第125話 お説教とクエスト第二段階

「おーねーちゃーん? これがどういうクエストか分かってるか?」


「ええと、イベントのレイドクエストでございます」


「そうだな、レイドだな。で、お姉ちゃんはみんなで協力して戦う前提のレイド中に、何を一人で突っ込んでるんだ? エレインが気付いてフォローに向かってなかったら、いくらお姉ちゃんでもやばかったぞ?」


「お、おっしゃるとおりで……」


 特別クエスト、第一作戦。先遣隊の撃滅に成功した私はしかし、みんなの前で正座させられ、ティアにこってりと説教されていた。


 うぅ、恥ずかしい……いつもならティアの方こそそういう感情を抱きそうなものだけど、今回は私を叱ることで頭がいっぱいなのか、特に気にしていない様子。むむむ。


「確かにウィングブーツが使えるのを知れたのは大きいし、こっちから乗り込んで制圧すれば被害を抑えて戦えるってわかったのも大事だけど、試す時はちゃんとみんなのサポート体制を整えてから……お姉ちゃん、聞いてるか?」


「聞いてます聞いてます! バッチリ聞いてます!」


「じゃあ何の話してたかわかる?」


「お姉ちゃん大好き!」


「…………」


「ああ嘘!! 冗談だからそんな蔑んだ目で見ないで!? 私はボコミじゃないからそんな風にされても嬉しくないよ!!」


「しれっと巻き込まれましたわ!?」


 ペコペコと頭を下げる私に、ティアは持っている杖の先をぐりぐり押し付けてくる。

 ぐお~、ティアが私に冷たい……!!


「まあまあティア、ベルが後先考えないアホの子なのは今に始まったことじゃないでしょ? 人生には諦めが肝心だよ?」


「待ってエレイン、私ってそんな人生観を絡めて説得されるほどダメな子扱いなの!?」


「確かに……」


「ティアも納得しないで!?」


 ふ、二人揃って私を苛める……!! おのれー、こうなったら、グレてやるー!!

 えっ、そういうところがアホっぽいって? ぐ、ぐぬぬ……!!


「それより、先遣隊は落としたけど、何か変化は?」


「クエストが次の段階に入ったぜ。このまま続行するか、一度戻るか選択出来るみたいだ」



特別クエスト:空挺海賊団襲来 1/3

・敵前衛艦隊を突破せよ!

※一度引き返す場合も、クエストの進行状況は引き継がれます。



 ティアがみんなにも見えるように大きく表示したウィンドウには、相変わらず大雑把な指示内容。


 ふんふん、気になるのは、先遣隊は"撃滅"が指令だったのに、今回は"突破"って書かれてることかな?


 ティアとエレインも同じことを思ったのか、難しい顔をして唸ってる。


「撃破が指令じゃないってことは、今度の敵は無限湧きの可能性があるかもな。さっきの戦いだと船の速度にあまり意味がなかったから、この第二作戦で敵の前衛を振り切るのに重要になってきそうだ」


「削られた船のHPも戻ってないし、残り八割のHPをどれだけ維持したまま最終段階に至れるかが鍵になりそうだね」


「となると、さっきみたいに相手の船に跳び移って制圧するのがいいか」


「ほら! 私の行動ちゃんと役に立ったでしょ!? だからそろそろ正座やめていい!?」


「ダメ」


「そんなぁ~」


 二人の話し合いに割り込んで現状への抗議を行うも、あっさりと却下されてしまった。ぐすん。


 あ、サーニャちゃんどうしたの? 慰めてくれるの? ……って、膝の上にワッフル乗せないで!! なんかちょっと足が痺れて来たよ! ゲームなのに! あっ、ちょ、突いて遊ばないで、あーっ!!


「じゃあ、次の作戦はひとまず被害を抑える方優先で、攻撃は最小限で行くか。というわけでお前ら、休憩したいって奴はいるか? ちょっと投票するから、一度戻りたいって奴は申告しろよー」


 そう言って、ティアはギルドメッセージの投票機能を使い、『このまま続行? Yes/No』という文面を一斉に配信した。


 うん、もちろん私は続行だよ、足はビリビリして辛いけどね!!


「よし、全員オッケーみたいだな、じゃあ行くぞ!!」


 投票が終わり、満場一致で続行が決定。そのままクエストの第二段階に入る。


 ちなみに、それに合わせてようやく正座をやめる許可が降りた。ふう、助かったよ。


「さて、敵はどれくらい来るかな……」


「まあ、さっきは一度みんなで乗り込んじゃえばほとんど完封出来たわけだし、二隻や三隻ならどうにかなるでしょ」


 次の敵に想いを馳せらせるティアに、私は軽い調子で笑い飛ばす。

 でも、ティアとしてはそこまで楽観的になれないようで、難しい表情のまま溜息を溢した。


「今回は初めてのレイドイベントだから、第一段階はチュートリアル的な位置取りとして難易度設定されてると思うんだよな。だから、次からはそう楽じゃないと思った方がいい」


「なるほど、そういう見方もあるんだね。でもまあどれだけ来ようと、私とティアがいれば余裕余裕」


「お姉ちゃん、それフラグって言うんだよ?」


 胸を張って笑い飛ばすと、ティアにジト目でそう言われた。


 いやいや、フラグなんてそれと自覚した瞬間にフラグとしてはへし折れてるもんだって、この前エレインに教わったし。大丈夫大丈夫。


「来たぞーー!!」


 そうしていると、例によって高いところが大好きな男共が、見張り台の上からそう叫んだ。


 気を引き締め直し、指差された方角……船の正面にじっと目を凝らした私は、思わず顔を引き攣らせた。


「お姉ちゃん……これ、余裕?」


「ははは……二人じゃちょっと無理かもね?」


 ずらりと十隻以上横並びになってこちらへ突っ込んで来る、さっきと同じような無数の海賊船。

 その圧倒的な戦力差を前に、私も流石に叫びたくなった。


 お前ら、海賊の癖にそんな大規模艦隊組むなんて卑怯だぞーーーー!!

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