第123話 メガグロちゃん号と砲戦開始
「やろーどもー!! 出港だぁーーーー!!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」
声を張り上げ、杖を振り上げ、思いっきり叫ぶ私に応えるように、集まったレイドメンバーの人達が雄叫びを上げる。
ついさっき、愛しの妹に恥ずかしいところを見られた自棄っぱちも若干混じったそのノリに苦笑を浮かべながら、ティアは舵輪のところに浮かんだクエスト開始のウィンドウをタップした。
特別クエスト:空挺海賊団襲来 0/3
・先遣隊を撃滅せよ!
未だかつてないくらい大雑把なクエスト内容!!
いやまぁ、一応はバックストーリーみたいなのも書いてあって、各地を荒らし回る有名な海賊団が、新大陸にある伝説の天空城とそこに眠るお宝を狙って襲撃してきたんだって。だから、今回のクエストの依頼主は王様みたい。
冒険者諸君、力を結集して我が国を脅かす脅威を打ち砕いてくれ!! なんて大層な煽り文句がついてるけど、もう少し敵についての情報が欲しいなぁ。
なんて考えている間に、船が出港。帆が自動で張られ、大空へと繰り出す。
そこまで行くと、私もこの船の性能とやらをハッキリ認識出来た。
「おおっ、なんか速い!」
以前ここへ来る時に乗った客船の、軽く三倍はあるんじゃないかな? 客船と戦艦で比べるのもおかしな話だけど、加速も巡航速度も見違えるほどに速くて、中々捨てたもんじゃないなって思えて来る。
うん、ただキモいだけの船じゃなかったんだね! 良かった!
なんて思っていると、私と同じことを感じたのか、サーニャちゃんが話し掛けて来た。
「いやー、うちのメガグロちゃんは凄いですね、お姉さん!」
「うん! ……って、何そのメガグロちゃんって」
「この船の名前です。可愛いでしょう?」
「えっ。……あ、ああうん、可愛い……ね?」
……ボスだったメガログボロから取ったんだろうけど、元から可愛さとは無縁だったから、愛称にしてもちょっと微妙だと思ったなんて言えない。
「やった! 実は中にこの船に名前をつけられる場所があったんですけど、誰も利用してないみたいなので勿体ないなーって思ってたところなんですよ。お姉さんも納得してくれたみたいですし、つけてきますねー」
「えっ」
そんな機能あるの!? とか、いやいや早まらないで!? とか、色々言いたいことはあるけど……まあ、誰も気付かなかったか、気付いてもスルーした機能なわけだし、いいか。
「来たぞー!!」
そんな風に、キモ可愛い船(サーニャちゃん談)改め、メガグロちゃん号で空の航海を続けること少し。帆の上にある見張り台から、警戒を促す野太い声が聞こえてきた。
……どうでもいいけど、なんでその狭い見張り台の上に五人も六人もひしめき合ってるの? 見張りなら一人二人で良くない?
なんとかと煙は高いところが……げふんげふん。
まあ、せっかく見張りしてくれてたんだしね。そんな些細なことは置いといて、指し示された方へと視線を向けてみれば、メガグロちゃん号より一回り小さい船が一隻、こっちにぐんぐんと近付いて来てるのが見えた。
「行くぞみんな、砲撃戦準備!! 近距離職の連中のうち、ATKかAGIの高い奴は砲弾の運搬、DEXの高い奴は砲手になれ! 遠距離職は砲手の近くについて護衛だ!!」
ティアの勇ましい指示が飛び、みんな慌てて動き出す。
うんうん、こんな大勢に向かって大声で指示を飛ばせるなんて、成長したよね……お姉ちゃん嬉しいよ。
ただ案の定と言うべきか、見張り台の人達はお互いの体が邪魔で降りるのに苦戦してるみたいだった。何してるの君たち。
「いや、船は一隻だけじゃないぞ、周りに小型のボートみたいなのが飛び回ってやがる!」
ただ、そのお陰で一つ追加の情報を早めに得ることが出来た。
目を凝らしてみれば、確かに敵船の周りを小さな羽の生えた船がひゅんひゅんと飛び回ってる。
「中々速そうだね、あれを大砲で撃ち落とすのは無理じゃないかな?」
「魔術師は敵船よりもオレと一緒に周りの小舟を優先して攻撃しろ、タンカー連中は乗り込まれる可能性を考えて待機しとけ!!」
ティアの指示が少しばかり変更され、慌ただしく準備が進む。そして、ついに敵船と会敵。
まず初めに、周囲を飛び回る小舟が私達の船へと襲撃を仕掛けてきた。
「《エクスプロージョン》!!」
ティアの魔法が発動し、空中にドデカイ炎の華を咲かせる。
衝撃に巻き込まれて、何隻かの小舟は一発で大破炎上したけど、数が多くてティアの魔法でも仕留めきれてない。
「《ブレイズサイクロン》!!」
「《テンペスト》!!」
その穴を埋めるように、甲板のそこかしこから魔法が放たれ、空を色とりどりのエフェクトで埋め尽くす。そのお陰で、取りつかれる前に撃退出来たみたい。
でも、まだまだ油断は出来ない。続けて、敵の本船が突っ込んで来た。
「すれ違うぞ!! 大砲準備いいか!?」
「撃てっ、撃ちまくれぇーーー!!」
お互いに船首を向け合い、正面からすれ違う反航戦。
砲門の数で言えばこっちの方が多いんだけど、初めての砲撃とあってかこっちの手際が少し悪く、撃ち合った砲弾の数はほぼ同等。互いの船体に無数の炎が突き刺さり、視界の端に表示された敵船と味方船のHPゲージが削り落とされていく。
「まだまだぁー!」
「次だ、次ーー!!」
一度距離を置いたお互いの船がUターンし、再接近。もう一度砲火を交える。
ただ、こっちのメンバーも一度やったことで少し慣れたのか、今度こそその攻撃性能を遺憾なく発揮したメガグロちゃん号の砲撃によって、敵船のHPがゴリゴリと削れ落ちる。
そんな私達の攻撃を押さえるためか、敵の小舟が接近してくるけど、それらもティアを始めとした魔術師たちの敵ではないようで、次々と撃ち落とされていく。
まあ、偶にそうした弾幕を抜け、船の真上まで到達するなり乗り込んでくる船もあるんだけど……
「ヒャーハー!」
「はい、邪魔ー」
「ブギャッ!?」
砲弾の運搬ついでに蹴り飛ばし、ついでに顔面を踏みつけてやればあっさり倒せる。
うーん、弱い。
「でも、これはまだ先遣隊だしね」
そう、クエスト内容は、三段階に分かれていた。その一段階目、ただの先遣隊相手に苦戦してたら話にならない。
でも……船のHPは、割と削られちゃってるんだよね。
「うーん、どうしたものか」
敵船のHPは、順調に削れてる。このまま行っても問題なく勝てるだろう。
でも、次の段階では? 多分、このままの流れで行ったら厳しい戦いを強いられる気がする。
「ここらで一つ、もっと楽に勝つための道を見つけないと」
何がいいかな? こっちの被害を押さえて、敵の被害を最大化させるいい手段。
一番は、敵船の大砲を黙らせることだと思うけど……ん? いや、そうか。
「いいこと思いついた」
何も、乗り込んでくるのが敵だけである必要はないよね?
そう思った私は、何度目かの砲撃戦の最中、甲板の端へ向けて全力で走り出した。
「えっ、ちょっ、お姉ちゃん!?」
「とりゃああああ!!」
ティアの驚いた声を背中に受けながら、宙に身を投げ出す。
一瞬の浮遊感と、肌を撫でる強風の感覚。これ、もしかしてウィングブーツが使えるんじゃ? と思って起動してみたら、案の定使えた。
まあ、今回はいらなかったけどね。
「よしっ、着地!」
空を跳び、やってきました敵船の只中。
当たり前だけど、辺り一面敵だらけ。既にメガグロちゃん号はその足の速さでもって離脱済みで、味方の支援は期待できず。
でもまあ。
「やっぱり、こっちの方が私らしいし……楽しいよね!!」
じゃらりと、船乗りさん達と少しばかり衣装が違う極悪な面構えをした男達が、曲刀を構えて私を包囲する。
そんな中で、私は両手に杖を構え、にやりと不敵な笑みを浮かべるのだった。
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