第128話 雫の独白⑧
やっぱり、お姉ちゃんはすごい。
二隻の船と大量の小型ボートから一斉に攻撃されながらもしっかりと耐えるお姉ちゃん達を見て、私はもう何度目かも分からない感想を抱いた。
「うおわぁぁぁぁ!?」
「一人吹っ飛ばされたぞー!!」
「フォロー入れ、俺らのベルちゃんに指一本触れさせるなぁ!!」
「俺に任せろぉ!!」
「おお助か……ってなんで裸なんだお前!?」
あんなにたくさんのプレイヤーが、お姉ちゃんの無茶な行動に触発されて、自分から砲撃の前に自分の身を晒している。
あれだけ多くの人を、自分の行動一つで振り回して自発的に動かせるのは、それだけお姉ちゃんが慕われてる証拠だ。
そんなお姉ちゃんが誇らしくて、そんなお姉ちゃんに愛されてると思うとどうにもむず痒くて……私も負けていられない、と思う。
「《フレアランス》!!」
「ぎゃああ!?」
乗り込んだ船の甲板で敵兵を薙ぎ倒しながら、けれど私は少し困り果てて顔を顰める。
……敵の数と出現頻度が高い。十人以上で乗り込んでるのに、制圧しきるのに時間がかかり過ぎてる。
第一段階と第二段階で敵の数や強さが上がっているのもあるだろうけど、これをたった二人で凌いでたお姉ちゃんとエレインは凄すぎると思う。
正直なところ、こんなことになっている原因は分かってる。個人としての強さもそうだけど、連携のレベルが違いすぎた。
言葉を交わさなくても完璧な連携をする二人に対して、こっちは今日初めて一緒に戦うような雑多なプレイヤーが寄り集まっただけの多人数。同士討ちを避けるために動きが窮屈になって、誰も全力を発揮出来てないんだ。
「お姉ちゃんなら、もう少し上手く纏められるのかな……」
もう一度、母船の中央で守りを固めているお姉ちゃんを見ながら、そんな風に思う。
指示を出すだけなら、私もやれなくはない。けど……ああやって自然と人を惹き付けて、一つの目的を浸透させながら自然と協力し合うなんていうのは、私には無理。
「ティア! 危ないよ!」
「っと……!」
横から声をかけられ、私は慌てて曲刀を回避。すぐに反撃の炎魔法を叩き込む。
ふう、危なかった。
「ありがとな、サーニャ」
「友達だからね! 当然だよ!」
にひっ、と笑みを浮かべるサーニャに釣られて、私も少しだけ口角が緩む。
お姉ちゃんが入院していた時期、私を気にかけてよく遊びに来てくれたのがきっかけで、それなりに仲良くなれた……と思う。
「でも、いくら好きだからって戦闘中にお姉さんばっかり目で追っちゃうのは感心しないぞ?」
「そ、そんなに見てたか?」
「うん、何ならイベント初日の演説からずっと意識してたよね」
「ま、まじか……」
そんなサーニャから指摘されると、そうかもしれないと少し恥ずかしくなる。
自分では全然そんなつもりなかったのに……お、お姉ちゃんにバレてないよね?
「いやー、本当にお二人仲良しで羨ましい限り。一夜を共にするくらいはもうしたの?」
「するかばかっ!! い、いや、一緒に寝るだけならしたと言えなくもないけど、その……!」
「あ、危ないよティア。ワッフルー」
とんでもない発言をぶっこまれて動揺した隙に敵兵に襲われ、またも助けられてしまった。
うぐぐ、でも今のは仕方ないと思う。だってあんなこと言われたら誰だって動揺する。お姉ちゃんだって……いや、喜々として「一緒に寝た!」って言いながら撲殺しそうだ。今度口止めしなきゃ。
「ふふふ、その時のこと、今度じっくり聞かせてね?」
「言わないからっ! もう、サーニャ、分かってて言ってるだろ……」
「だってティアの反応が可愛いからね、つい」
「エレインみたいな意地悪しやがってもう……」
私も人の事言えないけど、サーニャはどうもそっちの趣味があるみたいだから、私とお姉ちゃんの仲の進展についてエレイン以上に興味津々みたいなんだよね。
当たり障りないことしか話してないけど、どうも私の反応から大体察せられてる感じがするのが恥ずかしい。
「というか、サーニャはなんでオレらにそんなに構うんだよ。入学式で見かけたっていうのは聞いたけど、普通それだけでここまで関わってこないだろ」
だからってわけじゃないけど、私は戦闘中にも拘わらずそんなことを問いかけた。
周りの動きを注視しながらだと気もそぞろだけど、お姉ちゃんの方はある程度安定してるみたいだから、お喋りの余裕くらいはある。
「んー、確かに、最初は可愛くて仲良しな尊い姉妹がいるなーって程度だったんだけど……あー、これ聞いても怒らないでね?」
「ん?」
「私達のクラスでさ、悪い意味で有名だったんだ、ティアのこと。学校にも来ないで、お姉さんに寄生してる引きこもりー、とかなんとか」
「…………」
それは、正直否定できない。
どんな理由があったって、現実から目を背けてお姉ちゃんに迷惑かけ続けていたのは事実だから。
そう思って黙り込む私だったけど、サーニャはそんな私の考えを否定するかのように「でも」と口にする。
「気に入らなかったんだよね、そういうの。だって、私が見たお姉さんは、凄く幸せそうだったから」
「えっ……」
「妹と一緒に暮らせて幸せだーって、全身からそれはもうキラッキラしたオーラみたいなのを振りまいててね。羨ましくはあっても、どうしてもクラスのみんなみたいに可哀そうだなんて思えなくて。それを証明するために、これまで何度も学校や買い物に行くお姉さんを遠巻きに観察してきたんだ」
「なあちょっと待ってそれストーk」
「そしたらねー、お姉さんってばもう周りの目も気にせずティアのことばっかりでね。いやー、買い物中にどんなもの作れば妹が喜ぶかって楽しそうにあれこれ悩んでる姿は尊かった……! その場で永久保存したね」
「おーい、人の話聞いてるかー?」
さらりと友人の犯罪(?)歴が暴露され、私としてはもう何と言ったらいいやら。通報した方がいいんだろうか?
あと、保存された画像があるならそれはちょうだい。バックアップ保存するから。
「だから、その時から思ってたんだ。もしこの二人に何かあったら、この幸せを壊さないために私も出来ることをしてあげたいなって」
「……こっちから何かしてあげたわけでもないのに、よかったのか?」
「眺めてるだけで幸せのお裾分けが貰えるんだもん、十分だよ。私の好きでやってることだしね。ただそうね、もし何かお返しを考えてくれるんなら……出来れば、次はティアの方からもっと積極的に愛を叫んでるところが見たいかな!」
「そんな要求されるとは思わなかったよ!?」
私の心の叫びに、サーニャは「あはは!」と思い切り笑う。
からかわれてると分かって思わず頬を膨らませるも、それはそれでちょうどいいかと頭を切り替えた。
「でも……そうだな。オレにとっても、避けては通れないこと……だよな」
「うん? どうしたの?」
「いや、こっちの話。困ったボスがリアルにいるんだけど、サーニャのお陰で腹をくくれたよ、ありがとな」
「んー? よく分からないけど、どういたしまして」
そう言って笑うサーニャに笑い返すと、さて、と周囲を見渡す。
あちこちから好き放題湧いて出る戦闘員、砲弾を抱え、下手に突けば落とした砲弾が暴発して二次被害を生む装填手、更には小型ボートから飛び降りて来る追加の戦闘員。色んな敵が入り混じり、分断されたプレイヤー達が各個に撃破しているせいで滅茶苦茶な乱戦状態になった甲板の景色。
私には、お姉ちゃんみたいにみんなを惹き付けて纏めることは出来ない。でも、お姉ちゃんと並び立つために、私なりのやり方で全員を纏め上げよう。
そう決意を固めた私は、杖を上空へ振り上げた。
「《エクスプロージョン》ッ!!」
炎属性の魔法が大空に大輪の華を咲かせ、衝撃で船の上にいる全員が一瞬だけ動きを止める。
そこへすかさず、私は叫んだ。
「全員、私の半径五メートル以内に集合。円陣を組んで外からの敵を受け止める体勢を構築。5秒以内な。さもないと……」
ニタリ、と、私は獰猛な笑みを浮かべる。
お姉ちゃんみたいに無邪気で優しく、それでいて容赦のないそれとは違う。全部分かった上で、問答無用で“命令”を下す。
「……敵より前に、オレの魔法で焼き尽くすぞ!!」
「「「ありがとうございます!!」」」
なぜかお礼を言われた。解せない。
でも、流石に本気で無駄死にするつもりはないようで、全員が私目掛けて走り出した。
「ごー、よーん」
「……ティア、本気でやるつもりなの? 割とみんなギリギリだよ?」
「さーん、にーい」
サーニャから忠告が飛ぶけど、私はそれをスルー。
実際、ギリギリではある。でも、それに頓着してたら敵の処理に時間がかかるし、時間がかかった分だけ中央で耐えてるお姉ちゃん達が厳しくなる。
だから私は、躊躇わない。容赦なく、私らしく……恐怖と痛みで従わせよう。従わない奴は焼き殺す。
「いーち……ゼロ!!」
カウント終了と同時に、杖を振り下ろす。
ひいこらひいこらとまだ走ってる姿があったけど、関係なし。
「《フレアレイン》!!」
味方が多くて使えなかった、炎属性範囲攻撃魔法を、全方位に向けてぶっ放す。
近くにいた敵兵が一撃で焼き尽くされ、ついでにギリギリのところで範囲内に飛び込んで来たプレイヤーのお尻を焦がしながら、甲板上が大分スッキリと片付いた。
「……全員、ここからはオレの護衛と強化に専念しろ。遠距離攻撃の手段があるやつだけ敵を叩け。後はオレが全部ぶっ潰す!!」
「「「
何だかノリのいいプレイヤーから崇められたりしつつ、私の敵船制圧もようやく軌道に乗り始める。
その後、五隻の船を順調に沈めた私達は、ついにクエストの第二段階を突破するのだった。
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