達?」
圧倒的な数を前に、タンカーの人達も不安そうな声を漏らす。
そんな中、堂々たる態度で最前列に立つ一人の変態が。
「ふっ、だらしないですわね!! それでもお姉様方に嫐られ隊の一員ですの!? この程度の攻撃に耐えられないで、お姉様の責めに耐えられると思ったら大間違いですわ!! さあ、あの図体だけデカイ船に見せ付けてやりますわよ、私達のドM魂を!!」
「「「了解です、ギルマス!!」」」
「もうギルマスじゃないですわ! 今はリーダーとお呼びなさい!!」
「「「分かりました、リーダー!!」」」
「いやちょっと待って聞いてない」
いや、確かに前少し『ティア様に焼かれ隊』だのなんだの言う変な集団の存在をクッコロさんから聞かされたけど、あれの発生源ボコミか!!
えっ? 今はこのレイド戦に参加するためにギルド解散したから問題ないって?
むしろそんな変態ギルドを纏めて吸収しちゃってた現状の方がまずいんじゃ?
って、今はそんなこと言ってる場合じゃないか。
「すれ違うぞ!!」
「タンカー、ヘイトスキル準備!」
甲板の端でずらりと並んだタンカーの人達が一斉に《ヘイトアクション》を使用して、盾を構える。
その陰に隠れるように砲手が控えて、準備は万端。ついに、敵のドラゴニアス号と私達のメガグロちゃん号が交錯した。
「撃てぇーーー!!」
砲音が轟き、お互い一斉に無数の大砲が火を吹いた。
けれど、やっぱり数の差が尋常じゃない。
「うおぉぉぉ!?」
「やべえ死ぬ、死ぬぅ!!」
「僧侶、回復くれーー!!」
みんなそれぞれヘイトを分散しながら受けてるのに、聞こえてくるのは阿鼻叫喚の悲鳴ばかり。
誰も一発や二発は耐えられるけど、それ以上の攻撃が重なると一気に厳しくなるみたい。
ただ、いくつかの要因が重なって、どうにかギリギリのところで耐えられている様子だ。
一つは、相手が大きすぎるのもあって、その側面に備え付けられた大砲全てが一度に発砲出来るわけじゃないってこと。
射角が取れず、ある程度時間差をつけながらの攻撃になるお陰で、どうにかタンカーが倒れる前に僧侶の支援魔法が間に合ってる。
もう一つは、この一斉砲火の間、上空にいるワイバーン部隊が襲ってこないらしいこと。さすがにドラゴニアス号の砲門が多すぎて、巻き込まれない形では攻撃出来ないみたいだね。
これなら、タンカーと僧侶だけでもある程度船を守りつつ耐えられるはずだ。
「ティア! 今回も私が行くよ!」
「分かった。私は一応様子見のために残るけど、頑張って」
「うん! ボコミ、ティアのこと任せたよ。エレイン、一緒に来て!」
「任されましたわ!!」
「おっけー!!」
ちなみにサーニャちゃんは、ワッフルを護衛として傍に置きながら、砲手として駆け回ってるみたい。
敵の本船を落とさないことには終わらないだろうし、是非とも頑張って貰いたいところだ。
「さあ、乗り込むよ! 《大跳躍》!!」
エレインの手を取って、ドラゴニアス号の甲板へ一気に跳び移る。
今回は私達を追って、他にも十五人くらい腕に覚えのある人が来てくれたみたい。あ、クッコロさんもいる。
そして、そんなメンバーで挑む敵はと言えば……
「うっわー……多いね」
最初に乗り込んだ船の、軽く三倍はいようかという敵の群れ。
しかも、これはあくまで甲板だけの話。奥には船内へ続く階段みたいなのも見えるから、もしかしたらこれと同じのを何度も繰り返さないといけないのかもしれない。
いくら一体一体は弱いからって、中々大変そうだなぁ。
でも。
「さあみんな、敵は山ほどおかわり自由! 思いっきり暴れるよ!!」
「「「おぉーーー!!」」」
私の声に皆が反応し、各々の武器を構えて走り出す。
人数差は軽く三十倍くらい、さあ、無双ゲーの始まりだよ!!
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