第103話 神速騎士と氷嵐の魔女
振り下ろされる剣を見るや、私は咄嗟に杖を振り抜く。
反射的に動いただけで、ロクな狙いもつけてなかったけど、運良く剣を弾き返すことが出来た。
あ、危なかった……!!
「よく防いだね、だが、次はどうかな……!?」
「くっ……!」
またもかき消えるようなスピードで背後に回り込んできたアーサーさんの剣を、勘だけを頼りに弾く。
右へ、左へ、背後かと思えば正面へ。エレインを彷彿とさせるスピードで襲いかかってくる攻撃を、私は二本の杖でどうにか捌いていく。
圧倒的なスピードに、私はついていくのもやっと。しかもどうやら上がったのはスピードだけじゃないようで、弾く度に腕が一瞬だけ痺れるような手応えがある。
これ、もしかしなくてもATKまで上がってるよね……!!
「随分すごい隠し球だね……! 何このスキル強すぎない?」
「だろう? 《剣身一体》は戦士限定のスキルでね、一定時間、ATKとAGIを大幅に引き上げてくれる効果がある。代わりに、他のスキルは一切使えなくなるけどね」
「それ、この状況じゃほとんどデメリットないじゃん……!」
スキルを利用した攻撃の強みは、通常攻撃じゃ出せない威力の高さと、モーションアシストによる挙動の素早さにある。
でも、死にかけの私相手に威力なんていらないし、素早さに関しても、こと対人戦闘においては単純なスピードよりも読みづらい不規則さの方が厄介。習得出来るものなら、私だって今すぐ習得したいくらい有能なスキルだよ。
「スキルなしで立ち回れるプレイヤーはさほどいないから、玄人向けであまり人気のないスキルなんだけどね。君ならそう言ってくれると思っていたよ」
理解者が得られて嬉しいのか、どこか弾んだ声色で答えるアーサーさん。
速すぎて表情までは読み取れないけど、段々目が慣れて来たお陰か、少しずつその動きを追えるようになってきた。
とはいえ、現状は薄氷一枚張った湖の上を、足場を確かめる余裕もなく全力で駆け抜けてるみたいなものだ。いつ崩壊してもおかしくない。
これを覆すには、私も同じくらい速く動けないと無理だ。でも、どうすれば。
「そこだ!!」
「あっ……!」
思考のせいで動きが鈍り、パリィの瞬間僅かに体勢が崩れてしまう。
その隙を、アーサーさんは嬉々として突いてくる。
「これで、トドメだ……!」
「まだまだ! 《エアドライブ》!!」
風の強化によって体を軽くし、迫る剣ではなく地面をぶっ叩く。
反動によって体が真上に跳ね上がり、辛うじてアーサーさんの剣から逃れられた。ふう、危ない危ない。
「逃がさないよ……!」
でも、それで一息吐く暇なんてアーサーさんが与えてくれるはずもなく。即座に地面を蹴り、私のいる上空まで飛び掛かって来た。
「っ……しつこい男は、モテないよ!!」
そんなアーサーさんに向け、杖をひと振り。纏う大気を砲弾として放ち、叩き落とそうとする。
「そうか、それは残念だ、っと!!」
でも、そんな私の一撃を剣を盾にしてあっさり防ぎ、その勢いを殺さずに背後へ飛翔。決闘エリアの壁を蹴り、角度を変えて再度襲い掛かってきた。
エアドライブの中距離攻撃で上から攻撃すれば、一方的に攻められるかと思ったけど、そう都合よくはいかないか。
「はあ!!」
「っ!!」
迫る刃を弾き返すも、その反動でまた私は弾き飛ばされる。
アーサーさんに一撃当てるなら、やっぱり速度の面でどうにかこうにか追い付かないと無理だ。
先読みも限界があるし、ココアのサポートもない。AGIを引き上げるようなスキルもないし……ああもう、せめてこの吹っ飛ばされる勢いをずっと維持したまま自由に動けたら……! ん?
「そうか、その手があった!! 《アイスドライブ》!!」
「むっ」
吹き飛びながら、私は空中で氷の属性強化を発動。進行方向に対して斜めに杖を振るう。
杖の軌道に沿って、生成される氷の塊。それに体を滑らせることで方向を調整し、最後に杖でぶっ叩く。
叩いた衝撃で砕け散った氷片を置き去りに、私の体は更に加速した。
「何……!?」
「うりゃああああ!!」
空中を文字通り跳ね回りながら、いくつもの氷塊を生成してはぶっ壊し、加速、加速、加速。
最初は移動方向の制御で手一杯だったけど、すぐにコツを掴んで移動しながらアーサーさんへ風弾を飛ばす余裕も生まれてくる。
「くっ……!」
でも、それは見事に躱された。
私が速くなってようやく反撃の余裕が生まれたけど、アーサーさんが速いままじゃ攻撃が思うように当たらない。
だったら、まずはそれを奪う!
「《空歩》! はあぁ!!」
空中を蹴り、出来るだけ勢いを保ったまま鋭くターン。アーサーさんの足元をぶん殴る。
それによって屹立した氷柱が、見事その足首を捕らえた。
「これくらい……!?」
でも、それくらいならアーサーさんだってすぐに脱出すると思う。だから、勝負はこの一瞬。
ここで、終わらせる!!
「うりゃああああ!!」
氷塊を足場に、《空歩》を駆使し、狭い決闘エリアの中をピンボールのように跳ね回る。
四方八方から風弾を飛ばしてアーサーさんをその場に釘付け、時には直接殴りかかることで動かない体を更に氷漬けにしていく。
「くっ、くそ……! これは、まずい……!」
ガリガリと削れて行くHPを前に、アーサーさんは初めて焦りの表情を浮かべる。
もしかしたら、《剣身一体》のスキルは任意で終了させられないのかな? こんな風に動きを封じられた今、スキルが使えないっていうデメリットがダイレクトに響いてるのかもしれない。
必死に剣を盾代わりに、勝負を捨てずに凌ぎ続けるその姿は、敵ながら天晴れ。正直、今回は私も本当に負けるかと思ったよ。
だからお礼に――全力で叩き潰してあげる。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
防御に徹するアーサーさんを、殴る、殴る、ただひたすらに殴りまくる。
速度に任せ、反撃されないように風弾とヒットアンドアウェイを徹底し、流れるコメントを目で追う余裕もない中で、いたぶっていたぶってその
時折反撃の剣を捩じ込まれるけど、さっきからずっと高速戦闘を続けて来たお陰でもう完全に目が慣れた。パリィで弾き返し、武器ごと腕を氷漬けにして、ついでに風弾を叩き込む。
「これで……!!」
ものの数秒の間に繰り広げられた激しい攻防の末、ようやく埋まったお互いのHP差。
残り一割を切ったアーサーさんのそれを見据え、私は頭上から全速で降下した。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
「くっ……そぉぉぉぉ!?」
両の杖を叩き込み、聳え立つ氷柱がアーサーさんを飲み込むと同時、風弾に砕かれ氷華となって空に舞い散る。
それはさながら、戦いの終演を彩る花吹雪のように――
HPバーがゼロを刻み、倒れ伏すアーサーさんの頭上へと降り注ぐのだった。
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