第115話 姉妹の愛の巣と哀れな番犬

「ギルドホーム……お姉ちゃん、隠れてこんなもの作ってたんだ」


「うん! ココアもだけど、ティアも基本的にソロかエレインと組むくらいで、ギルドとは縁がなかったって聞いたし」


 満を持して紹介したホームを呆然と見詰めるココアに、私は深い満足感を得つつそう説明する。


 ココアは一応ホームを持ってるけど、あれは小さすぎてギルドホームとしては機能しないみたいだしね。


 初心者だって私に偽るためにあのサイズにしたんだろうと思ってたけど、実はティアの方も似たような荷物置き用の小さなホームしか持ってないらしくて……ちょうどいいと思ったのが理由の一つだ。


『なるほど、ティアちゃんぼっちだもんな』

『おいぼっちとか言ってやるな、孤高と言え』

『友達いないことに変わりなくない?』


「こ、これから作るし! というか、その……」


 もじもじと指先を弄り回しながら、ちらりとカメラに目を向ける。

 緊張と自信の無さからやや顔を俯かせながらも、勇気を振り絞った結果として自然に上目遣いになり、そして……


「これからは、その……フレンド申請、ちゃんと受理するから……みんな、仲良くしてくれると……嬉しい」


 そんなことを、口にした。


 端から見ていた私ですら、あまりの可愛さに悶絶しそうになるそれを向けられて、正気を保てる人間なんているわけがない(断言)。

 事実、コメント欄はあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図に変貌した。


『ぐっはぁぁぁぁ!!(吐血)』

『ココアちゃん可愛すぎかよ……!!』

『えっ、それってティアちゃんもってこと!?』

『うおぉぉぉ!! フレンド申請送らなきゃ!!』


「あ、いや……さすがに無言で送り付けられても全部には反応出来ないから、出来れば直接会いに来るか、コメント欄に一言欲しい……」


『了解!!』

『ココアちゃんフレンドになってぇぇぇぇ!!』

『ちょっと会いに行ってくる』


 一気に流れていくコメント欄。目が回りそうなその速度に、ココアも少し戸惑い気味。

 本人も、ここまで反響があるとは思ってなかったんだろうね。


 この子が自分からこんなこと言い出すなんて、成長したなぁ……お姉ちゃん嬉しい。


 でも、変な奴が湧いたら即座にぶっ飛ばすからね? そこ勘違いしないでね? ん?


「まあ今は、先に中の案内するよ。ついて来て」


 カメラに睨みを利かせ、視聴者さん達を軽く竦み上がらせてから、ココアを連れてホームの中へ。

 外観は素朴な感じで纏めてあるけど、内装は中々に豪華。

 ギルドホームとしての機能を活用するために、リビングは広め。アイテムを収納する共有ストレージボックスに、まったり寛ぐためのソファやテーブル、動画視聴用のテレビなんかもある。ゲームの中でテレビを見るってどうなんだろうね?


 そんなリビングから繋がるのは、メンバー用の個別ルームに繋がる扉(別エリアに飛ぶから、全員同じ扉から出入りするみたい)ともう一つ。

 鍛冶、裁縫、料理、調合と、ゲーム内で揃えられる最高品質の設備を、これでもかと押し込んだ作業部屋だ。


「個別ルームの方はギルドに登録しないと作成されないから、まだ手付かずだけど……作業部屋は実質ココア専用だね! どう? 気に入った?」


「すごすぎて何も言えない……というか、これ全部とんでもなく高いと思うんだけど。アーサー、よく払ってくれたね」


「『愛する者へ、せっかくのプレゼントなのだろう? なら限界まで拘り抜くべきだ! 何、金のことなら心配するな、はっはっは!』って言ってたから、大丈夫じゃない? 多分」


 打ち合わせ中に飛び出たそのセリフの直後、この前一緒にいたパーティメンバーの女の子達にタコ殴りにされる映像がちらっと見えた気がするけど、気のせいだと思う。

 そういうことにしておこう。


「そっか。まあ、アーサーの金だしね。使い潰しても問題ないか」


『この子ら容赦ねえw』

『まあアーサーだしな』

『あいつもこんな美少女姉妹に貢げて満足だろう。多分』


 容赦ないと言いつつ、視聴者さん達も最終的には『まあアーサーだし』で流しているあたり、あの人のキャラクターが窺える。

 根は悪い人じゃないと思うんだけどね。ただひたすら女の子に甘いから、未だに要警戒対象だよ。


「でも、こんなすごいホームを、なんでまたフィールドボス出現エリアに……? 出入り、面倒じゃない?」


 このFFOでは、プレイヤーホームをどんな場所にでも建設出来る。

 とはいえ、流石にフィールドのど真ん中とかにすると、町とホームとの行き来が面倒になるし、フィールドボス出現エリアなら出入りの度にボスを薙ぎ倒さなきゃいけなくなる。


 なのにどうして、というココアの問いに、私は待ってましたとばかりにその理由を口にした。


「そりゃあ、ほとんど誰も来れない場所で、妹と二人っきりの愛の巣を作りたかったからだよ!!」


「も、もう、お姉ちゃん、そんな直球に……!」


『だろうと思ったよ!w』

『この子本当に頭の中妹のことしか入ってないな』

『いつものことである』

『ギルドホームなんて言うから、てっきりイベントに向けた大規模ギルドを作るんだろうと早とちりした俺の期待を返せ!w』


 私の欲望丸出しの理由に、ココアは照れたように顔を赤らめ、視聴者さんからは最初から知ってたと言わんばかりのコメント。

 ただ、最後の一言には訂正があるね。


「あ、ギルドはちゃんと作るよ。それも一応ギルドホームを作った理由の一つだし」


『あれ? 愛の巣という話はどこに?』

『ギルドメンバーなら出入り自由となってしまうが?』


「そうだね。でも別に、ギルドメンバーだからってボスを倒さずにここに来れるわけじゃないからね。私達ですら毎回倒さなきゃ出入り出来ないし」


『【悲報】フィールドボス、番犬扱い』

『いや確かにギルメンに加えるだけなら申請受理するだけで出来るし、ホームに足を運ぶ必要はないけどさぁ!w』

『ギルドとは一体w』

『番犬として使い倒されながら、ノックくらいの手軽さで乱獲される運命が決まってしまったボスに同情を禁じ得ない』

『哀れすぎる……』

『まあでも、同じギルドに所属出来るだけでも大分お近づきになれる気はする』

『加入条件とかあるの?』


「ないよ。というか、それが最初に言ってた重大発表のメインだね。今度行われる夏イベントは、視聴者のみんなから募集したメンバーで挑もうと思います!」


『おおー!!』

『マジか、じゃあ俺もいけるな!!』


「一応人数制限はあるけどね。私が入院してる間、妹がお世話になったみたいだし、その感謝もかねて一緒に遊ぼう! っていう企画だよ。だから、その時にアドバイスくれた人を優先しちゃうけど、そこは許してね」


『是非もなし』

『まあ妥当だな』


「ギルド名は配信ページに載せておくから、我こそは! って人はメッセージお願いね。メンバーが確定したらまたコメント出すから、その時をお楽しみに!」


 そう告げると、コメント欄がまた一際強く盛り上がりを見せる。


 さーて、初めての視聴者参加型企画だ。どういう人達が集まるのか……いや、正直いつも通りの変人ばっかりになりそうな気もするけど、楽しみだね!

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