第127話 ボコミの想いと誘蛾灯

「受けきるって、お姉様!? さすがにそれは無理がありますわよ!?」


「大丈夫、砲弾も爆弾も寄ってくる敵も、全部物理属性みたいだから! 理論上は全部パリィすれば防ぎきれる!!」


「いやいや、たとえそうだったとしても、お姉様一人でなんて……!」


「大丈夫」


 よっぽど突拍子もない行動に思えたのか、いつになく不安そうなボコミへと笑いかける。

 私を誰だと思ってると言わんばかりに、どこまでも自信たっぷりに。


「いつも守られて来たんだもん。今度は私が、ボコミを守り抜いてみせる。だから、信じて?」


 そう言うと、ボコミは「はぅ」と胸を押さえた。

 えっ、大丈夫?


「お姉様のお言葉は刺激が強すぎますわ……! 勘違いしてしまいそうになりますの。ですが、分かりましたわ」


 心配になる私を余所に、ボコミは、大きく胸を張る。

 もう何も恐れるものなどないと言わんばかりに盾や槍を投げ捨て、さながら神へ身を捧げる聖女のように叫んだ。


「私の身も心も、お姉様に捧げますの!! 《献身の聖女》!!」


 スキルが発動すると同時、視認出来る範囲にある全ての敵の大砲がボコミを照準したのが肌感覚で分かった。

 未だかつてない大量の攻撃、捌き切れれば私達の勝ち、捌き切れなければ私もボコミも死に戻り。


 さあ、勝負……!!


「てやぁぁぁぁ!!」


 ドォン!! と重々しい音を轟かせて飛んできた砲弾に杖を合わせ、側面からぶん殴る。

 腕から伝わってくる重い反動に顔を顰めながら全力で振り抜けば、砲弾はそのまま彼方へ弾け飛んでいった。


 よしっ、いける!!


「ティア、ここは私が抑えるから、船の制圧お願い!!」


「わかった、お姉ちゃん、負けないでよ!!」


 次々と飛んでくる砲弾を捌きながら、ティアと短く言葉を交わす。

 顔を向ける余裕もなかったけど、絶対に負けないという意思を込めて真上に砲弾を弾き飛ばし、返事の代わりとばかりに炎の華を咲かせてみせる。


「とはいえ、やっぱりキツいな……!!」


 正面から飛んでくる一斉砲撃を凌いだかと思えば、次は上空から降り注ぐ爆弾の雨。その合間を縫うように迫る敵兵の曲刀。

 爆弾や砲撃は杖で、敵兵は両足で蹴り飛ばすことでどうにか対処するものの、どうにも追い付かない。


 しかも、そんな時に反対側の船から砲音が轟いた。ええい!!


「ボコミ、邪魔だから寝てて!!」


「のほげっ!?」


 振り返った先に囮役のボコミが突っ立ってると思うように杖が振れないから、地面に叩き伏せて踏みつける。

 これで、ボコミに触れようと思ったら、前後左右上空どこから来ようと私を突破しなきゃ無理だ。


「《エアドライブ》、《ガイアドライブ》!!」


「んほぉぉぉぉぉ!?」


 私の体を風が包み、浮遊感を打ち消すかのようにズシンッ!! と全身が重くなる。


 踏んづけたままのボコミからすんごい声が聞こえた気がするけど、ダメージは入ってないしよしとしよう。


「ぜやぁぁぁぁぁぁ!!」


 ボコミの上で、両手の杖を全力でぶん回す。

 風の砲弾で射程が伸び、一瞬だけ早い段階での迎撃が可能になったことで、少しだけ余裕が出来た。

 これならもうしばらくは凌ぎきれる。


「あぁぁぁぁぁぁ!! お姉様が暴れる度に、私にかつてないほどグリグリとお姉様のおみ足が食い込んできますわぁ!!」


「いらん実況しなくていいから!!」


 敵の攻撃を集める誘蛾灯として利用されているボコミは、そのままだと暇なのかやたらと騒がしい。

 ちょっと強めにグリグリしたら、嬉しそうな悲鳴が返って来た。うーん、さすが。


「お姉様ぁ! 私、お姉様のそういう目的のために真っ直ぐで容赦のないところ大好きですわぁ!! 改めて惚れ直しましたのでこれからも妹分として存分に可愛がってくださいましぃ!!」


「あはは、私もボコミのことは好きだよ。これからもよろしくね」


「ああ、つれないお返事もまた……って、え?」


 私が素直に答えると、ボコミはあり得ないものでも目にしたかのように目を丸くする。


 そんなに意外だった?


「私も同じだよ。どこまでも自分に真っ直ぐで、不器用だけど優しくて、どれだけ邪険に扱われたってめげないボコミのことは好き。私の妹は世界でたった一人だけだから、その想いには応えられないけど……これでも、ずっと尊敬してるんだよ?」


 正面から迫る敵兵を風の砲弾で纏めて薙ぎ払い、お返しとばかりに飛んでくる砲撃を直接杖で弾き飛ばして別の砲弾にぶつけ、相殺させる。

 真後ろから飛んでくる追加の砲撃を音と勘だけを頼りに防ぎきると、上空から落下してくる爆弾を跳ね返し、ひゅんひゅんと飛び回る小型ボートを撃ち落とす。


「だから、私としてはずっと友達でいて欲しいんだけど……ダメかな?」


 少しだけ不安を抱きながら、私はそう問い掛ける。

 それに対して、ボコミはやれやれと溜息を溢した。


「ダメなわけありませんわ。私は元々、お姉様方の甘々な恋路に割り込もうなんて考えていませんもの。これからも末長くお付き合いしたいですわ、ただ……」


「ただ?」


 くわっ!! と、突然ボコミが目を見開く。

 その反動で、《ガイアドライブ》の移動不可な重量すら押し退けて体を揺さぶられてしまった。


 あ、危なっ!!


「私としましては、友達よりもベルお姉様とティアお姉様のペットとして毎日踏みつけられるメス犬ポジションに就きたいですわぁぁぁぁぁ!!」


「うん、ぜんっぜんブレないねボコミは!?」


 ことここに至っても自分の欲望に素直な様子に、私としても笑うしかない。

 全く、それでこそボコミだよね。そういうとこが好きだよ。


 それはそれとして変態発言が過ぎるからグリグリするけど。


「んほぉぉぉぉぉ!! って、お姉様、危ないですわ!!」


「んっ……!?」


 ボコミとバカみたいなやり取りをしながら、どうにかこうにか凌いで来た四方八方からの波状攻撃だけど、いい加減《エアドライブ》と《ガイアドライブ》の効果が切れる。

 しかも、それまではあくまで"波状"攻撃だから耐えられていたのが、徐々にタイミングがズレていった末、ついに"同時"に来そうな気配がする。


 流石に、これは……!!


「うおぉぉぉ!! お前ら、タンカーの意地を見せろぉぉぉ!!」


「「「うおぉぉぉ!!」」」


 すると、私達を囲うようにレイドに参加していたタンカーの人達が円陣を組み、ガッチリとガードを固め始めた。

 そこへ一斉に放たれる、無数の砲弾。

 さっきは一瞬で一人消し飛ばされていた攻撃だけど、複数人で分担しながら受けることで、どうにか凌ぎきっていた。


「俺らだってただ遊んで終わるつもりはないぜ!」

「みんなで楽しむんだろ、いくらベルちゃんでもいいとこ全部独り占めは感心しないぜ!?」

「ベルちゃんは上を頼む、左右の砲撃は俺らが引き受けた!!」


「みんな……ありがとう!!」


 お礼の言葉を叫びながら、上から降ってくる爆弾を全て小型ボートへ打ち返す。

 流石に全弾命中とはいかないけど、多少なりと数が減らせるならそれで十分だ。


「この調子ならいけるよ、みんな、もうひと踏ん張りお願いね!!」


「「「うおぉぉぉ!!」」」


 プレイヤー達の雄叫びをBGMに、ひたすら攻撃を凌ぎ続ける。

 そうしてついに、メガグロちゃん号が敵艦隊を突破してクエストの第二段階が終了するまでの間、私達は船を守りきるのだった。




「ところでこの状況、もう私が床で踏みつけにされている必要はなくなっているのでは……? ああ、あれだけ熱く語り合ったのにあっさり忘れられてこの仕打ち……! たまりませんわ」

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