第122話 船の完成と設備チェック
まったりとした朝の時間を過ごした私達は、午後になるとFFOにログインした。目的はもちろん、完成した船をみんなと一緒に拝むため。
「こ、これは……!」
というわけで、やってきたのは《天空の城下町》、その港部分。
結構な人数と、私が乱獲したフィールドボスの素材もあって随分と早く完成したからか、まだ他に船を持っている人達はいないようで、だからこそ余計に私達のそれは異彩を放っていた。
まず目につくのは、船首に取り付けられた魚の頭。
ある程度予想してたけど、家すら丸呑みにしそうなそれは迫力があると同時に中々グロテスク。
船体は普通の木造船に見せかけて、所々に魚の鱗が張り付いていたり、空を漕ぐオールはボスのヒレだったりとボスの造形を想起させる。
まあつまり、何が言いたいかというと。
「見た目がきしょい……!!」
「まあ、選んだ素材がメガログボロだしな。でもカタログスペックは悪くなかったから十分だろ。他と比べられないから分からんけど」
私の叫びに、ティアがあっけらかんと言い放つ。
どうやらこの子としては、見た目がどうだろうと性能さえ伴っていればそれでいいらしい。流石ゲーマー。
「ええー、これはこれで可愛げがありませんか? こう、キモ可愛い! みたいな?」
「そ、そうかな?」
一方、そんな風に不満げな声を上げるのは、つい今しがた合流したばかりのサーニャちゃん。
動物好きなのは知ってたけど、これも守備範囲なのか……いや、悪いとは思わないけどね?
「私はお姉様と一緒ならどんな泥船だろうと構いませんわ!! 空の果てまでお供しますとも!!」
「うん、私はそれじゃ困るから一人で乗ってね?」
「ぐふっ、つれないお返事も心地良いですわ……!! もっと罵ってくださいまし」
「ほらみんな、先に船の機能を確認しておくんでしょ? 早くしないと時間になっちゃうよー」
「はーい」
いつも通りなボコミを適当にあしらいつつ、エレインの言葉に頷いて船の中へ。
外観は色々と変な船だったけど、中は結構普通だった。
しっかりとした足場の広い甲板にはずらりと大砲みたいなものが並べられ、船の中にあるのは火薬庫のみ。あ、アイテムボックスもあるね。
どう見てもこの大砲で砲撃戦する気満々だよね。甲板の広さを考えると、お互いに相手の船に乗り込んで戦うみたいなこともするんだろうか?
「この感じだと、砲撃戦をする人と、それを守る人で役割分担した方がいいかもな」
「敵次第だけど、私みたいな盗賊職は砲撃に回った方がいいかもね。魔術師の魔法が届くかどうかによっても変わって来そうだけど」
「場合によっては、近接職は揃って砲撃かもしれないな。まあ、実際にやってみないと分からないのがなんとも……」
「舵はあるけど飾りみたいだし、自動航行なのかな? まあ、そっちの方がやりやすくていいね」
ティアとエレインが、設備を見回りながら実務的な話し合いをしてる。
もし船同士の戦いになるんなら、私みたいなド近接バカは役に立たないもんね。相手の船に乗り込むような戦闘も起きるのかもしれないけど、それがどの程度の頻度で来るのかも現状じゃ分からないし、砲撃のやり方は覚えておかないと。
「砲弾ってどれくらい重いんだろ? 今試し撃ちとかできるかな?」
「試してみます? 私もワッフルが持てるかどうかで結構変わりそうですから、やってみたいですね」
「じゃあ、作戦の方はティアとエレインに任せて、私達はそっち行こうか」
「私も行きますわ!!」
というわけで、私とサーニャちゃん、ボコミの三人で弾薬庫の方へ。
ゴロゴロと無造作に積み上げられた砲弾は、誘爆とか大丈夫かと思わずツッコミたくなる雑さだけど……まあ、ゲームだからいいのかな?
「とりあえず、持ってみよう。よっ、と、思ったより軽いかも」
ひとまず積まれた砲弾の上から一つ持ち上げてみると、すぐにその場所に追加の砲弾が出現した。
……そういう仕様なら、こんな風に積み上げる必要はないような……えっ、見栄えは大事って? まあうん、そうだね。
「では私も……んんっ!? 思ったより重いですよこれ……!」
「えっ、そう?」
「多分、ATKの差じゃないでしょうか……! これは《成獣化》してもワッフルには厳しそうです」
砲弾を持ち上げるなり、少し辛そうな表情を浮かべるサーニャちゃん。
なるほど、ステータスで違いが出るのか。それは考えてなかったなぁ。
「私も少し辛いですわね……両脇に抱えれば一度に二つ運べなくもないですが」
「蛮族はATKの基礎ステータスが高いもんね。私はまだまだいけそうだけど」
「せっかくですから、いくつまで同時に運べるか試してみます?」
「おお、それいいね」
砲弾はただ運ぶだけじゃなくて、運んだ後に装填して発射する件(くだり)があるし、ATKの高いプレイヤーが運び、それ以外のプレイヤーは装填と発砲を担当するっていうのもありかもしれない。
だとすると、私がどれくらい運べるか確かめるのは大事だよね。
「じゃあ二つ、三つ……と」
「お姉様、体が小さいから見ていて危なっかしいですわね……大丈夫ですの?」
「平気平気、まだまだいけるよ」
四つ、五つ、六つ。
「お姉さん、流石にそこまで行くと危なくないですか?」
「まあ、限界がどこにあるか確かめるのが目的だし。とはいえちょっときつくなってきたかな……あ、ATK引き上げればもっといけるかも?」
ということで、《鬼人の丸薬》と《魔法撃》でATKをブースト。よし、これでまだまだいけるね、七つ、八つ、九つ……。
「お姉さんお姉さん、もはや曲芸みたいになってますよ」
「この状態で転んだらどうなるんでしょうか……ちょっと気になりますわね」
「全部誘爆とかなったらやばいねー」
十個、十一個、十二個……。
「おーい、ベル……ってうわっ、何してるの!?」
「あ、エレイン。いやーちょっと、いくつまでなら運べるのかなって試してるところ」
計十五個の砲弾を山のように積み上げた私を見て、後から来たエレインが驚愕の声を上げる。
正直、やってる私から見てもどうして持ててるのか謎だよ。“ベル”の何倍の重量あるんだろう、これ?
「確かにすごいけど……お姉ちゃん、一個聞いていいか?」
「うーん? なに、ティア」
エレインの後ろから顔を覗かせたティアに、私は笑顔で問い返す。
そんな私に向け、ティアは至極真面目な顔で、一言。
「その状態で、どうやってこの扉潜るの?」
「…………」
大量に抱えてこんもりと山になった砲弾と、人が三人並べばいっぱいになりそうな火薬庫の出入り口。
双方を見比べて、私はそっと砲弾を元の場所へ戻し始めるのだった。
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