第129話 第三段階と飛龍船

「ふぃ~、やーっと抜けたー!」


 特別クエスト第二段階、『敵前衛艦隊を突破せよ!』。

 どうにかそれを達成した私は、甲板の中央で大の字になって寝転がっていた。

 あー、疲れたぁ。


「お疲れ様、ベル。今回も大活躍だったね」


「あ、エレイン! あはは、みんなのお陰だよ、私一人じゃどうしようもなかったし」


「いや、レイドクエストで一瞬でも自分がどうにかしてやろうって考えが生まれる時点でヤバイから」


 エレインに助け起こされながら、呆れ顔でそんなことを言われてしまう。

 いやうん、なんというかこう、いつものノリ? みたいな?

 ほら、思い付いたらやってみたくなっちゃうよね!


「で、そこに転がってるボコミは……」


「えーっと、私がずっと踏んづけてたら腰が抜けたんだって。……気持ちよすぎて」


「あ、うん、知ってた」


 はあはあと息を荒げ、自力で起き上がろうとしないボコミを見て、エレインは乾いた笑い声を上げる。

 いやうん、気持ちは分かる。というかよく考えたらこれ、ずっと配信してたんだよね。大丈夫かな、規制されたりとか……。


 ……今更か。


「それで、船の状態はどんな感じ?」


 ボコミのことはさておいて、現状把握のためにそう尋ねる。

 正直、戦闘がギリギリ過ぎて船の残HPとかまで気を払う余裕はなかったんだよね。


「残りHPは四割くらいだよ。何人か死に戻ってたけど……突破したら復活したみたいだし、多分このまま最終段階に行くんじゃないかな? ティア次第だけど」


「そっか、いよいよだね」


 そこそこボロボロだけど、まだ戦えないわけじゃない。ティアならきっとそのまま突っ走るだろう。


「最終決戦、どんなのが相手かな?」


「海賊団の総旗艦だし、この船より大きいだろうね。船自体がボスなのか、船長がボスなのか……」


「また取り巻きいっぱいだと面倒だねー」


 エレインとそんな話をしていると、敵船を襲撃していたティア達が戻っていた。

 嬉々としてそっちに向かおうとするものの、周りを囲うプレイヤーの波が分厚くて近付けない。むぅ。


「ティア様! いよいよ最終段階ですね!」

「ティア様! ボスなど軽く捻り潰して、我々の力を見せ付けてやりましょう!」

「ティア様!」

「ティア様!」


 なんだろう、第二段階が始まる前に比べるとなんかこう……周りの取り巻きがやたらとティアを崇めてるんだけど?

 いや、本当に何があったの?


「お姉ちゃん、次の段階が解放されたけど、大丈夫? 疲れてるなら休憩入るけど」


「ううん、大丈夫! 私は全然平気だよ。他の人は……」


「「「全てはティア様の御心のままに!!」」」


「あ、うん」


 本当にどうしたんだろうこの人達。ちょっと怖いんだけど。

 一体何があったの? とティアに視線を向ければ、聞かないでとばかりに目を逸らされる。

 うん、ひとまずは気にしないことにしよう。


「それじゃあ、大丈夫そうだけど一応投票するな」


 次の作戦に進むかどうか、二択の投票をメッセージで飛ばす。

 当然、回答はYES。集計が終わり、無事このまま次の作戦へ進むことが決定した。


「それじゃあみんな、HPMPは全快してるな? 行くぞ!」



特別クエスト:空挺海賊団襲来 2/3

・敵本船を撃退せよ!

※一度引き返す場合も、クエストの進行状況は引き継がれます。



 ん? 撃退? 撃沈じゃないの?


 そんな疑問を浮かべながらも、ティアがクエスト進行をタップ。メガグロちゃん号が加速していく。


 そして、さほど時間を置かずに遠くの空に影が見え始めた。


「……えっ、何あれ?」


 思わずそう呟いてしまうほど、それは異様な光景だった。

 まず目につくのは、船首についたドラゴンの頭。

 空をかくオールの代わりに竜の翼が取り付けられたそれは、遠目に見てもすごくカッコいい。正直羨ましい。


 でも、そんなことよりおかしいのはその大きさだ。さっきまで戦ってた船を、一瞬小型ボートと見間違えたほどの圧倒的サイズ。距離感が狂いそうだ。


「……これ、勝てるのか?」


 一体誰が呟いたのか、その言葉に反論出来る人は誰もいない。

 メガグロちゃん号の数倍のサイズを誇る敵本船が、小さな私達に向けてその鎌首をもたげるのだった。

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