第114話 復帰初戦と哀れなボス
「みんなー、久し振りー!」
『わこつ!』
『ベルちゃん元気になったんだな』
『良かった良かった』
「うん、もう完全復活! 今まで以上に張り切って行くよ!」
『そういや、倒れるくらいフラッフラの状態でアーサーに勝ったわけだもんなこの子』
『本当に今まで以上に暴れそうで怖い』
雫の復帰祝いを食べ終えた私は、早速FFOにログインして、心配してくれた視聴者のみんなに元気になったところをアピールした。
いつも通りに怖がられたけど、これはこれで帰ってきた感じがして落ち着くね。
「それから、私がいない間、妹の家事を見てくれてたんだよね? 本当にありがと、私からもお礼言わせて」
『あれくらい問題なし』
『俺らアドバイスしただけだしな』
『むしろお姉ちゃんのために一生懸命料理するティアちゃん見れて役得』
『最初の方とかあたふたしてて可愛かったし』
『最後は最後でお姉ちゃんに退院祝い何作ろうかってソワソワしてたの天使だったわ』
「そ、そんなことべらべらしゃべるな……!」
私と一緒にログインしていたココアが、流れるようになされていくカミングアウトに顔を赤くしていく。
うん、でもごめん雫、実は私、天衣ちゃんに貰ったビデオレターのお陰で、今流れてた情報はとっくに知ってるんだ。
私の秘蔵雫コレクションがより潤沢になったよ。いやー、たまには入院も悪くは……いや悪いね、やっぱり雫と触れ合えないの地獄過ぎたし。
「さてとりあえず、今日はアーサーさんとの決闘でぶん獲った報酬のお披露目と……それに合わせた重大発表がありまーす!」
『おお?』
『お披露目は分かるけど、重大発表か。なんだろ』
『イベント絡み?』
「ふふ、勘の良いみんなはちょっと黙っててね?」
口の前で人差し指を立て、ウィンクを一つ。
それだけで、なぜかコメントは『ひゃっほぅ!』みたいな感じで盛り上がるし、ココアはココアでカシャリとスクショなんか撮っていた。
……みんな、この幼女アバター好きだなぁ。中身は高校生なんだけど。
「それじゃあ、出発!」
気を取り直して向かった先は、以前に攻略した《樹海エリア》の更に先に広がる《湖畔エリア》。森の中にぽっかりと空いた空間に、巨大な湖が配置されたマップだ。
現在実装されている中では、最大難易度を誇るエリアとされているんだけど……その理由は、単純に敵のレベルが一番高いこと、道幅が狭くて行動範囲が狭まること。それから、
「ギキエェェェェ!!」
常に道の横に広がっている湖から、モンスターが不意打ちを仕掛けてくる可能性があるからだ。
「よいしょっ」
「ギエッ!?」
無駄に顔が大きく胴体が細い、竜頭蛇尾を体現したかのようなドジョウ型モンスター、ソルグボロ。
ピラニアみたいなギザギザの歯を剥き出しにして襲いかかってきたそいつの顔面に杖をぶち込み、足元に叩き落とす。
そうしていると、二体目のソルグボロが飛び掛かってきた。
「ギキエェェェェ!!」
「ほいっと」
「ギエッ!?」
「なんかこうしてると、トビウオの群れに突っ込んだ船みたいな気分だよねー。ほら、知ってる? トビウオって船が近付くと外敵が来たと勘違いして、自分から船の上に飛び込んで来ちゃうんだよ」
「……そ、そうなんだ」
足元でビチビチと跳ねるソルグボロを踏みつけてトドメを刺しながら、ココアへさりげない雑談を投げ掛ける。
なぜか若干、顔を引き攣らせてるように見えるけど、きっと気のせいだろう。
『ベルちゃん絶好調で草』
『ソルグボロの不意打ちが自分から捕まりに来る食料扱いで涙を禁じ得ない』
『人型以外のモンスターは苦手とはなんだったのか』
「あー、そんなことも言ってたね。うーん、なんだろう、アーサーさんとやり合ったせいかな? なんか来そうだなって分かるようになった」
『すっげー曖昧な理由なのにすっげー理不尽な力で本当に草なんだけど』
『現状最高難度もベルちゃんからすれば散歩コースか』
『今頃本当に運営泣いてるんじゃね?』
なぜだか運営さんが同情される一幕を経ながら、私とココアは先へ進む。
でも本当、今日は調子が良いんだよね。自分では自覚してなかったけど、やっぱり倒れるくらいには疲労が溜まって感覚が鈍くなってたのかもしれない。
実際、このエリアで出くわすモンスター達は、そのほとんどが相手にならなかった。
さっきのソルグボロ以外にも、槍を持った半魚人のサハギンに、集団で襲い掛かってくるトビピラニアなんてのも出てきたけど、どれも鎧袖一触。適度に土属性魔法でトドメを刺しながら、サクサクと攻略を押し進めていく。
「これ、私いらないかも……?」
「ココアは必須だよ、居てくれるだけで私のスペックが三倍くらい変わるから」
「さ、三倍は言い過ぎじゃない……?」
「そんなことないよ。大好きなお姫様が後ろにいると強くなれるのは、何も物語の勇者に限った話じゃないんだからね」
実際、私は雫を守るためだったら、熊だって殴り殺す自信がある。
いや、流石にやらないけどさ。雫が危ないし。
「お、お姫様は言い過ぎ……」
「じゃあ天使の方がいい?」
「そ、そういうもんだいじゃ……!」
「愛しのお嫁さん」
「っ……! ば、ばかっ」
お嫁さんという言い方がお気に召したのか、顔を真っ赤にしながらぽかぽかと私の肩を叩いてくる。
いやぁ、可愛いなぁ……私にとってはもう、お姫様で天使で嫁だよ。もう可愛いの全乗せ状態。語彙が壊れそう。
『なんかこう、この二人が惚気てるのを見て安心する俺がいる』
『帰ってきたなーって感じ』
『お前らのせいで砂糖がなきゃ生きられない体になったぞどうしてくれる』
『いいぞもっとやれ』
「じゃあ、もっとやろっか?」
「の、のせられるなぁ! ここ普通にモンスター出るんだからね!?」
コメントの要望通り、もっとストレートに愛情表現しようとしたら、当のココアに止められてしまった。
まあ確かに、ここはフィールドだもんね。安全地帯でやらないと無粋な邪魔が入って鬱陶しいか。
「じゃあ、さっさとフィールドボスを倒そうか。そこが目的地でもあるし」
「フィールドボスの討伐が目的だったの?」
「どっちかというと、その場所そのものかな」
首を傾げるココアにニヤリと意味深な笑みを向けつつ、更に奥へ。
やがて、私達は湖畔エリアの中央、桟橋で繋がれた先にある離れ小島に到着した。
「来るよ」
「ギャボォォォォ!!」
エリアが切り替わり、フィールドボスとの戦闘が始まる。出現したのは、ソルグボロの体を巨大化させ、より凶悪な顔面を持たせたようなグロテスクな化け物。
湖畔エリアのフィールドボス、メガログボロだ。
「さて、それじゃあサクッとぶっ殺しますか!」
『はいベルちゃんから殺害予告入りました』
『こいつ一応、かなり強いボスなんだけどな?』
『初見狩り当たり前みたいな感じが恐い』
「ううん、初見じゃないから大丈夫」
『ん?』
『いやでも、このエリア来るの初めてなんじゃ?』
「アーサーさんとティアの動画で、このボスの動きは全部把握しといたから。実質プレイ済み」
『草』
『草』
『それをプレイ済みとは言わないw』
視聴者さん達には何をバカな、みたいな感じで笑われちゃってるけど、多分問題ないと思うんだよね。
というわけで、さっさと殺っちゃおう。
「ココア!」
「やっと出番……《オフェンシブオーラ》、《エスケープオーラ》」
若干不満の声が聞こえた気がするけど、それについてはこの後のサプライズで許して貰うとしよう。私自身、そのお披露目が楽しみ過ぎてあまり時間をかけたくなかったのもあるし。
というわけで。
「いつもならじっくり楽しむところだけど……今回は、速攻で終わらせて貰うよ!! 《フレアドライブ》、《魔法擊》!!」
『いや、いつも速攻で終わってるような……』
『しーっ!』
『君のような勘の良いガキは嫌いだよ』
いつものように突っ込みが入るコメント欄を無視して、メガログボロに正面から吶喊。
それに合わせるように、その巨大な口がガパリと開き、中から水の砲弾が放たれた。
「グボァァァァ!!」
「よいしょっと」
奇怪な鳴き声と共に放たれたそれを、軽く前転して回避。やや放物線を描きながら後ろに着弾し、辺りに飛沫を撒き散らす音を聞きながら、私はメガログボロの懐へ飛び込んだ。
「せやぁぁぁぁ!!」
二本の杖を高速でぶん回し、殴る、殴る、殴る。
強化された炎の一撃がヌメリとしたメガログボロの体を焼き焦がし、ゴリゴリとHPを削り取っていく。
「グボァ!!」
纏わり付く私の攻撃を嫌ったのか、図体の割に小さなヒレが私目掛けて振り抜かれる。
ぐるりと体ごと回転するように放たれた一撃は、まともに食らえば一発で死に戻りかねない威力だけど……
「ほいっと」
まあ、当たらなければ関係ない。
軽く飛んで躱しながら、私は休むことなく殴り続ける。
『いや待って、もうHPが三割以上消えてるんだけど』
『早っ』
躱された右のヒレに代わり、続けて繰り出される左のヒレ。
とはいえ、この動きはもう予習済み。難なく躱して攻撃を続行。
「グボッ、オアァ」
あまりにも短期間にダメージが蓄積したために、メガログボロはダウン状態に。
隙だらけだから、ここぞとばかりにペースを上げてひたすら殴る。これで残りは四割。
「グボァァァァ!!」
何とか復帰したメガログボロが、全方位を薙ぎ払うように回転しながら、水のブレスをぶちまけた。
一見、至近距離では逃げ場が無さそうに見える攻撃だけど、アーサーさんが既に安全地帯を見付け出してる。それは、
「よいしょー!」
メガログボロの真上だ。
しかもこの攻撃、一度使った後は隙だらけで、次の行動に移るまで時間がかかる。
要するに……
「これで終わりだよ!!」
無防備なメガログボロの図体を、ひたすらに殴打。焼き魚にしてやるくらいの心意気で、徹底的に殴り倒す。
「――よしっ、三十秒以内! やった!」
結果、いともあっさりとフィールドボスはポリゴン片と化し、私の経験値に成り果てた。
この早さは予想外だったのか、ポカンと口を開けたまま固まるココアの元へ駆け寄った私は、その手を握って離れ小島の奥へと誘う。
「まさか、本当に瞬殺するとは思わなかった……それで、どこいくの?」
「まあまあ、ついてくれば分かるよ」
そう言って、島の端に到着した私は、メニューを操作して表示を切り替えると……
そこに、大きな木造のプレイヤーホームが出現した。
「……へ?」
フィールドボスを瞬殺した時以上に驚いた顔を見せるココアの反応に満足しつつ、私は胸を張ってそれを紹介する。
「ふふふ、これがアーサーさんからぶん獲ったコラボ企画の賞品、私とココアのギルドホームだよ!」
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