第124話 船上の乱戦と親友との絆
「ベル!!」
「あれ、エレイン?」
さて、この群れをどう料理してくれようかと考えていると、上空からエレインが降ってきた。どうやら、私が飛び出した直後に追い掛けて来たみたい。
「全くあんたは、いつもいつも行動が突拍子もないんだから。フォローするこっちの身にもなってよね」
「あはは、ごめんごめん。でも、文句言いつついつも助けてくれるエレインには感謝してるよ、ありがとうね」
「私は私で、それを楽しんでるところあるからお互い様だけどね。どういたしまして」
ピタリと、私とエレインで背中をくっ付ける。
敵の正確な数はよく分からない。でも、百は超えてると思う。
一方こっちは、たった二人だけ。他の味方が支援に来ようにも、船が反転して再接近するには二十秒はかかる。
でも……負ける気はしない!!
「背中は守ってあげる。存分に暴れてみせなよ、ベル!」
「任せてよ、私達でこいつら全部ぶっ飛ばして、みんなを悔しがらせてやろう!」
にっ、と肩越しに笑い合い、私達は駆け出す。それに合わせるように、敵兵もまた襲い掛かってきた。
「《魔法撃》! でやぁぁぁ!!」
「ぐわぁ!?」
杖を振り抜き、先手必勝。まずは一人を打ち倒す。
その間に、横から迫る曲刀の一閃。杖で弾き、もう片方の杖で反撃を加えると、時間差をつけて躍りかかってきた敵を回し蹴りで吹き飛ばす。
と、そこで私の死角から、敵が不意打ちを仕掛けて来る気配がした。
「《ツインスライサー》!!」
私が振り返るより早く、エレインの二連撃で沈む敵兵。
それでも止まらず振り返った私は、ショートカットキーで取り出した手斧をぶん投げる。
「せいっ!!」
「ぐほっ!?」
カバーに入ったエレインの後ろにいた敵の頭をかち割ると、「よっ」と軽い調子で私を飛び越えたエレインが、無数のクナイを取り出した。
「《五月雨投げ》!!」
上空から降り注ぐ、クナイの雨霰。
私に群がろうとしていた敵が一掃され、少しだけ何もない空間が生まれる。
スタリと着地し、再び私と背中合わせになったエレインは、ごく軽い調子で口を開いた。
「それにしても、良かったねベル! ティアと仲良くなれてさ!」
「エレインのお陰だよ! 最初、てっきり知ってると思ってー、とかなんとか言ってたけど、本当はティアが私を受け入れられる状態になるまで、様子を見ててくれたんでしょ?」
「……ははは、なんのことか、な!!」
再び接近してきた敵兵を、エレインが切り伏せる。
私も、そんなエレインの背中を庇うように杖を振るい、敵兵を弾き飛ばしていく。
「昔っから、エレインには助けられっぱなしだね!!」
「全くだよ、小学校の時も、妹が虐められたとかで上級生のクラスに殴り込んで大暴れするし。私が虐めの証拠掴んでなかったらどうなってたことか」
「あはは、あれはまぁ、若気の至りってやつ?」
「今同じこと起きてもどうせ殴り込むでしょ?」
「当然!! まだ若いからね、私!!」
「ちょっとは反省、しなさいよっと!!」
振り下ろされる刃を弾き、エレインと場所を交代しながら切り伏せて貰い、反対側の敵を殴り倒す。
タイミングなんて、一々口に出さなくてもお互いに分かる。
今まで、ずっと一緒だったからね。
「でも、私だって感謝してるんだよ。お母さんがお店開くってこっちに引っ越して来た時、一人で寂しくしてた私に真っ先に声をかけてくれたの、ベルだったからさ!」
「そ、そうだっけ?」
「まあ、ベルは天然たらしだから、覚えてないだろうけどさ!!」
そんなようなことがあった覚えもなくはないけど、小さい頃の話だし、もう忘れたよ。でも、エレインは今も覚えてるらしい。
「な、なんかごめん」
「別にいいよ、私が勝手に恩義感じてるだけだから。それに、これまで散々してきたフォローを考えると、借りどころか貸しの方が多そうだしね!」
「あはは、否定できない、なっ!!」
激しく立ち位置を入れ替わりながら、近付く敵を薙ぎ倒す。
少しずつ相手の動きに慣れて余裕が出来てくるのに合わせ、私達の船を狙う砲手へと矛先を向け、一つずつ潰していく。
「あー、これからは毎日学食奢って貰おうかな? 今回の配信だって相当視聴回数稼げるだろうし、たんまり稼げるでしょ?」
「いいよ、大学四年分、私がお昼奢ってあげる!」
「へ?」
予想外の言葉だったのか、エレインの動きが一瞬止まる。
その隙を突くように襲って来た敵を殴り飛ばすと、そんな私の動きをエレインが慌ててフォローしてくれた。
「エレインがいない学校なんてつまんないからさ、一緒に同じ大学行こう! 大丈夫、勉強なら私がいくらでも教えてあげるから。これからもずっとね!!」
そう言って笑いかけると、エレインからは深い溜息が返ってきた。あれえ?
「全くベルは……そんなだからたらしって言われるんだよ」
「え? なんで?」
「分からないならいいよ」
半ば本気で呆れられ、私としては戸惑うばかり。
そんな私にやれやれと肩を竦めながら……それでも、どこか嬉しそうにエレインは笑った。
「じゃあ、ベルにお昼たかるために、私も頑張らなきゃだね。手始めに、今回のレイドを華麗に乗りきって、ベルにたんまり稼いで貰うところから」
「ふふふ、頼りにしてるよ、親友」
「そっちこそ、豪華なお昼期待してるからね、親友」
視線を重ね、笑顔を交わす。
そうしていると、一度は離れた私達の母船が、すぐそばまで再接近しているのが見えた。
「お姉ちゃん! エレインー!」
暴れまわった影響で、敵の船は装填作業もロクに終わってない一方、こちらの船は準備万端。それに加えて、ここで勝負を決める腹積もりなのか、レイドメンバーが続々とこちら側へ乗り移って来た。
「うおー!! あの二人に続けーー!!」
「早くしないと獲物を全部持ってかれるぞー!!」
戦果に逸る蛮族みたいな荒っぽさで、砲炎舞い飛ぶ船内をどんどんと制圧していく。
当然、私達二人もそれに続くように暴れ続け――
レイドクエスト第一段階は、無事に達成されるのだった。
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