第119話 忘れられた報酬とティアの演説
「お姉様、お疲れ様ですわぁぁぁぁ!!」
「うん、ありがとねーボコミ」
「ふんごぉ!?」
訓練施設から出るなり、待ち構えていたかのようにボコミが飛び掛かってきた。
まあ、実際待ち構えていたのは間違いないだろうから、私はいつものように叩き伏せ、踏んづける。ぐりぐり。
「あああ!! やっぱりお姉様の責めが一番ですわぁぁぁぁ!!」
「ボコミはいつも元気だねー」
『安定のボコミ』
『打たれ強さだけは間違いなく最強』
『このノリをリアルでもやってるとしたら、なんで通報されないのか不思議である』
『さすがにやらないだろ……やらないよな?』
ごめんなさい、やってました。
なんて言えるはずもなく、適当に笑って誤魔化す。
あはは、今日もいい天気だねー! 天気が変わるような機能は実装されてないから、いつもこの天気だけど!
「ところでお姉様、私は訓練施設の特殊クエストはまだ手をつけていないのですが、報酬はどんなものだったんですの?」
「ああ、そういえば報酬貰ったんだった」
戦うことそのものが目的だったから、すっかり忘れてたよ。
なんてこと口にしたら、コメント欄はおろか、未だ私に踏みつけられたままのボコミにすら呆れ顔を向けられた。解せぬ。
『クエスト受けて報酬は二の次とかさすがベルちゃん』
『バトルジャンキーの鑑』
『これにはロジャーも涙目』
「お姉様、これは私も擁護出来ませんわ」
「ボコミに真顔で言われると、なんか私がボコミ以上の変人になったみたいで納得いかない」
『いや変人だよw』
『こんな危険な幼女がノーマルであってたまるかw』
「全くですわ」
「えぇ!?」
みんな酷くない!? 私はただ妹を愛してるだけの一般お姉ちゃんなのに!!
ところでボコミ、私そろそろ足退けた方がいい? えっ、もうちょっと? そうですか。
……そっかぁ、これ以上なのかぁ、私。うん、これからは気を付けよう、色々と。
「それじゃあ、手に入ったアイテムと称号公開するよ」
名称:海賊王
種別:称号
効果:海賊王ロジャーを越えた者の証。港のNPCとの取引にボーナス。
名称:海賊王の首飾り
種別:アクセサリー
装備条件:レベル30以上
効果:ATK+10、DEF-10、AGI+5
「ほほー」
私の足元で至福の表情を浮かべてるボコミをぐりぐりしつつ、それぞれの効果を確認すると、首飾りの方は中々の効果だった。
うん、DEFが下がっちゃうけど、私は元々被弾したら負けみたいなところあったし、ATKに加えてAGIまで少し上昇するのは普通に良い効果だ。
これは思わぬ拾い物。うーん、チュートリアルの時といい、ロジャーは気前いいなぁ。
『良い装備じゃねえか』
『称号はなんだろ、取引ってことは割引してくれるんかな』
『船乗りがやってる屋台とかのショップで安く買い物出来るな。後地味に会話内容変わる』
『いいじゃん』
『普通はこれを目的に挑むんだけどなぁ』
『まあベルちゃんだしな』
「あーあー、聞こえない聞こえなーい」
実際にはテキストで流れてるんだけど、それらしく耳を塞いで聞こえませんアピール。
いや見てるじゃんw という予想通りのツッコミを受けて笑いながら、私はいい加減規制されそうな表情になりつつあったボコミを助け起こした。
「はあはあ……至福でしたわ」
「うん、学校では自重してね?」
「善処しますわ」
本当に、これがあの成瀬さんだと思うと色々と複雑なものがあるね。人は見かけによらないというかなんというか。
「さて、それじゃあそろそろ時間だし、行こうか」
「今日はイベントに挑むメンバーとの決起集会があるんでしたわね」
「そうそう。ティアが珍しく自分から音頭を取るって言ってるし、ムービーに残して永久保存しなきゃ」
『どこのかーちゃんだw』
『もうそんな時間か』
『俺も集会お呼ばれしてるから行かないと』
『頑張れ、俺は募集落ちたから応援してるわ』
『俺は普通に仕事でイベント自体参加できねえ(泣)』
「あははは……今回ダメだった人も、そのうちまた同じような企画やると思うから、その時はよろしくね」
『楽しみにしてるわ』
『俺、その時までに転職するんだ……ゲームたくさん出来る会社に……』
『お、おう、頑張れよ』
なんだか悲しげな雰囲気のコメントが流れていった気がするけど、あまりにも世知辛いので見なかったことにしよう。
そういうわけで向かったのは、私達のギルドホーム……ではもちろんなく、サーニャちゃんがギルドのサブホームとして解放してくれたツリーハウスだ。
なんでも、「どうせならみんなにもテイムされたモンスターにふれあって貰って、テイマー人口を増やしたい!」とのことで、今後私達のギルドで何かある時は、基本的にそちらを利用することになると思う。
何せ、メインで建てられたギルドホーム、フィールドボス出現エリアの只中だもんね! 気軽に集まるのは絶対無理だ。それを狙って作ったからいいんだけど。
「うわー、結構集まってるね!」
そういうわけで、ツリーハウスに到着。既にみんな集まっていたようで、かなりの人集りが出来ていた。
剣士に魔法使い、シスターに盗賊、ケモ耳にエルフに髭もじゃドワーフっぽい人まで、見ているだけで楽しくなりそうなくらい色んなプレイヤーがひしめいている。
あ、クッコロさんもいる。隣にいるのは……えっ、半裸の男? なんで?
「お姉ちゃん」
「あ、ティア!」
一瞬見えた気がする変質者のことを頭の隅にポイと投げ入れ、私は愛しの妹へ抱き付いた。
うへへ、ティアの感触は久しぶりだなぁ。
「わっ、と……もう、お姉ちゃんは……」
飛び付いた私を抱き締めて、困ったように笑うティア。でも、その表情はどこか楽しげだ。
それが分かるからこそ、私もまた笑顔で返していると、奥から更に二人の人物が現れた。
「やっほーベル、その首飾りを見るに、海賊王には勝ったみたいだね」
「エレイン、サーニャちゃんも! うん、体の調子は絶好調。どんなイベントだろうとこなしてみせるよ」
「おー、頼もしいですね、お姉さん」
いつものメンバーが揃い、和気あいあいとお喋り。そうしていると、集まったプレイヤーのみんなも私達に気付いたようで、自然と視線が集まってきた。
「ほら、ティア。まずは演説からだよ」
「う、うん」
エレインに促され、ティアが一歩前に出る。
普段から配信はしていても、これだけの人の前で話す経験は初めてだからか、すごく緊張してるみたい。右手と右足が同時に出てて可愛い。
「ん、んんっ……み、みんな、集まってくれてありがとな。知ってる人も多いかと思うけど、この前お姉ちゃんが倒れて……一人になったオレに、コメントで色々とアドバイスをくれた人達には、この場で改めて礼を言わせてくれ」
久しぶりに聞くティアの姉御口調によるお礼に、「気にすんなよー」とか「元気になったみたいで良かったよ」なんて温かい言葉が送られる。
そんな反応を見て緊張が緩んだのか、少しばかりその表情から固さが取れたみたい。
「今回のイベントは、FFOが始まってから最大規模だ。アーサーの奴なんかも自分とこのギルドメンバーを総動員するみたいだし、オレとしても当然奴には勝ちたい。だけど……」
そこで一度言葉を切って、周囲を見渡す。
後ろに控えていた私と目が合い、少しだけ不安そうなその瞳に頷き返すと、ティアは殊更大きく口を開く。
「今回は何よりも、ここにいるみんなと楽しむことを優先したい。オレみたいな口下手でも、たくさん応援して力になってくれたみんなと一緒に、みんなで作り上げたこのゲームの世界を、思いっきり楽しみたい!」
杖を掲げ、空に向かって炎を吹き上げる。
空中で爆ぜたその光は、まるでティアの思いを反映するかのように、煌々と燃える太陽となってみんなを照らした。
「大規模イベント、《襲来! 空挺海賊団!》……最後まで遊び尽くすぞ!!」
おおーー!! と、盛大な歓声がその場に轟き。
私にとって初めてとなるFFO公式イベントが、ついに幕を開けた。
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