第126話 敵船ラッシュと集中砲火
「みんな、大砲は最低限のタンカーと盗賊で回せ! 攻撃メインのプレイヤーは全員敵船に乗り込むか、空から飛んでくる敵の対処! 僧侶は全体のサポートだ!」
ティアの指示が矢継ぎ早に飛び、空に紅蓮の花が咲く。
敵兵の悲鳴が耳を打つ中で、私は私で先陣を切って駆け回る。
「次の船、来るよ!! みんな、私に続けーー!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
私達の船の前でくるりと反転し、ぴたりと横付けするため近付いてくる敵船を見るや、もはやどっちが海賊か分からない雄叫びを上げて積極的に乗り込んでいく。
敵を薙ぎ倒し、砲撃を黙らせ、船を制圧。でも、終わらない。
「いやー、キリがないね……!!」
制圧した船から母船の方に戻りながら、私はボヤく。
特別クエスト第二段階、敵前衛艦隊の突破ミッションが開始された時は、十隻もいる敵をどう相手にしたものか悩んだけど、思ったよりは大分楽だった。
というのも、敵にしろ私達にしろ、大砲の射程はそこまで長くないようで、何隻相手にいようが船の左右一隻ずつ、最大二隻しか攻撃してこないからだ。
ただ、あくまで思ったよりは楽というだけで、簡単に突破できるというわけではない。
二隻からの同時砲撃なんて受けた日にはメガグロちゃん号へのダメージが無視出来ないレベルになるし、一隻黙らせてもすぐに補充がやって来る。
それに加えて、各敵船から飛んでくる小型ボートに数の制限はない。
単に直接敵兵が乗り込んでくるだけでなく、小型の爆弾をばら蒔いて私達プレイヤーや船体へのダメージまで狙うモーションが追加されたこのボートを無視するわけにもいかず、私達は右へ左へ上空へと、人を分散させながらどうにかこうにか凌いでいる状態だ。
でも、戦力の分散は基本的に愚策。実際、どの方面からも少しずつ母船のHPが削られていってる。
「うーん、何か手はないものか……」
三方向に存在する戦場の内、どれか一つでも少数で完全に押さえ込めるならいいんだけど、さっき第一段階で暴れた感覚からして、船の制圧はソロだと厳しいんだよね。
となると、空だけど……
「こっちも厳しそうだなぁ……!」
好き勝手に飛び回る小型ボートから、次々に投げ込まれる敵兵と爆弾。
とりあえず、近くに降ってきた爆弾を打ち返してボートを一隻落としてみるも、この程度じゃ焼け石に水か。
なまじ、大規模なレイド戦というだけに広々とした甲板のあちこちに投下されるそれを完全に防ぎ止めるのは、ティアの火力と攻撃範囲をもってしても難しいみたいだし、私も流石に手が回らない。
うむむむ、どうすれば……!
「ええい! みんな、俺が敵兵だけでも引き付けて時間を稼ぐ! その間に殲滅してくれ!」
悩んでいると、同じように絶え間なく続く敵の攻撃に業を煮やしたらしいタンカーらしき人が、盾を構えて宣言した。
確かに、敵兵を一ヶ所に集められるなら、処理をするのも大分楽になる。その分タンカーの人が危ないけど、彼はそれを自ら引き受けてくれるらしい。
さすが、男だね!!
「行くぞ、《ヘイトアクション》!!」
もしかしたら、状況が改善されるかもしれない。
そんなみんなの期待を背負い、満を持してスキルを発動。既に降下を終えていた敵兵達が、一斉にタンカーの男へ視線を向ける。
「そうだ、こっちだ! 俺を狙ってこい!!」
寄ってくる敵兵を前に、勇ましく盾を構えるタンカーさん。
後は適度に集まったところで、周りから攻撃を仕掛けるだけ……
ちゅどーーーん!!
と、そう思っていた直後、タンカーさんが爆発に飲み込まれた。えっ? 何が起きたの?
「ぶほっ、げほ! って、ちょっと待て、お前らまで狙ってくんの!?」
タンカーさんが空を見上げると、そこにはついさっきまで好き勝手な場所で爆弾を投下していた小型ボート達が、入れ替わり立ち代わり爆弾を投下する光景が広がっていた。
ドカンッ! ボカンッ!! と連続して爆ぜる爆発に呑まれ、タンカーさんが悲鳴を上げる。
しかも、悲劇はそれだけで終わらなかった。
「ちょ、ちょっと待てタンマ! これ以上はキツ……えっ」
左右に展開していた敵船の大砲が、ほんの僅かに狙いを上へ移動させ、ある一点を照準する。
そう、今まさに爆弾の雨で追い込まれた、タンカーさんへと。
「ちょっ、それはさすがに……無理ーー!?」
一斉に火を吹いた、無数の大砲。
この巨大船のHPすら削り取る攻撃をこれだけ受けて耐えられるはずもなく、タンカーさんは一瞬で消し飛んだ。うわぁお。
「ま、マジかよ……」
「タンカーがヘイト集中スキル使ったらこうなるのか」
「地道に処理するしかなさそうだな……」
あっという間に倒されたタンカーさんの末路に、そんな諦めの雰囲気が漂いだす船内。
でも、私は今の一連の流れに、むしろ攻略の糸口を見た。
「これならいけるかも……!! ボコミ!! いる!?」
「はいお姉様!!」
「うわっ、いつの間にこんな近くに!?」
声を上げた瞬間、私の足元に出現した変質者の姿に、思わず飛び退いてしまう。
それを見てボコミはガックリと肩を落としてるけど、うん、今のは仕方ないと思うんだ。
「ボコミ、お願いがあるんだけど。《献身の聖女》を使ってくれない?」
「お姉様の頼みとあれば喜んで使いますが、流石の私もスキルの効果でダメージが倍加している状態で今の攻撃を耐えきるのは無理かと思いますわよ?」
「大丈夫、ボコミは敵の攻撃を引き付けてくれればいいから。飛んできた攻撃は……」
ニヤリと口角を吊り上げて、私は周りのみんなにも聞こえるように堂々と宣言する。
「私が受けきる」
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