第130話 飛龍部隊と竜の咆哮

「来るぞ!」


 巨大飛行艇……《ドラゴニアス号》と銘打たれたそれに先行して、まずやってきたのはこれまでと同じ通常船二隻。前衛艦隊と違って後続もなさそうだから、これっきり……だと思う。


 そして、同時に襲い掛かって来たのはおなじみの小型ボート……ではなく。


「ワイバーンの上に乗ってる!?」


 ちょっ、ここに来て飛竜騎士って何それ、海賊の癖にカッコよすぎない!? ズルい!


「ムカつくから叩き落とそう」


「ベルにしては珍しい理由でやる気出してるね」


「だって私達はこんな魚か悪魔かの二択だったのに、海賊がドラゴンなんだよ!? おかしくない? 逆じゃない!?」


「なら、その怒りのパワーでとっとと制圧してぶん捕っちゃいなよ」


「よーし、やってやる!」


「あ、本当にやる気なんだ……」


 そもそも出来るの? なんて呟くエレインの言葉をスルーして、私は迫る騎士……いや、飛竜海賊に目を向ける。

 動きの速さは小型ボートと変わらないけど、随分と小回りが利くようで、急降下しながら突っ込んできた。


「うおぉぉ!?」

「こいつブレス吐きやがった!!」


 空から一直線に降下しながら放たれる、炎の息吹。

 真下にいたプレイヤー達が慌てて逃げ惑う中、私は逆にそこへ向かって突っ込んだ。


「てやぁぁぁぁ!!」


 ブレスが終わり、畳んでいた翼を広げて再上昇を図ろうとする飛竜海賊に向けて、思い切りジャンプ。振りかぶった杖を叩き付けた。


「ギャオォ!?」


「トドメ!!」


 甲板上に叩き付けたドラゴンの頭に再び杖を叩き込むと、乗っていた海賊ごとポリゴン片となって消えていく。

 いや、乗ってた人には殴ってないんだけど、いいのそれで?

 まあ、楽に倒せたんだし、それでいいか。


「さあみんな、私に続いて叩き落とせー!!」


「「「できねーよ!!」」」


 上手くいったからみんなにも真似して貰おうと思ったら、一斉に反対されてしまった。

 えー、やれば出来ると思うけどなぁ。


「お姉ちゃんのバカな発言は置いといて、まずは二隻の通常船からだ! 手早く制圧して敵本船との交戦に備えるぞ!!」


「ねえティア? お姉ちゃんそんなにバカなこと言った!?」


 結構ショックなんですけど! と抗議の声を上げながらも、ティアと手分けして二隻の船の制圧に向かう。

 奥に見える敵本船、今のところ距離を置いたまま飛竜海賊部隊を吐き出してるだけだし、何かされる前に敵を削ろうという考えには賛成だ。


「うおりゃぁぁぁぁ!! なんかティアに変な子扱いされた恨みぃぃぃぃ!!」


「「「ぎゃああああ!?」」」


「なんか敵さんが可哀想になってくる理不尽さだね」


 八つ当たり気味に叫びながら敵兵を薙ぎ倒すと、エレインからボソリとそんな言葉が。

 いやいや、一応ストーリー的に見てもこの人達悪者だからね? 成敗するのが私達の役目なんだから何も間違ったことはしてないのに。解せぬ。


「っと、また砲撃が……」


 そうしている間に轟く砲音を聞いて、ちょっとばかり顔を顰める。

 今回はスピード重視ということで、守りは捨てて二隻の制圧に乗り出してるから、ペースは早いけどメガグロちゃん号も中々削られちゃってる。残りは三割強。


「お姉様、やっぱり私が囮になって凌ぎます?」


「ダメ、さっきと違って空から降ってくるのが爆弾じゃなくてブレスだし、パリィで防げないよ」


 どこか期待の籠った視線を向けてきたボコミにそう返すと、あからさまにガッカリした表情になる。


 そんなに私に踏まれたいの? だったらほら、今は真面目に戦って! ここで勝てたらいくらでも痛め付けてあげるから!


 そう言ったら「ふおぉぉぉ!!」とか変な声をあげて敵に突っ込んでいった。

 いや、やる気出しすぎでしょ。


「……ん?」


 そんなやり取りをしながら戦い続け、そろそろ制圧が完了するかと思われた頃。妙に首筋がチリチリする違和感がした。

 なんとも嫌な予感に導かれるように振り向いたのは、これまでずっと沈黙を守ってきた敵本船、ドラゴニアス号。

 私達の後ろから追従するように航行していたその船の船首から生えたドラゴンの首と、目が合ったような気がした。


「っ……なんかヤバそう、みんな本船に戻って!!」


「えっ?」


「早く!!」


 思い切り叫びながら、敵に背を向け全力で船から逃亡を図る。

 私が見せた予想外の動きに、本当にヤバイと思ったんだろう。一緒に行動していたプレイヤー達もまた、一斉に動き出す。


「グオォォォォ!!」


 すると突然、ドラゴニアス号の首が咆哮し、私達に向けてガパリとその大口を開けた。

 みるみる内に輝きを放つ口腔を前に、私を含めた誰もが同じようなことを思ったのは間違いない。


「あ、あの首飾りじゃないのかよ!?」

「ヤバイ、あれは間違いなくヤバイぞ!!」

「逃げろぉーー!!」


 大急ぎでメガグロちゃん号に飛び移っていくプレイヤー達。でも、なまじスピード重視で大勢が乗り込んでいたことと、敵兵がここぞとばかりに邪魔してくるせいで中々思うように動けない。


 そして、ついに。


「ゴアァァァァ!!」


 ドラゴニアス号から放たれた光線が、敵船諸共逃げ遅れたプレイヤー達を飲み込んだ。

 一撃で死に戻っていく彼らと、炎に巻かれて墜落していく敵船を見て、残された私達はゾッとする。


 味方ごと落とすなんて、そんなことある!?


「ゴルゥゥ……」


 戦慄する私達を嗤うかのように、ドラゴニアス号は口元から黒煙を上げながら唸り声を上げるのだった。

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